今年、テレビドラマ『JIN ―仁―』が大変な評判となりました。視聴率は毎回20%前後を獲得したそうです。このドラマは村上もとかの漫画を原作としたものであり、今年放送された漫画原作のテレビドラマとしては他にも『鈴木先生』『アスコーマーチ!』『IS ~男でも女でもない性~』『ろくでなしブルース』『桜蘭高校ホスト部』『荒川アンダーザブリッジ』『名探偵コナン 工藤新一への挑戦状』等があります。

本稿では漫画原作の実写作品がどのような特徴を持っているのか、そして漫画が実写作品の原作供給源としてどのような役割を果たしたのかについて、1950年代まで遡って俯瞰してみたいと思います。


まずは1950~60年代の実写映画の原作供給源を見てみましょう。この時期の実写映画の原作には幾つかのパターンがありました。

パターンの1つ目は、原作なしのオリジナル企画です。
昭和の日本映画界には優れたストーリー考案能力を持った映画人が豊富に存在していました。

パターンの2つ目は、日本の古典文学、歌舞伎、講談、伝承などを原作とした作品です。
『源氏物語』『雨月物語』『好色一代男』『幕末太陽傳』『水戸黄門『忠臣藏』『四谷怪談』『遠山金四郎』『里見八犬伝』等がこれに当たります。

パターンの3つ目は、20世紀日本の小説を原作とした作品です。
長谷川伸、村上元三、吉川英治、山岡荘八、大佛次郎、五味康祐、中里介山、野村胡堂、山手樹一郎、林不忘、司馬遼太郎、松本清張、川端康成ら多くの小説家の小説が映画化されました。

パターンの4つ目は海外の文学や演劇、伝承等を原作とした作品です。

『どん底』(昭和32年)
『蜘蛛巢城』(昭和32年)
『或る剣豪の生涯』(昭和34年)
『釈迦』(昭和36年)
『秦・始皇帝』(昭和37年)
『天国と地獄』(昭和38年)
『大魔神』(昭和41年)

等が該当します。

パターンの5つ目は、漫画を原作とした作品です。

『あんみつ姫』(昭和29年、原作・倉金章介、主演・雪村いづみ)
『サザエさん』(昭和31年、原作・長谷川町子、主演・江利チエミ)
『赤胴鈴之助』(昭和32年、原作・福井英一、主演・梅若正二)

等があります。
喜劇映画や活劇映画の原作として漫画が用いられていた訳ですが、この時代の日本映画にとって、原作供給源として漫画の比重は低かったということです。

続いて1950~60年代のアニメ映画の原作供給源を見てみましょう。
この時代のアニメ映画の原作供給源は、基本的には実写映画と同様です。

原作なしのオリジナル企画の他、日本の伝承・古典文学を原作とした

『安寿と厨子王丸』(昭和36年)
『わんぱく王子の大蛇退治』(昭和38年)

中国の伝承・古典文学を原作とした

『白蛇伝』(昭和33年)
『西遊記』(昭和35年)

西洋の伝承・古典文学を原作とした

『長靴をはいた猫』(昭和44年)

がある一方、

漫画原作のアニメ映画は

『サイボーグ009』(昭和41年)

等あまり多くありません。

今度は1950~60年代の特撮テレビ番組に目を向けてみます。
この時期の特撮テレビ番組には漫画原作の作品が多いです(勿論、原作なしのオリジナル作品もあります)。

『まぼろし探偵』(昭和34年、原作・桑田二郎、主演・加藤弘)
『少年ジェット』(昭和34年、原作・武内つなよし、主演・中島裕史/土屋健)
『鉄腕アトム』(昭和34年、原作・手塚治虫、主演・瀬川雅人)
『鉄人28号』(昭和35年、原作・横山光輝、主演・内藤正一)
『忍者ハットリくん』(昭和41年、原作・藤子不二雄A、主演・野村光徳/野村好徳)
『悪魔くん』(昭和41年、原作・水木しげる、主演・金子光伸)
『丸出だめ夫』(昭和41年、原作・森田拳次、主演・保積ペペ)
『マグマ大使』(昭和41年、原作・手塚治虫、主演・江木俊夫)
『河童の三平 妖怪大作戦』(昭和43年、原作・水木しげる、主演・金子吉延)
『柔道一直線』(昭和44年、原作・梶原一騎、作画・永島慎二/斎藤ゆずる、主演・桜木健一)
『サインはV』(昭和44年、原作・神保史郎、作画・望月あきら、主演・岡田可愛)
……等

子供向け特撮テレビ番組の原作として漫画が重宝されていたことが伺えます。

時代が1970年代に入りますと、一般向け映画、一般向けテレビドラマの原作として盛んに漫画が用いられるようになります。

映画としては

『あしたのジョー』(昭和45年、原作・高森朝雄、作画・ちばてつや、主演・石橋正次)
『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』(昭和47年、原作・小池一夫、作画・小島剛夕、主演・若山富三郎)
『ゴルゴ13』(昭和48年、原作・さいとう・たかを、主演・高倉健)
『愛と誠』(昭和49年、原作・梶原一騎、作画・ながやす巧、主演・西城秀樹)
『ルパン三世 念力珍作戦』(昭和49年、原作・モンキー・パンチ、主演・目黒祐樹)
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(昭和52年、原作・秋本治、主演・せんだみつお)
『瞳の中の訪問者』(昭和52年、原作・手塚治虫、主演・宍戸錠)
『ドカベン』(昭和52年、原作・水島新司、主演・橋本三智弘)
『野球狂の詩』(昭和52年、原作・水島新司、主演・木之内みどり)
『火の鳥』(昭和53年、原作・手塚治虫、主演・若山富三郎)
……等

テレビドラマとしては

『おれは男だ!』(昭和46年、原作・津雲むつみ、主演・森田健作)
『子連れ狼』(昭和48年、原作・小池一夫、作画・小島剛夕、主演・萬屋錦之介)
『ゆうひが丘の総理大臣』(昭和53年、原作・望月あきら、主演・中村雅俊)
……等

上記を簡単に纏めると、まず、1950~60年代においては、漫画原作の実写作品は子供向け特撮作品が中心であったと言えます。
そして当時、東映やピー・プロダクションといった会社の特撮スタッフは工夫を凝らし、現実にはありえない光景を作り出していたのです。

1970年代に入ると、一般向けの映画やテレビドラマの原作として漫画が重用されるようになりました。1950年代の時点で漫画原作の一般向け実写映画は既にありましたが、やはり50~60年代の漫画原作作品は子供向け作品が中心でありました。
しかし70年代には漫画原作=子供向けという枠組みは、ほぼ取っ払われたと言えます。現在もなお漫画原作の一般向け実写映画及び実写テレビドラマが多数制作されていますが、現在における漫画原作の実写作品のあり方は、1970年代に始まったと言ってよいでしょう。

最後に21世紀の様子に触れて、本稿を纏めたいと思います。

21世紀には、

『デビルマン』(平成16年、原作・永井豪、主演・伊崎央登)
『キューティーハニー』(平成16年、原作・永井豪、主演・佐藤江梨子)
『ALWAYS 三丁目の夕日』(平成17年、原作・西岸良平、主演・堤真一)
や、正確に言うと漫画原作ではないものの
『キャシャーン』(平成16年、主演・伊勢谷友介)

といった、特殊視覚効果を駆使した映画が多数制作されました。
CGによって、1960年代と比べて実写映像とアニメ映像の境目は不明瞭になっています。この辺りの作品には、作り手の映像に対するこだわりが強く表れていると言えるでしょう。

そして冒頭で申し上げた通り、現在、漫画原作の一般向けテレビドラマも多数放送されています。
その理由として、テレビドラマの放送期間は1クール(作品によっては半年)を基本としていることから色んなところから原作を調達しないと3箇月ごとに新作ドラマを制作するのは困難になるであろうこと、既に人気のある漫画を原作とすればドラマがコケるリスクが減るであろうこと等が挙げられるでしょう。

1950年代から現在に至るまで、その形態は異なるとしても常に漫画は実写作品の原作供給源として重宝されていた訳ですが、作り手は漫画を実写化する場合、安易な発想で実写化するのではなく、より良いものを作ろうとする強い意志に基づいて実写化することが求められています。

(文・コートク)