ストレス社会と言われて久しい世の中、生きているだけで理不尽な思いをすることもままあります。ストレスを溜めてしまうと脳の一部が故障してしまい、うつやパニック障害になることも。そうならないためのメンタルハックが話題になっています。

■ 8分間感情を紙に書く方法

 ツイッターに投稿された、パニック障害を筋トレで克服したという”筋トレ系ライフハッカー”・Seiyaさんのツイートには次のように書かれています。

言語化スキルが低い人はストレス耐性も低い。自分の感情を言語化できないと、ストレス下における対処法も見えてこない。8分間、ひたすら自分の感情を紙に書き出すだけで、ストレス値は劇的に下がることがわかっている。これは「筆記開示」と呼ばれるテクニックで、私もよく行うストレス対策だ

 これはどういうことかというと、言葉に表すことができる感情は言語化することで自分が感じていることや、自分が置かれている状況を具体的に把握することができます。

 一方で、言葉に表せるほどの語彙量や的確なアウトプットができないままであると、自分自身の状況を上手に把握することが難しくなり、ストレスと感じる事柄にどのように対処していけばいいのかわからなくなり、ストレスに対する耐性が低くなる、ということ。

■ ストレスの対処法のひとつ「感情発散型の情動焦点性コーピング」

 この方法は、「ストレスコーピング」と言われる方法の一つ。ストレスコーピングは、ストレスの元を認知し、それに対してどのような行動をとれば適切にストレスを感じることに対して処理できるか、という方法。

 Seiyaさんのツイートで紹介されている方法は、感情発散型の情動焦点性コーピング。同じ情動焦点性コーピングでも、感情発散型コーピングは、ストレスを感じた時でも自分の気持ちを外に出さずに抑制してしまう、感情抑圧型に比べて精神健康に対してよい働きを示し、ストレス関連の疾患を予防する効果があることが知られています。

 情動焦点性コーピングの感情発散型は、自分の力だけではどうにもできない、誰も対処できない外部からのストレスを外に表出し、感情を誰かに聞いてもらうなどして気持ちを整理する方法。しかし、誰かにしゃべるということ自体が人によって向き不向きがあります。

 感情を抑圧することはストレスを蓄積することにつながるので、発散することが望ましいのですが、感情を聞いてもらえる人がいない場合や誰かに話すこと自体が苦手・不安という人には、紙に書いて発散させるというのが、Seiyaさんが紹介している「筆記開示」と呼ばれるテクニック。

 話を聞いてもらってスッキリとする人は、しばしば喋っている中で、自分のストレスと思うことが明確化され、ストレスに対する方法のヒントを見つけることができます。外に感情を発散させることで、頭の中にあるモヤモヤとしたものが整頓され、形がはっきりするので、どうストレスに対処したらいいかが分かりやすくなります。

 しかし、直接人と話すことが苦手な人も多く、人に話すことでさらにストレスを感じてしまうこともあります。そんな人に有効なのが、「筆記開示法」。ひたすらストレスを感じたことを書き綴り、頭の中にある言葉をとにかく紙やテキストに書き出します。

 ツイートでは「8分」としていますが、おおむね8分間で頭の中の言葉に出来るものをほぼアウトプットできる目安として考えてよいかと思います。ストレスを感じた時にその都度愚痴をどこかに表出できる、という方法で発散している人は、8分もかからないかもしれません。

■ 言語化スキルが高い人と低い人ではどう違ってくるか

 同じストレスを言語化する能力が高い人と低い人ではストレス耐性にも違いが出ます。

 例を挙げると、入った公衆トイレがひどく汚れており、そこしか使えなかったとします。仕方なく使ってトイレを出た後でも、スッキリ感よりも汚いトイレを使わざるを得なかったことに対してのストレスを感じる方が強い場合、言語化する能力が高い人は、「何であのトイレだけひどかったんだ、他が使えなかったとしたってあれはひどすぎる。管理しているところにでも愚痴がてら報告してやろう」となるかもしれません。あるいは、ツイッターなどで愚痴ることで「もうこれで終わり」とできるかもしれません。

 しかし、言語化を上手くできない人は、ただただ汚かったことにストレスを感じて、ドアを蹴ったり何かを壊すなど、理不尽を理不尽な方法でやり返してストレスをごまかす、という方法を取りがちになります。

 これは、誰も得をしないばかりか、周りからは野蛮と思われ、敬遠されることにつながり、結局物を壊したことによるしっぺ返しとして修理費を請求されるなどの悪循環につながっていきます。同じストレスを感じた時の発散方法でも、言語スキルが高い人と低い人では高い人の方がさらなるストレスを生まずに済みます。

■ 感情を上手に言葉として表現するためには

 言葉がどれだけ感情にリンクできるか、リンクした感情をどれだけ言葉として外に出すことができるかは、聞き手役の言葉の引き出し方も関係してきます。

 「カウンセリングでモヤモヤした部分がスッキリとした」という人や、「誰かに話を聞いてもらってスッキリした」という人は、聞き手役が愚痴を言いたいその人の気持ちに添って、言葉や相槌、表情などで愚痴を受け止め、そこから愚痴を言う本人が気が付いたことを引き出すのが上手であることが多くあります。

 しかし、人と話すこと自体が苦痛である場合、こうしたカウンセリングは却って逆効果ともなりえます。そこで使えるのが、Seiyaさんが紹介している「筆記開示」なのですが、これも言語能力によるテクニックが必要となります。

 まず、ストレスを感じた、と思ったときに「何が」「自分に対して」「どのように感じた」「その結果どう思った」がそろっている場合と、ただ何となく「ムカつく」「ウザい」「イライラする」という単語の羅列だけでは、前者の方が何がストレスでどう対処すべきかが明確になりますが、後者はただ感情を羅列しているだけなので、肝心の「ストレスの原因」がはっきりと見えてきません。

 そして、ストレスを感じたと思う現象が複数ある時も、一つのストレス源に対してどのように対処すべきかを切り分ける必要があるので、複数のストレスを感じた時は、まぜこぜにしないで一つずつストレスを書き出して、そのストレスに対してどう思ったか、どう考えるとストレスにならずに済んだか、あるいは回避できたか、などを内容ごとに分けて書くと、より頭の中が整理しやすくなります。

 8分間ひたすら書く、ということは、「ムカつく」「ウザい」「イライラする」などのストレスを感じた時に感情的に出る単語から、何がストレスになったかを引き出し、そこから気が付いたことを引っ張り出す、という作業につなげていく時間。そこに必要となってくるのが、語彙量なのです。本などを読んでインプットを増やすことは、語彙量を増やすことにつながります。

 ストレスコーピングの中でも、自分の認識のひずみに気が付きやすいストレスの解消法でもあります。気付きを得るということは、一つ賢くなるとともに、自分の固執した考えに気が付くことでもあります。

■ さまざまなストレスコーピング

 筆者は実は手書きで文字を書くよりも、キーボードを叩いた方が楽なタイプ。これまでにも自身の身の上に起きたことをブログなどに書き殴っては昇華していってましたが、書くだけではストレス源に対処できず、結局うつ病になってしまいました。

 今ではその時の回顧録や現在の状況を、自著記事に織り交ぜることもありますが、一時的なストレスは書いて発散できても、持続的にストレスを与えられると、精神は死にます。筆者も瀕死でした。こうした持続的なストレスに対しては、「問題焦点型コーピング」と「社会的支援探索コーピング」の組み合わせで回避行動をとることができました。

 「問題焦点型コーピング」は、いくつかあるストレスコーピングの中でも、直面している問題を自分の努力や周囲の協力を得て解決したり、それでもどうにもならない場合には回避する行動を取る方法。

 「社会的支援探索コーピング」は、直面した問題に対して相談可能な人に相談したり、アドバイスを求める、励ましや慰めによって心理的な安定を求める方法。社会的支援探索コーピングによって、専門分野の人につながることができ、問題焦点型コーピングへとつなげていくことで自滅一歩手前から引き返すことができました。

 ここまで行かなくとも、日々の「イラッ」「モヤッ」程度であれば、自分の好きなことに集中する、レジャーや運動などで発散する「気晴らし型コーピング」で発散できる場合も多いでしょう。

 ほかにも、「認知的再評価型コーピング」というものありますが、平たくいえば「ポジティブシンキング」。ストレスに対する見方や発想の転換で上手にストレスに適応していく方法です。

■ ストレスコーピングは日常を楽にするメンタルハック

 「8分間紙に書く」方法からさまざまなストレスコーピングを紹介してきましたが、どれも自分が本格的に病んで長い時間つらく過ごさないようにするテクニックです。ライフハックが日々のちょっとした面倒ごとや手間を省く方法であれば、メンタルハックは、日々のストレスから自分を守る方法。

 完全に病む前にこれらのメンタルハックを頭の片隅に入れておくと、ストレスに上手に対処できるようになるかもしれませんよ。

<参考>
ストレスコーピング 自分でできるストレスマネジメント(PDF)

<記事化協力>
Seiyaさん(@hosomacho1)

(梓川みいな/正看護師)