【うちの本棚】第百十三回 あなたは笑うよ/河あきら「うちの本棚」、今回も河あきらの作品をご紹介いたします。女性教師という年上の女性に恋する主人公を描いた『あなたは笑うよ』。それまでの河あきら作品のイメージを変える切ない大人のドラマです。


これまで退屈な日常や窮屈な家庭から開放されようともがく若者を描いてきた河あきらが、年上の女性に恋する少年を描いた作品。

この作品でも主人公の少年は、医者の父を持ち、自分の医院を継がせようと厳しく育てられていることに不満を抱いているが、それよりも年上の女性との恋愛だったり、少年が大人になっていく過程だったりと、これまで河あきらの作品では描かれなかった要素が強く打ち出されている。

単に年上の女性と言ったが、実は少年の通う高校の体育の教師であり、先生と生徒の恋愛という、一種のタブーをテーマにしている作品でもある。もっとも主人公のふたりはかなりプラトニックな関係で、周囲の噂が先行して追い詰められていくというストーリーになっているのではあるが。

70年代後半になると少女漫画にも性的な要素が取り入れられてきて、本作でもいわゆるベッドシーンは描かれていないが、主人公の少年が性体験を済ませたと想像させるシーンが登場している。この辺りのシーンも、それまでの河あきら作品から見ると踏み込んだ描き方といえるだろう。

主人公やその周囲の仲間たちの純粋な思いが、周囲の偏見や思い込みによってゆがめられて広がっていく展開は、これまでの作品とも共通しているといえるし、ラストの切なさは河あきら作品らしいとも言える。主人公の相手に年上の女性を設定したことで、作品自体が、それまでのものよりひとつ大人になったような印象を受けるのはボクだけだろうか。

初出/集英社・別冊マーガレット(昭和52年1月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1978年4月20日初版発行/併録・夢の島の23万円、ちいさな島の仲間たち)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/