【うちの本棚】第百十二回 さびたナイフ/河あきら「うちの本棚」、今回ご紹介するのは、河あきら作品のひとつの集大成とも言える『さびたナイフ』です。河あきらの代表作のひとつでもある本作。機会があればぜひお読みください。


『さびたナイフ』は、それまでの退屈な日常から抜け出そうと、不良と知り合ったことからさまざまな出来事に遭遇していく主人公を描いてきた河あきらの、ひとつの集大成とも言える作品だと思う。

主人公はギリシア人を父に持つハーフの少女で、父は母国に帰ったまま連絡がなく、母も亡くなり親戚の家に身を置いている。そこにはひとつ年上の従兄弟がいるが、医者を目指して勉強している真面目な秀才で、主人公には近寄りがたい存在だった。しかし、その従兄弟が、勉強の合間に気休めとして書いていたノートを偶然見てしまったことから、そのイメージは大きく変わっていく。そこにはさまざまな犯罪を実行することのできる計画がびっしりと書き込まれていたのだった。

従兄弟と同じ高校に通い、不良として評判のよくない主人公と同じ年の少年も、偶然主人公と知り合い、さらにふたりでいるときに出会った家出少年も巻き込んで、従兄弟の作った犯罪計画書に沿って、銀行から現金強奪を実行することになる。

完璧だと思われた計画だったが、さまざまなほころびから身元が割れ、警察に追われることになる。4人は現金の隠し場所にした別荘に身を隠すことにしたのだが…。

主人公を取り巻く3人の少年たちそれぞれの主人公への想いも見事に描かれ、サスペンスの要素と恋愛の要素がうまくかみ合っているのはもちろん、余韻の残るラストが本作の印象を強めている。

たぶん、河あきらの作品を初めて読んだのは本作だったと思う。そして『木枯らし泣いた朝』『赤き血のしるし』と読み、河あきらのファンになっていった。

70年代、少年マンガは長期連載、少女マンガは読み切りというものが多く、作品の密度で少女マンガに秀作が多くなっていたというのもあったのではないかと思う。また内容的にも文学的な作品が多かった印象も強い。もっとも、河あきらの一連の作品は、文学的というよりはテレビの2時間ドラマといった方が合っていたかもしれないが。

初出/集英社・別冊マーガレット(昭和51年1月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1977年2月20日初版発行/併録・あしたは日曜日、おばあちゃんの大革命、アイ・アム奥さま)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/