【うちの本棚】第百十回 木枯らし泣いた朝/河あきら「うちの本棚」、今回も河あきらの作品をご紹介いたします。『木枯らし泣いた朝』はまぎれもなく河あきらの代表作のひとつ。いえ、70年代の少女マンガを代表する一作と言っても過言ではないでしょう。


いわゆる上流階級の家ではあるけれど、両親は普段から口げんかが絶えず、母親もその影響で主人公の少女に口うるさいという家庭環境の中、高校の友人たちと喫茶店などに集まりおしゃべりをするのが、そのころの少女の楽しみになっていた。

しかし友人たちも家庭環境その他の理由で主人公の少女につき合っていくのが難しくなり、ひとり街を歩いていると、公園のベンチでギターを弾いて唄っている少年に出会う。普段聴くこともないフォークソングを、暇つぶしと思いながら耳を傾ける少女だったが、少年に誘われフォークソングのイベントに出向いたり、彼の仲間たちと知り合うことで、それまでとは違った楽しみを見つけていく。

しかし少年の身体は病魔に蝕まれていたのだった…。

70年代には白血病など治療の難しい、主人公やその大事な人が死を目前にするドラマがけっこう作られたが、本作もそんなもののひとつと言っていいだろう。またそこにフォークソングや深夜ラジオという、当時の流行を取り込み、読者対象であるティーンに受け入れやすいストーリーを構成している。

本作でも河あきらは退屈な日常から飛び出し、生きがいを見つける主人公を描いているわけだが、余命3カ月という限られた時間の中で精一杯生きる少年とそれを支える主人公が力強く描かれている点で、河あきらを代表する一作と言っていいだろう。

初出/集英社・別冊マーガレット(昭和48年11月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1974年7月20日/併録・さすらいジーンズ、つむじ風の日記、ありがとうエス)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/