映画館の進化は目覚ましい。3D映画が観客を驚かせたかと思えば、今度は4DXというシステムが観客に驚異の映画体験を提供しています。4DXとは、スクリーンで描かれるシーンに合わせて座席が振動したり、煙や水しぶきが放出されたりするシステムです。最も出番が多いのは座席の振動でしょう。

 スクリーンに合わせて座席が振動する映画というのは、かつては東京ディズニーランドのスター・ツアーズや埼玉県所沢市にあったユネスコ村のバーチャルライドシアターのように、遊園地または博覧会でしか体験できない代物でした。しかし今では映画館で(以前と比べれば)手軽に体験できるとは、凄い時代になったものです。

 さて、昨年公開のアニメ映画『ガールズ&パンツァー』(通称・ガルパン)の4DX版が2月20日にスタートしましたので、本稿ではその模様をお届け致します。

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『ガールズ&パンツァー劇場版』はなぜ4DXと相性が良かったのか?

 まず私が感服致しましたのは、スクリーンのシーンと4DXの効果のタイミングがピッタリ一致していたことです。
 画面奥からキャメラに向かって砲弾が飛んでくれば観客の耳元で空気が発射され、輸送機が着陸して登場人物の髪が舞い上がれば観客に風が吹いてきます。この効果はたとえ僅かでもずれれば無意味になる訳ですから、エンジニアやプログラマーの苦労が偲ばれます。また、雨が降る場面では観客も水に振られましたが、もし昭和57年公開の映画『海峡』の4DX版が上映されたら観客はずぶ濡れですね。

 ここからが私の見解の本題なのですが、本稿では『ガールズ&パンツァー』4DX版の特徴について2点申し上げたいと思います。

 1点目。逆説的ではありますが、4DX版の上映によって、実は劇場版ガルパンは4DXに頼らずとも観客に試合会場を体験してもらおうと工夫された作品であることが浮き彫りにされました。 劇場版ガルパンは戦車が走り回り砲弾をぶっぱなす作品ですから登場人物も振動に見舞われている訳で、キャメラも結構小刻みに揺れているのです。また辺りに煙が立ち籠める場面では映画館内でも煙が噴射されていましたが、劇中の描写の時点で既に先が見えないほど煙が立ち籠めています。つまり、劇場版ガルパンは4DX版でなくても観客に振動や煙などの試合会場の様子を体験させようという工夫が施されていた訳です。これに4DXが加われば鬼に金棒と言えましょう。

 2点目。遊園地で上映される座席が振動する映画というのは主観映像が多いのではないでしょうか。例えばユネスコ村のバーチャルライドシアターは、ジェットコースターの客席の主観映像や、砂漠を走る自動車の主観映像を上映し、座席が振動することで、観客がジェットコースターや砂漠での走行を体験するものでした。 それを踏まえて劇場版ガルパンを観ると、非常に主観アングルが多いことに気付きます(テレビシリーズの時点で主観アングルを使ってましたが)。例えば劇場版ではジェットコースターの線路を下る場面や、迷路で追いかける場面等があります。つまり、劇場版ガルパンは座席の振動と相性の良い映画であると言えます。

 結論を申しますと、上記のような理由から4DX版ガルパンは4DXの特性を思う存分活用し、観客に臨場感溢れる体験をさせる作品に仕上がったと言えましょう。

 以下は余談ですが、予算的に可能かどうかは別として、主観アングルを含んだ過去の映画を4DXで上映したら盛り上がりそうですね。例えば太平洋戦争中に飛行機のパイロットを務めていた有川貞昌キャメラマンが撮影した実写特撮映画『空の大怪獣ラドン』『地球防衛軍』『モスラ』では飛行機のパイロットの視点から飛行機の描写を描いていましたので、もし4DX化したら観客にどのような体験をもたらすのか興味深いところです。

(文:コートク)