同人サークルと聞くと二次創作の漫画というイメージが強いかもしれませんが、他にもオリジナルの創作分野や個人の研究成果の発表、グッズ作成とジャンルは色々。今回は「同人即売会の研究」のを行っている「STRIKE HOLE」の花羅さんに同人活動について話を伺いました。

 ――お久しぶりです。お話をするのは1年振りくらいになりますかね。今回はよろしくお願いします。

(花羅さん)
お久しぶりです。即売会でお会いしたのはその位になりますね。今回はよろしくお願いします。

■同人サークルとしての活動の始まり

 ――早速ですが同人活動をはじめたきっかけを教えて頂いても宜しいですか?

(花羅さん)
 2002年頃にとある男性向けジャンルオンリーの主催を務めましたが、サークルからの反感を買って失敗したという思い出があります。ただその時の主催活動の中で、サークル出店したことがあります。サークルとして公式グッズを頒布し、どんどん売れていくのを体感し、サークル活動へのやりがいを感じました。とはいえ主催としては失敗したのは事実。その失敗を取り戻したい、という思いもありました。

 まずはサークルから反感を買った事実を踏まえ、サークルとしての目線を学ぶ必要がある。ならばサークルとして自ら活動するのが近道だろうと考えました。同時進行で、他のイベントから学ぶべきことも多いだろうと考え、他のイベントの良いところを盗もうと全国各地様々なイベントを見聞するようになりました。この二つの要素が合わさり、サークル活動するなら、全国の同人誌即売会を見聞したレポートを書くのが良いだろう。これが、「同人誌即売会の評論」という変わった切り口での、「STRIKE HOLE」としての活動の原点となります。

 ――オンリーの主催をされていたのは知らなかったですね。現在の活動は何をされていますでしょうか。

(花羅さん)
 同人誌即売会のレポートも時折やってますが、むしろ「同人誌即売会開催の歴史研究」「アニメ聖地たることを活かした町おこし」に関する評論の方がメインになっています。

■「同人誌即売会の歴史研究」について~ポイントは「文献」を地道に拾い集める事

 同人誌即売会の訪問も、2012年には47都道府県全国制覇を果たし、次の活動目標を思案していました。これまでは全国各地の即売会。言わば「現在」という時の「横軸」で評論をやっていました。であれば次は、過去に遡り、歴史という「縦軸」で評論をやってみよう。そういう考えから「歴史研究」をテーマに据えました。

 大学時代に、日本史を研究していたので、大学時代に培ったノウハウを生かせるから、強みや独自性が発揮できるだろう。そういう打算もありました。ただ、どうやって研究するか?この研究には前例がないので、過去の先人の研究成果から学ぶこともできません。研究方法を確立するのに3年ぐらい考え続けた挙句、ようやく見えてきました。

 その方法としては、「文献」を丹念に、地道に拾い集めること。主な文献としては、コミックマーケットカタログに掲載されていた、即売会開催のお知らせ。ここに掲載されたお知らせは、各即売会主催自らの手による情報。自分が主催して参加者を集めるイベントの内容に、嘘はあり得ません。信頼性が高い情報と判断しました。

 1980年~1999年まで、過去20年のコミックマーケットカタログに掲載されていた、即売会の情報を全てデータベース化する。その作業に、もう3年ぐらいかかりました。データベースには、5000件以上の即売会データをためこんでいます。その物量を元に、自分の考察も加えながら記した本が、「同人誌即売会開催史(1990年代)」です。

 実は私が同人を始めたのは、オンリー主催を務めた2002年以降。それ以前の同人事情は、まったく存じ上げておりません。自分の体験に頼ることができなかったので、1990年代の歴史をイメージしづらかったのですが、その代わり、先入観なく1990年代の同人世界とぶつかり合えたので、研究する上ではプラスに働いたかもしれません。

 1990年代の同人を体験した長老から話を聞くことも不可能ではなかったのですが、あえてそれはしませんでした。確かに、口述でいろいろ話を聞けば、もっと楽に、1990年代の歴史を組み立てることができたかもしれません。しかし、人間の記憶はあいまいなので、どこまで本当のことを語ってくれるのかわからない。また聞きの内容も、あるでしょう。そして、語ってくれた内容の、裏付けを取ることができない。

 歴史研究においては、信頼性が低いと判断し、あえて口述は歴史研究の手段から外しました。それなら、絶対に「記憶違い」のない、コミケカタログのイベント告知を頼った方が確実な情報が取れる。そう考えた次第です。

 ――なるほど、確かに人から聞くと主観や入って語る事があると。

(花羅さん)
語る人が自分を美化する可能性も考慮しなくてはなりません。自分の疑り深さが災い?功を奏した?よくわかりませんw

■「同人誌即売会開催史(2000年代)」

(花羅さん)
 1990年代の続編として刊行。2000年代は、コミケカタログのみならず、同人誌即売会検索サイトなどにも記録が残っているので、1990年代よりも即売会情報が集めやすかった、という部分があります。

 自分自身見聞した内容も多く含まれているので、書きやすかったというのはあります。ただこれは「歴史研究」というよりも、自らの実体験ベースの振り返り的な要素が強かったので、真に歴史研究と言えるかどうかは疑問が残ります。また、実体験を元にしているがゆえに、自分自身の「先入観」があった。これが1990年代との大きな違いだと思います。2000年代の本は、後世の歴史研究家による「検証」という洗礼をうけることになるでしょう。

――検証系のサークルや動画投稿者も増えていますからねwいつかはそんな時代が来るかと思います。

■他にもこんな本を「コンテンツツーリズム取組事例集」について

(花羅さん)
 同人誌即売会に参加するべく全国行脚を繰り返しますが、行った先々の町に「元気が感じられない」のが気になりました。でもそんな街も、アニメの聖地になれば、オタクが大挙訪れ、一時かもしれないが元気を取り戻す。そういう部分に興味を抱きました。

 私は中小企業診断士としての資格も持っていますが、診断士としての活動の中で、観光を通じた地域振興を専門分野として取り組みたいとも考えていました。ならばサークル活動としても、診断士活動とリンクさせる形で、アニメ町おこし研究に取り組んでみよう。そう考え、全国各地の聖地町おこし事例を研究し、その成果を本にまとめた次第です。

 ――なるほど、たしかに即売会で行く地域によっては何もなかったりする所もありますからね……特にコロナが起きてからは……そうそう最近、GoToTravelの本も書かれていた様で、それも非常に気になります。攻略法と聞くだけで心がウキウキするのですが

■最速刊行!?「GoToキャンペーン攻略本」について

 アニメ聖地の研究を繰り返しつつ、観光振興・地方創生の在り方について自分なりに理解を深めつつある中、コロナが勃発。緊急事態宣言の発令に伴い、外出自粛がもとめられ、アニメ聖地にも人が来なくなりました。アニメ聖地の事業者からも、苦しさを吐露する声を耳にするようになりました。国や市町村による補助金・給付金等のコロナ対応支援メニューを研究し、分かりやすく発信するなど、自分なりにできることをさせてもらいました。

 その中で、やはり「GoToキャンペーン」は、コロナ禍で疲弊した地方の経済を活性化させる切り札になるだろう!そう確信を抱くようになりました。いろいろ批判はありますが、このキャンペーンは、単に安く旅行できるだけではない。単に、観光関連業者を救済するものに留まらない。観光を通じ地域経済全体に波及効果をもたらすもの、と高く評価するようになりました。

 9月から実施される、地域内で使える旅行代金15%分の商品券なんてのは、地域経済を回そうとする政府の意思を感じ取れます。であれば、このキャンぺーンを、地域の事業者や旅行者が、最大限お得に活用できる本を刊行し、役立てていただこう。そういう意図で書いた本です。

――おぉ、素晴らしい!!Twitterで告知見てから気になっていたんですよね。

(花羅さん)
 もっとも、刊行後に政府の方針が二転三転してるので、攻略本を書いた身としては困ってしまいますがw 刊行するのが早すぎたのかも……人より先んじることに意義があると思って、先走って書いてみたのですが、それが裏目に出たようですw GoToの突っ込みどころは多すぎるので、それだけで別に一冊の本が書けるかも?w

――そこは是非是非現在版を、楽しみにしております。

(花羅さん)
 書いてる途中で制度内容が変わりそうなので、書きたくないですw

――ですよねーw そんな中、現在活動で気をつけている事はございますでしょうか

■同人活動で気を付ける事、体調管理はしっかりと

(花羅さん)
 コロナに感染しない そして 感染させない この2つです。私の同人活動は、現地に足を運んでナンボなので、オンラインでの活動はどうしても難しい。各地の即売会に足を運ばないといけません。

 サークル参加では、挨拶回りを極力控え、他人との接触の機会を減らす。単独行動を基本とする(売り子さんのお手伝いも極力お断りする方向)。もちろんマスク着用・手洗いは必須です。COCOAアプリも仕込みました。

 一般参加でも、基本誰とも会話せず単独行動。知り合いに出会っても、長く話し込まず。隠密行動の忍者みたいな動きになると思いますw打ち上げにも行きたいところですが、会食は厳しいでしょう……また、当サークルの活動のベースが【全国各地の同人誌即売会のレポート】ですから、コロナ禍における各主催の感染防止策について、積極的にレポートできるよう努めたいと思います。そのレポートが他イベントにとって、運営上の参考にもなると思いますので。

■今後の即売会はどうなるか

 ――なるほど、それを踏まえた上で、今後の即売会のあり方はどうなると思いますでしょうか?

(花羅さん)
 予想できるわけねーよ(逆切れ)…と言っても始まらないので、少し考えますね。

 なかなか即売会の開催もままなりませんが……私は、10sp,20spの小規模オンリーから着実に「成功」させ、即売会開催の実績を積み上げることを繰り返すしかないのかな?と思います。
 この場合の「成功」は、単に即売会を終えるだけでは「成功」と言えません。2週間程度寝かせて、即売会の中でクラスターが発生しなかったことが確認できて初めて「成功」です。

 スモールスタートでも良いので、「成功」の実績を積み上げ続けるしかない。もちろんその中で、即売会の中でクラスターが発生する事例が、出てくるかもしれない。そのリスクも踏まえつつ、即売会を開催し続ける。それしかないと思います。というか、それ以外に思い浮かばない。

――確かに、それしかなさそうですね。

(花羅さん)
 なお、女性向け界隈を中心に、最近は「オンライン即売会」も流行しつつあります。募集100sp満了も少なくないようです。
 オンライン即売会は、夜の開催も可能など、時間的な制約もなく自由度が高い、というメリットがあります。金銭的な負担もなく、気軽に立ち上げられることも、流行を後押ししていそうです。

 ただ、同人誌の売買には繋がりにくい。リアルの場がないと、同人誌の売買に繋げることは難しい。印刷所など同人界を支える「インフラ産業」のことを考えると、やはり同人誌の売買に繋がる「リアルの場」は、欠かせない存在です。

――紙媒体はOK出している所でも、データでの二次創作の頒布になると企業が完全にNG出しているところも多いですし、印刷所の問題も……難しいですね。

(花羅さん)
 ただ、これまでの開催傾向を見ると、公的施設は「会場側の強い要請」で中止に追い込まれることが目立つ反面、民間施設は比較的規制が緩い感じがします。民間施設の方が、無事開催に持ち込めるケースも相対的に多そうです。

■同人活動をして良かった事、悪かった事

 ――なるほど、ありがとうございます。では、次に同人活動をして、良かった事と悪かった事はございますか?

(花羅さん)
 良かったことは、人生において、張り合いが得られ、彩りがもたらされたことで、悪かったことは金と時間が延々消費されていく…即売会遠征ばっかやってりゃ当たり前ですがw

――お金と時間は……それは確かにw では次に、今後同人活動をする人、しようとする人にアドバイス等はありますでしょうか?

■今後同人活動をする方へのアドバイス

(花羅さん)
 どんなへなちょこな作品でもいい。4ページの折本でも構わない。先ずは「形」にして、サークルとして参加しよう。参加することで、見える景色が変わります!何も出せる作品がなくても、サークルとして軽率に参加を申し込みましょう!締め切り間際になれば火事場のクソ力が働き、何か作品を生み出せますw そしてサークルとして参加すると、即売会の景色が変わるはずです。世界観が変わります。

――私も知人の手伝いの時と、自分で申し込んだ初参加の時は印象大分かわりましたねぇ……ありがとうございました。とても参考になりました。

 今回は即売会を研究する同人サークル、「STRIKE HOLE
」さんを紹介しました。即売会のこれからという無茶振り予想とかも快く(?)答えて頂き、有り難く思い、なるほどなぁと感心しました。そんな、STRIKE HOLEさんは、各即売会で研究本を出されているので、イベントで見かけたら手に取って見ると良いと思います。分かりやすく、記載されているのでお勧めです。

<取材協力>
花羅さん(Twitter:@hanara_striker/HP:strikehole.blog.jp

(戦魂)