「うちの本棚」、今回も横山光輝の作品を取り上げます。波瀾万丈の展開が横山らしい表題作『夜光島魔人』、そしてSFマインドにしびれる『13番惑星』など1960年代の作品集。

映画を観た帰りに海岸を散歩していた山形 武と三郎の兄弟は、叫び声を聞いて駆けつけるとそこには男が倒れていて、「夜光島」と言い残して息絶える。また海上にアカエイのようなものが飛んでいるのを見る。


事件を警察に通報したあと帰宅した兄弟は見たものを確認するため、アカエイを撮影した赤外線カメラのフィルムを現像してみるが、そこには確かにアカエイが写っており、改めて兄弟は警察にそのことを報告。しかし担当の刑事が来るのを待っているときに、兄弟の家はアカエイに襲われフィルムは奪われてしまうのだった。

そしてふたりは刑事と共に「夜光島」探索をはじめるのだったが、「夜光島」を基地にするアカエイとそれを操る組織の手によって捕らえられ、島の地下工場で働かされることになってしまうのだった。

そしてタイトルで「夜光島魔人」とされた夜光島で謎の組織を動かすリーダーの正体は? 正直謎めいた形にしすぎたせいかあやふやな印象になってしまったのが残念だが、このアイデアは発表年を考えるとなかなか斬新だったように思う。むしろこのリーダーの謎についてもう少し突っ込んだ展開があってもよかったように思うが、それには発表媒体である「たのしい四年生」という雑誌では難しかったのだろう。

横山光輝は手塚治虫や藤子不二雄らと共に日本の漫画文化を築いた巨匠のひとりだが、同時代に活躍した漫画家たちに比べて未単行本化作品が多い印象がある。逆に言えば『バビル2世』『鉄人28号』『伊賀の影丸』等一部の作品だけが形を変えて刊行され続けていただけかもしれない。本書の表題作である『夜光島魔人』も、初単行本化と記されてはいないが少なくとも数十年間気軽に読むことのできない状態だったのは確かである。

併録された『13番惑星』は、何度も調査団が行方不明になるという謎の惑星だったが、新たな調査隊が着陸してみると美しい花が咲き誇る地球人の移住にも適した惑星に見えた。しかし前調査団をはじめ動物の姿が見えず、その謎を解明するべく調査を開始したのだが…。この作品も発表年を考えるとなかなか斬新で、まさにSFと呼べる作品だ。『黒い沼地』は西部劇。荒れた土地を買い取りたいと現れた拳銃の名手の目的は? 『死の館』は明記されていないが「アッシャー家の崩壊」のコミカライズ。

それにしても改めて感じるのは横山が女性キャラクターを描かないこと。本書収録の作品のうち女性キャラクターが登場するのは『死の館』くらいのもの。『魔法使いサリー』など少女漫画でも代表作を残しているハズなのに、少年漫画、青年漫画では印象に残る女性キャラクターをほとんど描かなかったのは有名とも言える。結果的に魅力的な女性キャラクターを描かなかったことが単行本化作品を少なくしてしまった理由なのかもしれない。

書 名/夜光島魔人
著者名/横山光輝
出版元/講談社
判 型/文庫版
定 価/680円
シリーズ名/講談社漫画文庫
初版発行日/2007年9月12日
収録作品/夜光島魔人(「たのしい四年生」1960年4月号~1961年3月号)
     13番惑星(「別冊少年サンデー」1962年1月号)
     黒い沼地(「別冊少年サンデー」1960年10月号)
     死の館(「りぼん」1966年3月号)

(文:猫目ユウ)