聴覚は人間の五感の中でも見えないものを感じ取るなど、重要な働きをする感覚の一つです。そして、耳は聴覚をつかさどる重要な器官。聞こえの問題は過敏過ぎても聞こえなさ過ぎても困るもの。その耳の聞こえが悪かった人が、耳鼻科に行ったら世界が変わった、という漫画が注目を浴びています。

 フリーの漫画編集者である森園さんが、「耳鼻科に行ったら人生が変わった話」を漫画に描いてツイッターに投稿しています。

 元々聞こえが人よりも悪く、人の話を聞き取ることが困難な事が多かった森園さん。今年に入ってから、寝起きに片耳が聞こえ辛い事が増えたそうです。飛行機に乗ったときに起こる、耳が詰まる感覚に近い感じとの事。

 ちょうどそんな頃、某芸能人が「突発性難聴」を発症したというニュースを目にします。これはいきなり耳が聞こえなくなり、耳鳴りやめまいを伴うもの。発症直後なるべく早いうちからのステロイド剤の投与によって治る事があるが、放置するとそのまま聞こえなくなったり耳鳴りが続いたりなどする疾患です。「早期に治療しないとそのままずっと聞こえなくなる可能性もある」–そんな記事を目にしたのは、片耳が聞こえにくくなってから1か月ほど過ぎた時のことでした。

 そして、森園さんの耳はいよいよ両方とも聞こえ辛くなってしまいました。全ての音が、分厚いフィルターがかかったような感覚。友人からは、度々「耳くそじゃない?」と言われていましたが……。生きていた世界観すら変わった感覚をも味わった森園さん、「これはもう病気だ」と意を決して、生まれて初めて耳鼻科へ。そこで耳の中を診てもらったところ……。

 「すっごい耳くそたまってるね」医師のこの言葉に、友人の「耳くそじゃない?」がリフレイン……。人の耳くそはカサカサしている乾燥した状態のものと、ベタベタとして湿っている状態の2派に分かれるのですが、森園さんは後者のベタベタ派だったとの事。普通なら耳垢は自然に外耳道から耳の外へ排出されていくのですが、ベタベタ耳垢は乾燥で固まりやすく、森園さんの耳垢はかなり奥の方までがっちり固まっていた模様。

 耳垢を柔らかくする薬を使ってン十年物の耳垢をふやかし、格闘する事1時間弱……、何とか全ての耳垢を取る事ができたのでした。「久しぶりの大物だったよ」と晴れ晴れとした笑顔の耳鼻科医。こんなにため込んで申し訳なかったと恐縮する森園さん。治療費もこれだけ時間かけて取ったのだからかなり掛かるのでは……と思ったら、一律料金で1280円。これは、診療報酬上の点数が一律決められているので、どれだけものすごい耳垢でも料金的には変わらないという事。帰り道、自転車の音も違って聞こえて、違う世界が広がっていた、という感想でした。

■耳垢は耳鼻科で遠慮なく取ってもらおう

 森園さんの耳垢が詰まっていた状態は「耳垢塞栓」という状態。保険診療で治療が受けられる状態です。お年寄りにも多いのですが、森園さんの様に湿った耳垢の人は、奥の方で固まる事もしばしばみられます。また、乾燥耳垢でも、年単位で放置していると、入浴時などに耳に水が入った時などにふやけた耳垢がひと固まりになり、つまりの元となる事があります。

 筆者、「介護老人保健施設」(略称:老健)で働いていた経験があるのですが、耳が聞こえにくい人の中にはやはり耳垢がぎっしり詰まっていた人もいました。耳の穴をちょっと見ても分かるくらい。ミニライトと耳かき、時には専用の細いピンセットを使ってン十年物を掘り出してきたことも。あれ、取れた時結構快感なんですよね……。耳鼻科の先生が晴れ晴れとした顔になるのもよく分かります。しかし、老健では耳垢を柔らかくする薬までは置いていないので、どうしても取れない人にはやはり耳鼻科へ受診する事を勧めていました。

 中には耳垢を吸引する機械を使っていたという人でも奥の方にがっちり固まっていたので、耳垢が本当にカサカサ、かつ、上手に機械を使える人であれば効果はあるかもしれません。また、綿棒は、特にカサカサした耳垢の場合は、外耳道の奥の方へ耳垢を押し込んでしまう可能性も。ベタベタ耳垢の場合は、外耳道の途中まで、ふろ上がりに拭う感じで取るときれいに取る事ができます。しかしそれでも奥の方まで固まってしまう事はあります。耳掃除は1か月に1度くらいを目安に、カサカサ耳垢の人は、耳かきで見える部分だけを掻き出す感じで。できれば誰かにやってもらう方が確実でしょう。自分でやると見えない分、耳かきでも逆に押し込んでしまう可能性があります。

 最近何だか耳の聞こえがおかしいな、と思ったら、遠慮なく耳鼻科を受診してください。保険証も忘れずに。

<記事化協力>
森園さん(@morizonprime)

(梓川みいな/正看護師)