カラスというと、ごみをあさる、不吉、怖いなどネガティブな印象を持つ人も多いかと思いますが、実は非常に賢く、懐くとすっごく可愛かったりするんです。そんな、保護されたカラスのひなが懐いて甘えている動画がSNSで話題になりました。

 動画にうつるそのカラスは、鳥が好きが高じて鳥のフン対策などに取り組む「鳥さんのおしめを作る会」主宰のさちよんさんが保護した、カラスのひな。ぎぎと名付けられたそのひなは、自然界では自力で生きていくにはかなり困難な状況で発見され、保護されました。

https://twitter.com/PiPi_374/status/1020134478646194176

■ 保護許可を取得し治療へ

 親鳥は保護される前日くらいまでぎぎに餌を運んでいたようで、体の栄養状態は悪くなかったものの、かかとの部分に、人間でいう床ずれ(褥瘡)が酷くできてしまっており、放置しておけば衰弱する一方という状態で発見されました。普段は鳥類の保護活動などはされていないというさちよんさんは、近所の学生さんからの連絡を受けてぎぎを保護し、状態を確認、愛鳥センターに連絡。保護の許可を取りぎぎの褥瘡治療を行う事となったのでした。

 野生動物・鳥類の保護や飼育は、感染症予防や外来種を在来種から守るなどの観点から、公的機関の認可が必要ですが、カラスや鳩など、身近な生き物であっても同様に認可が必要です。さちよんさんは、保護の許可を取った後で獣医さんのもとへとぎぎを運び、寄生虫の駆除と感染症の検査を行いました。他にも飼育している動物たちのために、10日ほどの検疫期間は隔離と消毒を徹底して行ったという事です。

 こうして、運よくさちよんさんのもとで過ごす事となったぎぎの足は見るも痛々しい状態でした。両かかとは黒いかさぶたと褥瘡の傷で汚染されており、保護前には餌を与え続けていた親鳥でも見捨てざるを得ない状態。とても自然界では生きていけない状態でした。

 さちよんさんはぎぎを保護したあと、ぎぎの全身の清潔を確保してから褥瘡の治療に乗り出しました。餌はカラスだけあって何でもよく食べたそうですが、自力での食餌は困難。さちよんさんが介助して食べさせていました。そして、かかとの治療も、毎日清潔にして悪い組織を取り除く、体圧を避けるという努力が功を奏し、最初の黒く汚れた部分はキレイになり、ほぼ寝たきりだった状態から自力で動けるまでに回復してきました。

鳥用のオムツを着用。かかと部分にクレーターの様な褥瘡がある

痛々しいが毎日の処置でキレイな組織が形成されてきている

■ 寝たきりから自力で動けるまでに

 こうしたさちよんさんのかいがいしいお世話の結果、かかとの褥瘡もだいぶ良くなり、そして、こうしたお世話の中でぎぎはさちよんさんに心を開いていったのです。その結果、ナデナデが大好きな甘えん坊カラスに。

寝転がってあまえるぎぎ

 「ここ2日忙しくってあまり遊んであげなかったら、ぎぎ(カラス)が甘えたさんモードに入っている。家の掃除をしたいのに…。自然界では人間みたいな感じのなでなでをしてくれる相手がいないのに動物は大抵なでなでが好きな不思議。」

 と、ぎぎを撫でている場面をツイッターに投稿したところ約2万8千回ものリツイートとなり、「自分も許可を得て保護したカラスが、最終的に自然に放鳥できるようになった」「カラス触ってみたいです」「自分も近所のカラスと接していたら仲間とも思われたのかよく近寄られるようになった」などなど、カラスにまつわるエピソードが色々とリプライで寄せられてきています。

 ぎぎは、寝たきり状態の時にさちよんさんが作ったお手製の車いすで姿勢を保てるようになり、保護した3週間後には車いすを使わずに姿勢を保つ事ができる程度までに回復しました。そして今では治りかけたかかとで多少の移動ができるようにまでに回復してきました。

自家製車いすに乗るぎぎ

■ 自然界の生き物を保護するという事

 自然の生き物である以上、自力で生き延びる事ができない個体は淘汰されるのが自然界の掟であり、そういった個体を人の手を介して保護する事自体に疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし、そうした個体であっても命は命。見捨てる事ができないという心情ももちろんあります。さちよんさんは、これまでに様々な生き物たちと暮らす中で、命はそれが例え自然界で淘汰されるかもしれないものであっても尊ぶべきという信念を持っているように見えます。それが、安易に拾って世話をするのではなく、愛鳥センターに保護の許可を取り、十分な検疫と寄生虫の駆除、他の動物からの隔離、そして毎日の処置などたくさんの手間を費やす原動力となっているのでしょう。

 もし、野生の生き物を保護し、自宅で世話をする許可が下りた場合は、寄生虫(ノミ、ダニ、原虫、線虫)、鳥クラミジア(オウム病)などの検査と駆除を確実に行う事が必要となります。他に動物、特に鳥類を先に飼っている場合はその先住動物に感染の恐れがあるPFDやマイコプラズマなど、共通の感染症となる感染源を保持していないかの検査や、季節によっては鳥インフルエンザなどのウイルス感染がないかなど、より検査項目を増やす事で先住動物の健康を守る事ができます。

 また、鳥はトイレの場所を覚えさせる事ができず、ケージから出している時や大型鳥類と一緒に出掛ける時などは排泄の処理が課題となる事も。こういった課題を飼っている鳥がストレスの少ない方法で解決するための工夫や発明なども必要となります。さちよんさんも、そうした工夫を重ねて、鳥用のオムツを考案、実際に飼っている他の鳥やぎぎに使用するなどして人と鳥の共生できる環境を整える努力をされています。

くちばしで傷を突かない様鳥用カラーを着用。

■ 飼育下でも野生でも等しく尊い命を守る為に

 筆者自身、人に直接的な被害を及ぼす害虫・害獣に対しては駆除も止む無しという考えですが、そうでなければ小さなクモや羽虫でもなるべく人工の環境以外の場所に帰すべき、人工の環境下で飼育する以上は命に責任を持つべきと考えています。カラスや鳩、ムクドリなど、人間が害を感じていても人間と共生できる手段はもっと研究されてしかるべきと思います。自然に帰せる命は帰し、帰せないのであれば人工下で責任を持って面倒をみる事も必要。生態系のバランスや自然をどこまで守れるか、問題は多いのですが、今後さらに人間とそれ以外の生き物が程よく共生できる環境が整う事を願っています。

<記事化協力>
さちよんさん(@PiPi_374)/鳥さんのおしめを作る会
(梓川みいな)