80代や90代の高齢者の自動車運転による交通事故の報道が相次ぎ、認知症患者への対応や高齢者の運転免許などについての議論がネット上でも交わされている中、ツイッターに投稿された認知症へのイメージの違いが話題となりました。(梓川みいな / 正看護師)

 認知症の人と接した時の事を、ピースさんはこの様に投稿しています。

「昔イメージしてた認知症
『飯はまだかのう』
『さっき食べたでしょう?』
『おぉそうじゃった』

実際に見た認知症
『飯はまだかのう』
『さっき食べたでしょう?』
『食べてないって言ってんだろが!お前は儂を飢え死にさせる気か!!出てけ!!この家から出てけ!!!』」

 ひと口に認知症といってもその症状の出方は十人十色。穏やかにボケている人もいれば些細な事でもすぐに声を荒げたり、1分も経たないうちに同じことを繰り返し聞いてきたり要求してきたり。筆者も長く老人施設へ勤務していた間に様々な認知症の方と接してきました。外交的で活発に外へ出かけていた人がアルツハイマー型を発症したり、脳血管疾患によって発症したり、若いころからだいぶ人格が変わって気性が荒くなったと思ったら認知症だったという人もいたり。

 こうした認知症のベースとなっているのは「今の自分を的確に認知できない」、いわゆる認知力の低下によるもの。記憶が一部分だけ抜けてしまったり自分が置かれている状況が把握理解できなかったりというのが積み重なり、日常生活に支障をきたすようになってしまいます。自分が何をしようとしたか、自分が今どんな状況に置かれているか、不意になくなる記憶は不安や恐怖を掻き立てます。その結果、攻撃的になったり混乱して取り乱したりという反応が起こるようになります。

■認知症のケアはその人の背景を探る事から始まる

 認知症の主な症状は、認知力の低下ですが度重なる物忘れによる不安の強さはその症状からさらにさまざまな症状が出てきてしまいます。さきのツイートで出た実際に見た認知症の人の反応では「さっき食べたでしょう?」という言葉に対して逆上している言動を認知症の人が取っています。この背景にも、「自分は食べた認識がないのに何故そんな事を言われないといけないのだ」という強い不満や不信感があると考えられるのですが、その奥には「覚えていない」という不安感があります。自分の事を理解してもらえないという不安感から自分を守るために攻撃性を出す事も認知症の症状としてよく知られています。

 認知症のケアは、「その人を知る事」からスタートするといっても過言ではないのです。生い立ちや性格、生活背景や現役時代の日課など、認知症の人が持つ様々な背景を知る事で認知症の症状がその人のどの部分に結びついているかを把握する事ができ、ケアに繋げる事ができます。

■そうは言っても難しい

 「認知症の人の背景を知る」ところからケアが始まるのですが、自分が良く知っている祖父母や親が実際に認知症を患って変わっていくのは肉親としてはやはり受け入れにくい、見たくないものです。肉親の人格が変わっていくのを間近に見る辛さ、拒否感から認知症からくる行動を受け入れられず、否定したり怒ったりする事はやはり多くみられます。

 「昔はこんな人じゃなかった」という気持ちも強く出るかも知れません。
しかし、認知症になって一番不安なのは患ってしまった本人。症状からくる失敗に対してどう対処したらいいか分からない、更にその失敗を周りから責められるという様々な不安を持っているのです。身内だからこそ、冷静に客観的にみる心構えが必要となってしまうのです。

■具体策を考える

 先のツイートでは食事についてのやり取りでひと悶着、というところでしたが実際に考えられる対応策を上げてみたいと思います。

 ツイートへのリプライに「話を逸らす」「どんな食べ物が好きか逆に質問してみる」などの対応策が多く挙げられています。よく、「食べた食事が何だったかを思い出せないのは物忘れ、食べた事自体丸ごと忘れてしまうのが認知症」と言われますが、すっぽりと記憶が抜けてしまう為そこを指摘されると「何で食べてない(食べた記憶自体がない)のにさっき食べたでしょ、なんて言われないといけないんだ!」となります。逆質問や話を逸らす事は抜けている記憶に触らないで他の事に気持ちを移す事ができるので有効と考えられます。

 他にも、食後そのまま食事をする場所にずっといるうちに食べたこと自体を忘れてしまう為、自分が食べてないから食卓にいるのだという認識に変わってしまう事もあるかもしれません。そういう場合、食後に他の場所へ移動するだけで変わるかもしれません。食後に本人が楽しめる娯楽があるといいかもしれません。

■認知症かもしれないけどどう対応したらいいか分からない

 認知症を疑った時、脳神経内科や精神科、老年科など認知症外来がある病院での診察を受けるとその後の治療方針やケアなどについて具体策が講じられるのですが、病院が嫌いな人や自身が認知症であることを認めたくない人も多くいます。

 まず本人でなく家族だけでも医師へ相談に行くのは一つの方法です。物忘れの自覚があるなら「あそこの先生は物忘れの相談に乗ってくれるそうだよ」と誘ってみるというのも一案です。また、「脳ドッグ(健康診断)を受けたいけど一人では不安だから一緒に病院に行って欲しい」と誘う、「○歳になったしいつまでも元気でいて欲しいから一度健康診断を受けよう」と誘うなどの手段で認知症本人を連れていく事ができれば直接診察ができ、病名も付ける事ができるので介護保険制度を活用する事ができます。もしかして認知症?と思ったらまず医師に相談を。

■家族と専門職でタッグを組む

 認知症という病気はまだまだケアの方法が知られていない病気です。分からないものを知識が少ない中でケアするのは非常に危険。老々介護の果ての心中や、家族の疲弊は今でも社会的な問題としてたびたび取り上げられています。認知症の診断さえおりれば介護保険制度を活用して様々なケアを受ける事ができます。家族が疲れ切ってしまわないうちに制度を活用できる環境を整えておくと安心です。

 介護施設では一人ひとりがその人らしく過ごせるよう配慮したケアを受ける事ができる場所が殆ど。より良い介護を提供するための講習も各施設で行われています。
また、「認知症サポーターキャラバン」ではより認知症への理解を深めてもらう為各自治体で認知症サポーターの養成講座も随時行われています。
専門職と知識を活用して、ストレスのより少ない介護を地域で実践できるのが望ましいですね。

■信頼できる情報も活用を

 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターでは『認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル©』第二版を公開しており誰でもダウンロードして使う事ができます。車の運転をやめて欲しいけどどう対応したらいいか分からない、という人へのヒントになるかもしれません。
また、公益社団法人認知症の人と家族の会では全国のもの忘れ外来の一覧や認知症についての知識を得る事ができるのでこういった情報を活用する事でストレスの少ない介護を目指す事ができるかも知れません。

 誰でも年を取り、認知症になる可能性は誰しもが持っています。理解できれば対応しやすくなることも多々あります。一人ひとりが知識を持ち、よりよい対応が取れる社会になるといいですよね。

<参考文献>
公益社団法人 全国老人福祉施設協議会出版「介護力向上講習会3 認知症ケア」竹内孝仁著
「認知症サポーターキャラバン」
『認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル©』第二版
公益社団法人認知症の人と家族の会|全国のもの忘れ外来の一覧

<記事化協力>
ピース(@brown_tail)さん