4月16日、レッドブル・エアレースの第2戦の決勝がアメリカ西海岸のサンディエゴで行われ、日本人パイロットの室屋義秀選手が優勝。昨年の千葉に続いての通算2勝目を挙げました。

【関連:2017年開幕直前・室屋義秀選手記者会見】

サンディエゴはかつて、2007年から2009年にかけてレースが開催された場所。2007・2008年は現解説者のポール・ボノム氏が勝ち、2009年にはニコラ・イワノフ選手が勝利しています。レーストラックは以前と同じ海上に設定されました。背景には、かつて横須賀にいた空母ミッドウェイ(CV-41)が記念艦「ミッドウェイ博物館」として控えるロケーションです。

空母ミッドウェイ(CV-41)博物館をバックに飛ぶ(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

空母ミッドウェイ(CV-41)博物館をバックに飛ぶ(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

■サンディエゴのトラック解説

当時はエアゲートも通過方法の異なる3種類があり、エンジンのチューンナップも可能でしたが、現行のルールになってからは初めての開催。この為トラックレイアウトがどうなるか注目でしたが、開幕戦のアブダビに類似した周回コースになりました。

サンディエゴ大会のトラック(画像:Red Bull Media House)

サンディエゴ大会のトラック(画像:Red Bull Media House)

スタートゲートの後にシケイン(ゲート2)を通過し、反対側にあるゲート4へのハイGターンの途中にゲート3を挟みます。シングルパイロンのゲート5を通過してゲート6、ゲート7通過後にバーティカルターンで折り返し、スタートゲートに戻ります。同じコースをもう1周してゴール。想定タイムは1分〜58秒台といったところです。

シケインをリズムよく通過してターンに移りますが、ここからが一気に難しくなります。ハイGターンで速度を維持しつつ、ゲート4へ膨らまず良い角度で入れないと、シングルパイロンのゲート5からゲート6へのラインが乱れます。ゲート6〜ゲート7は実際に飛ぶと意外に間隔が詰まっており、ズレも大きい為一直線に飛ぶことができません。つまりゲート6への進入が良い角度でないと、ゲート7へは大きく修正をしなくてはならなくなるのです。風に流されたりして膨らめばパイロンヒット、大きな進路修正で速度を失えば、続いてのバーティカルターンで失速し、タイムロスしてしまいます。ハイGターン後のゲート4から始まる「バックセクション」をいかにミスなく、速度のロスを抑えて飛べるかが攻略の鍵です。

■ニューカラーの室屋機

この大会を前に、室屋選手は愛機のカラーリングを一新しました。シャンパンシルバーからスポンサーであるタイヤブランド、FALKENのレーシングマシンと共通のものとなり、機首部分はグリーン、胴体後半部分が濃いブルーに彩られました。垂直尾翼の上部と車輪カバー(スパッツ)は、室屋選手が2009年に参戦して以来変わらない「日の丸レッド」です。

新カラーリングの室屋機(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

新カラーリングの室屋機(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

■フリープラクティスと予選

開幕戦のアブダビ、予選でまさかのエンジン出力低下に泣いた室屋選手。2016年のセッティングに戻した決勝では速度が回復したものの、速度が変わりすぎた為に操縦感覚をアジャストできず、無念のオーバーGで13位に沈みました。その後、カリフォルニアにあるチームエンジニアのピーター・コンウェイ氏の工房で、原因究明と修正作業に専念した結果、サンディエゴ入りしてからの室屋選手は好調。フリープラクティスでは好タイムを連発し、金曜2回目では2番手、予選当日の午前中に行われた最後の3回目では、ただひとり57秒台のトラックレコードタイムを叩き出して堂々のトップとなりました。

(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

しかし好事魔多し。自信を持って臨んだ予選では、1回目はゲート3で通過高度違反(Too High=高過ぎ)で2秒のペナルティ、2回目は59秒384でゴールしたものの、審議の末2周目のバーティカルターン直前、ゲート14(7)でインコレクトレベルとなり、2秒のペナルティが加算されて1分1秒384。結局予選は10位に終わりました。予選トップは昨年の年間王者ドルダラー選手。以下地元のグーリアン選手、3位にアブダビで初優勝したションカ選手と続き、アブダビではメーカーレンタル機でしたが、ようやく自前のニューマシンであるエッジ540V3を手にしたホール選手が4位に。今年からマスタークラスに参戦しているミカ・ブラジョー選手は、午前中のフリープラクティス時に機体に問題が見つかり、予選を飛べずに最下位扱いとなりました。

予選1位のドルダラー選手(Andreas Langreiter/Red Bull Content Pool)

予選1位のドルダラー選手(Andreas Langreiter/Red Bull Content Pool)

■ラウンド・オブ14

迎えた決勝。予選10位の室屋選手はヒート1の先攻としてマクロード選手と対戦。いきなり59秒280のタイムを叩き出します。マクロード選手は、途中計時の時点では室屋選手のタイムを上回るなど互角だったものの、2周目のシケインからゲート10(3)へ向かう際に若干失速し、そこから伸びが悪くなりました。その後のバーティカルターンでも差が広がり、0秒458差の59秒738でゴール。室屋選手が勝利しました。

「自前の」エッジで初のレースとなったホール選手(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

「自前の」エッジで初のレースとなったホール選手(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

ラウンド・オブ8一番のハイライトは、ヒート2のポドルンシェク選手対ホール選手。室屋選手が以前使っていたマシンを受け継いだ先攻のポドルンシェク選手が、59秒を切る58秒929というタイムを叩き出してプレッシャーをかけます。「まだMXS-Rの操縦感覚が体に染み付いていて、エッジの反応に合わせきれていない」と語るホール選手が59秒672(ラウンド・オブ14全体の5番手タイム)で駆け抜けますが届かず。ヒート4の敗者ションカ選手が59秒479をマークしてファステストルーザーとなった為、ホール選手は緒戦で姿を消しました。

■ラウンド・オブ8

風が徐々に強さを増し、制限値の18ノットに近づきつつある状況で始まったラウンド・オブ8最初の対戦は、ファステストルーザーのションカ選手と室屋選手。先攻のションカ選手はスムーズなフライトで59秒492。「(ラウンド・オブ14と)同じラインで飛ぶ」と離陸前に語っていた後攻の室屋選手、ラウンド・オブ14からさらにタイムを刻んで59秒271。ションカ選手を下してファイナル4へ進みました。ゲート3からゲート4へのラインがションカ選手よりタイトで、2回目のバーティカルターンからの下降局面で、うまく加速したことが勝因でしょう。

続いてドルダラー選手がコプシュタイン選手を0秒730差で撃破。古豪同士の対決となったチャンブリス選手対イワノフ選手は、後攻のイワノフ選手がゲート3で痛恨のインコレクトレベル。今週ずっと悩まれてきたオーバーロール(必要以上に回転してしまう)によって2秒のペナルティが付加され、地元アメリカのチャンブリス選手がファイナル4へ進みました。

もう一人の地元アメリカ人パイロット、グーリアン選手は1周目のゲート7でギリギリのラインを突くものの風に流され、痛恨のパイロンヒット。フリープラクティスからいいタイムをマークしていても3秒のペナルティは大きく、ミスなく確実に飛んだポドルンシェク選手に敗退しました。ポドルンシェク選手は、マスタークラス参戦2年目にして初のファイナル4進出です。

ポドルンシェク選手のフライト(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

ポドルンシェク選手のフライト(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

■ファイナル4・室屋選手2勝目を決める

ファイナル4に進んだのは室屋選手に加え、ドルダラー選手、チャンブリス選手、ポドルンシェク選手(スタート順)。まずは室屋選手がこの日最速となる58秒529のスーパーラップで駆け抜けます。ポドルンシェク選手が、1分0秒454のタイムをマークします。続いて、予選で58秒332をマークしているドルダラー選手が飛びますが、途中計時で室屋選手を上回っていたものの、最後のバーティカルターンとなるゲート14で痛恨のパイロンヒット! 直前のゲート13への進入を少々ミスしてしまい、その分外に進路がズレてゲート14への進入角が厳しくなってしまいました。3秒のペナルティで1分1秒648。地元アメリカの期待を背負ったチャンブリス選手は、バーティカルターンが大きくなってタイムをロスした上、ゲート10(3)で高く飛びすぎて通過高度違反の2秒ペナルティを付加され万事休す。1分2秒713で暫定3番手タイムとなりました。ここで室屋選手は2位以上が確定して、ハンガーで最後のポドルンシェク選手のフライトを待ちます。

ハンガーで結果を待つ室屋選手ら(Balazs Gardi/Red Bull Content Pool)

ハンガーで結果を待つ室屋選手ら(Balazs Gardi/Red Bull Content Pool)

初のファイナル4進出となったポドルンシェク選手。ミスなく飛んだものの1分0秒454の2番手タイムにとどまり、室屋選手の通算2勝目が決まりました。ポドルンシェク選手は2位となり参戦2年目にして初の表彰台、3位にドルダラー選手が入り、地元アメリカのチャンブリス選手は4位となりました。

優勝が決まり喜ぶ室屋選手(Balazs Gardi/Red Bull Content Pool)

優勝が決まり喜ぶ室屋選手(Balazs Gardi/Red Bull Content Pool)

レースエアポートでのインタビューで、
「アブダビではつらい結果となりましたが、ここ一ヶ月ばかり一生懸命頑張って、こういう結果になってハッピーです」
と語った室屋選手、ここアメリカで通算2勝目となりましたが、去年の千葉と較べてどうですか、と訊かれると
「実際、去年とはまた違った感じですね。2勝目ですし、チームもさらに強くなっています。クルーも一生懸命やってくれていますし、家族もよく支えてくれています。全てに感謝しています」
年間王者争いについて、1勝して地元千葉に凱旋することについては
「千葉は自分にとって重要なレースだし、ここで勝ったことは大きなステップになりますよ」
と語り、最後は投げキッスで締めくくってくれました。

表彰式(Balazs Gardi/Red Bull Content Pool)

表彰式(Balazs Gardi/Red Bull Content Pool)

■記者会見

記者会見でレースでのプランを聞かれた室屋選手は、
「フリープラクティスから非常にいいライン取りでフライトができていて、決勝でもそれを変えず、同じように飛ぼうと努めていました。いつもは決勝でもっとプッシュしようとして……ご存知のように昨年後半はそんな風にして、ファイナル4を目前にもがくことが多かったんですが、今回はプランを変えずに、しっかり行こうと決めていました」

(Andreas Langreiter/Red Bull Content Pool)

(Andreas Langreiter/Red Bull Content Pool)

昨年の千葉に続いて、通算2勝目となったのは別の国になりましたが、という質問には、
「ここサンディエゴや、ロサンゼルス地区というのは、僕が飛行機のライセンスを取った土地で、たくさん飛んだ経験がありまして。だから母国みたいな感じでいるんです。だからここで飛べて、さらに勝てたんですから、とてもハッピーですよ」

今回のサンディエゴでは、多くの選手が愛機にウイングレットをつけ、ウイングレットをつけない選手は少数派(室屋選手の他はルボット選手とボルトン選手のみ)になりました。ウイングレットはつけないのか、という質問に
「本当はつけたいですよ(笑)。でも実際問題、設計して、製作して……となると時間がかかるので。いつか……多分今シーズンの終わり頃には形になるかも。ただ、(現在つけているレイクド)ウイングチップは似たような効果をもたらす(筆者注:「レース機に使われているテクノロジーはすごいんです!」記事参照)ので、今のところウイングレットなしでもいいかな、と思っています」

次戦、日本のメディアが非常に注目し、10万人規模の観客が集まる千葉について問われ、
「そうですね、メディアの注目もものすごくて、昨年勝ったということで、自分にとって熱いレースになると思います。ファンの皆さんが後押ししてくれるし、楽しみにしていますよ」

代表質問に続いて地元サンディエゴの新聞、ユニオン・トリビューンの記者から、素人目に見て、ゴースト(テレビ画面に合成される、他の選手が飛んだ軌跡)を見ていると、バーティカルターンのゲート通過でタイムを稼いでいるように見えたが、どういう戦略で臨んだのか、という質問があり、室屋選手は
「なるべくゲート6から(バーティカルターンする)ゲート7までを直線的に飛べれば速くなるのは皆解ってるんですが、ゲートの角度が非常に狭くて、実際に飛ぶのは難しいんです。僕はたまたまうまくいきましたが、マティアス(・ドルダラー選手)はパイロンヒットしてしまった。非常に微妙な……多分3度程度しか角度の余裕がないんですが、ここをうまく飛べれば0.3秒くらい変わってきます。それと、バーティカルターンでもオーバーGギリギリを攻めた結果だと思います」
と答えていました。

この他、次戦千葉で連覇を狙うかという質問には、
「もちろん勝ちたいとは思いますが、他のパイロット達も非常に強いので、どうなるか判りませんね……。でも、ベストの準備をして、最善を尽くしたいと思います。幸い飛行機もいい状態ですし、(連覇の)チャンスはあると思っています」
と意気込みを語りました。サンディエゴに続く連勝、そして地元千葉での連覇が楽しみですね。

(Andreas Langreiter/Red Bull Content Pool)

(Andreas Langreiter/Red Bull Content Pool)

注目の次戦、千葉大会は、千葉市の幕張海浜公園を舞台に6月3日(予選)・4日(決勝)開催予定です。

(咲村珠樹)