「うちの本棚」、今回も芸文コミックスの劇画作品からピックアップ! 旭丘光志の社会派劇画『仮想敵機を撃て』です。

航空自衛隊のパイロットである兄、風俗店のコンサルタントをする弟を軸に進行する社会派劇画。
兄にコンプレックスを持っている弟は自衛隊の基地のある街で、自衛隊員を相手にした風俗店で儲けようとがむしゃらに努力する一方、兄は自衛隊内の陰謀に巻き込まれていく。


ブレーンとしてクレジットされている野尻敏彦は「東京小劇場」の主催者で演出家。実質的な原作者でもある。また『仮想敵機を撃て』は200ページを一挙掲載という形で発表されたようである。

自衛隊を取り巻く環境や国民の印象は現在とは違っているだろうが、日本の国防を考えるキッカケにはなるかもしれない。
『アフリカの標的』はヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』を引用しながら、ナイロビの日系工場に新しく工場長として赴任した主人公が登場するファーストシーンから、前任の工場長の行方不明についての謎めいた現地従業員たちの態度と、ミステリアスな展開となっていく。そして主人公を狙う怪しい人影が…。

アフリカという舞台を活かしつつ読み切り作品としてまとまった小品。
『自衛隊叛乱』は最高裁判所が自衛隊を違憲と判決するところから始まるストーリー。こちらもいまとはいろいろと環境も印象も違うだろうが、国家と国民と自衛隊の関係について考えるキッカケにはなるかもしれない。
 
この単行本が発行された当時、石油ショックなどの影響もあったのだろうが雑誌と同じような紙質と印刷でいささか残念な印象がある。劇画作品の場合細かい線も多いので印刷が荒いのは致命的だ。社会派作品としてテーマを前面に出している作品なだけに惜しい。もっとも時事ネタとして捉えるならばそれも仕方なかったのかもしれないが。
 
旭丘光志は、漫画家としてはほかに『キャプテンスカーレット(少年ブック)』や『怪奇大作戦(小学五年生)』といったコミカライズ作品、『暗黒列島(少年ジャンプ)』『まぼろしの拳銃(少年ジャンプ)』などがあるが、ジャーナリストとしても活躍していてノンフィクションの著書は漫画作品より多い。また小説作品に『中川一郎怪死事件(日本文華社)』という作品もある。

このジャーナリストという側面は『仮想敵機を撃て』『自衛隊叛乱』でも活かされている。

書 名/仮想敵機を撃て
著者名/旭丘光志
収録作品/仮想敵機を撃て、アフリカの標的、自衛隊叛乱
発行所/芸文社
初版発行日/昭和49年1月10日
シリーズ名/芸文コミックス

■ライター紹介
【猫目ユウ】

フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。