みなさまこんにちは。咲村珠樹と申します。こちらで今回から、「おたく温故知新」という連載を始めることになりました。

まずは、このコーナーの趣旨についてご説明申し上げます。

現在、おたくカルチャーの中にある様々なもの。よくよく見てみると、過去にそのルーツといえるようなものがあったりするのです。


そういったものを、咲村の無駄な教養(?)をもとに、色々ご紹介していこうと。……そんな極めて主観的かつ趣味的なコーナーです。

新たなものの見方を発見する方もいらっしゃるでしょうし、単に「おたくのたわ言」が並んでいる、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。どうぞ生あたたかい目で見守っていただければ幸いです。また、テーマの性質上、のんびりしたペースで連載していくことになるかと思いますので、その点もご容赦いただき、同じく「あ、なんか更新されてる」程度のゆっくりしたお付き合いをしてくだされば、と思っております。

さて、今回の本題に入りましょう。

『機動戦士ガンダム』『宇宙戦艦ヤマト』『新世紀エヴァンゲリオン』
『南総里見八犬伝』『東海道中膝栗毛』

上は有名なアニメのタイトル、下は江戸時代のエンターテイメント小説ともいえる「戯作(げさく)」本のタイトルです。これらには、ある共通点があります。

判りやすくすると

『機動戦士 ガンダム』『宇宙戦艦 ヤマト』『新世紀 エヴァンゲリオン』
『南総里見 八犬伝』『東海道中 膝栗毛』

という感じ。どのタイトルも、こうやって区切ることができ、それぞれ後半部分が略称として用いられているんですね。これは戯作など、江戸時代に出された読み物のタイトルで、よく行われた方法です。『八犬伝』や『膝栗毛』の、江戸時代に出版された実物(結構いい値段がするので所有できず、写真がないのは申し訳ないんですが)を見ると、前半部分である「南総里見」や「東海道中」は、続く「八犬伝」や「膝栗毛」より小さい文字で、しかも二行に分かち書きされています。

このように書かれたタイトルの前半部分を「角書(つのがき)」といいます。この角書の役目は何かというと、簡単に言えば「タイトルの補足説明」です。

「八犬伝」の場合、中国の「水滸伝」を下敷きにしてる部分があるんで、同じくストレートに「八犬伝」としたかったんでしょうが、これだけでは、どこを舞台にした、どういう話なんだか、読者に対して不親切です。戯作の特徴は、判りやすいエンターテイメント性ですから、補足説明として「南総(南房総地方)」の「里見(家を舞台とした)」お話なんですよ……と入れた訳なんですね。

「膝栗毛」も同様です。「栗毛」は、馬を必要とするような長旅を表した語。「膝」がつくことで、馬でなく自分の膝(つまり徒歩)で長旅をする、という意味になります。直訳すると「長い徒歩旅行」。これだとやっぱり、どこを旅したんだかさっぱり判りません。……そこで内容が「東海道を経由してお伊勢参りに行く話」ですから、補足説明で「東海道中」と、旅した道のりを簡潔に入れた訳です。なお、この作品は大当たりして続編が書かれましたが、そのタイトルはシンプルに『続膝栗毛』。前作で「膝栗毛」シリーズはどういう内容の話か判っているので、あえて補足説明はいらない、ってことですね。

このように考えると、ガンダムにしても「ガンダム」という主役メカの名前だけじゃ、タイトルとして不明確です。そもそも、ガンダムはただのロボットではなく、ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に登場する「パワードスーツ(強化外骨格)」をモチーフにした、「モビルスーツ」という新たな概念のメカです。それをアピールした方がいいでしょう。……で「モビル」を和訳して「機動」、「宇宙の戦士」のイメージから「戦士」を補足説明として加えると、『機動戦士ガンダム』になります。

ヤマトだって、単に「ヤマト」だけじゃ意味が広範すぎます。ただの戦艦じゃない、宇宙を飛ぶ戦艦なんだ……という補足説明を加えて『宇宙戦艦ヤマト』になると、一発で意味が通じます。カッコよさ優先で英訳した『SPACE BATTLESHIP ヤマト』じゃ、いまいちピンと来ませんよね?(^^;

エヴァンゲリオンは、そのまま考えれば「人造人間エヴァンゲリオン」でしょうが、この作品で描いているのは「人類補完計画」だったり、来るべき人類の未来についてだった(本来の隠されたテーマは別ですが)訳で、そういう意味では「新世紀」をタイトルの補足説明に使う方が、より作品全体を網羅する感じになります。

2010年秋期アニメの『おとめ妖怪 ざくろ』も、やはり「おとめ妖怪」が角書(乙女妖怪と漢字表記すれば、ちょうど四文字)という風に解釈できますね。

タイトルの前半部分が角書であるか否かを判断するポイントですが、タイトルロゴで前半部分が小さく表記されていれば、角書と判断していいでしょう。実際「機動戦士」「宇宙戦艦」「新世紀」「おとめ妖怪」すべて、後半部分より小さく表記されているのが判るかと。逆に『鉄人28号』や『鉄腕アトム』は、タイトル全部が同じ大きさで書かれていますので、「鉄人」や「鉄腕」は角書でないと判断することができます。

……もっとも、アニメの製作者が、角書を含めて、このような意図を持ってタイトルをつけたかどうかは、ちょっと判らないんですが……(^^;

タイトルを考える時、製作者のどこかに江戸時代のエンターテイメント「戯作」の遺伝子が含まれていて、それが発露したもの、と考えることもできる、ということですね。

……とまぁ、こんな感じでこれからも、歴史の中から現在のおたく文化につながるようなものを提示して、あーだこーだと言及していきます。以降もよろしくお付き合いいただければ幸いです。

■ライター紹介
【咲村 珠樹】

某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
人生のモットーは「息抜きの合間に人生」
そんな息抜きで得た、無駄に広範な趣味と知識が人生の重荷になってるかも!?
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