ふらりと見知らぬ駅に降りてみる、というのは鉄道旅の醍醐味。ローカル線の場合、人里離れた駅もあり、次の列車が来るまで時間をつぶす旅行者も少なくありません。

 北海道のJR釧路湿原駅に降り立った旅人が、次の列車まで周辺を散策していると、工事現場で「歩行者がいる!」と驚かれてしまいました。こんな場所では、歩行者ってレアキャラ?

 道路工事の人たちに「歩行者!」とレアキャラ扱いされてしまったのは、vege_arrowさん。北海道を鉄道旅行中、これまで釧路湿原をじっくり見たことがなかったこともあり、JR釧網本線のその名も「釧路湿原」駅で下車しました。

 ログハウスの駅舎が特徴の釧路湿原駅。1988年に臨時駅として設置され、1996年に常設駅となった駅で、その駅名の通り釧路湿原と山しか周囲にないようなロケーションです。

 釧網本線は、道東地方の東釧路駅と網走駅とをほぼ南北に結ぶ路線ですが、列車の運行本数は少なく釧路湿原駅では上り下り合わせて15本(釧路方面7本/摩周・網走方面8本)しかやってきません。vege_arrowさんが網走方面から快速列車に乗り、釧路湿原駅に降り立ったのは13時過ぎのことでした。

釧路湿原駅の貼り紙(vege_arrowさん提供)

 時刻表を見ると、次の釧路行きは17時過ぎ。およそ4時間強の待ち時間があります。事前に調べてきているので、次の列車の時間も把握していたのですが「駅周辺の何もなさを実際に見て、ここで4時間もつぶせるだろうかという不安な気持ちになりました」とvege_arrowさん。

 ずっとホームや駅舎にいるのではなく、少し移動すれば色々見るものもあるのではないか……という気持ちで、周辺の散策を始めたそうです。まずは徒歩20分ほどの場所にある「細岡展望台」へ。

 釧路湿原の端部に位置する細岡展望台は、ラムサール条約にも登録されている日本を代表する湿地、釧路湿原を一望できる展望台です。雄大な眺めは一見の価値ありですが、何時間と見ていても風景に大きな変化があるわけでもありません。

 何かほかに風景の変化はないかと、vege_arrowさんは展望台近くの道路に戻り、隣の細岡駅方面へ歩いてみることに。途中で踏切を渡り、道は湿原を流れる釧路川沿いに続いていきます。

途中にあった踏切にて(vege_arrowさん提供)

 30分ほど歩いたところで、前方に道路工事をする人々の姿が見えました。交通の安全確認をしている誘導員の方がvege_arrowさんの姿に気づき、作業する人々に「歩行者!」と注意喚起をします。

 ところが、人家もほぼないこの道路、車は通っても「歩いてる人」は珍しかったようです。最初は「歩行者?」と半信半疑で顔を上げた作業員の皆さんは、本当に歩行者がいることに驚きを隠せません。

 口々に「マジ歩行者!」「超歩行者!」と、まるでゲームでレアモンスターに遭遇したかのような動揺ぶりだったんだとか。地元の人からすると、車で移動するから鉄道利用客のことは考えませんし、どこから出現したかと混乱したのかも知れませんね。

 ちなみに、JR北海道がまとめたデータによると、釧路湿原駅の1日の駅別乗車人員は2016年~2020年の平均で10名以下。隣の細岡駅に至っては「1人以下」という結果となっています。周りに人家はないので徒歩で駅を利用する人はおらず、山と湿原の中を走るこの道路を歩く人に遭遇する確率は、かなりの低さといえるでしょう。

人の気配の全くない道路(vege_arrowさん提供)

 vege_arrowさんはさらに30分ほど歩を進め、細岡駅の先にある達古武湖(たっこぶこ)の周辺を歩いて、細岡駅まで引き返しました。あとはやってくる列車を待つだけ……だったのですが、あまりの暇さに耐えかね、15時53分の反対方向(網走方面)へ行く塘路行きに乗るつもりだったのですが……。

 ここでもちょっとしたハプニングがありました。列車が遅れていたのです。

 都会ならば列車が遅れていることは駅で告知の放送があり、乗客も把握することができますが、無人駅ではそうもいきません。予定の時間が過ぎたのに、やってこない列車を不安の中、待つことになります。

 ようやくやってきた列車に乗り込んだ時、vege_arrowさんは「ただただ嬉しかったです。時間通り到着しなかったせいで、本当に列車は来るのか、何かあったんじゃないか、とかなり不安になっていたので……。あと、文明に守られた安心感のようなものも感じました」と、当時の気持ちを語ってくれました。

 その列車の終点である塘路駅(細岡の隣)からは、本来乗るはずだった釧路行きの列車に連絡し、無事に釧路湿原からの脱出を果たしたvege_arrowさん。歩行者としてレアキャラ扱いされたり、列車が来ない不安と戦ったり、貴重な経験をされたようです。

 北海道は広く、人家の絶えた地域もいくつかあるので、おおらかな大地を味わえると同時に、一人旅の寂しさを抱き締められる土地です。そんなところも、北海道の旅の魅力かも知れませんね。

<記事化協力>
vege_arrowさん(@vege_arrow)
<参考>
JR北海道「地域交通を持続的に維持するために」駅別乗車人員

(咲村珠樹)