新型コロナウイルス感染症で深刻な被害と悲しい現実に直面してしまっているさなか、感染症はコロナだけではない、という事実を突きつけられてしまったツイッターユーザーの悲鳴が、ネット上をざわつかせています。

 「【悲報】俺氏、このクソコロナ騒ぎの最中に結核の濃厚接触者として保健所から連絡来る」というツイートに続き、「まあ普通に考えればそうなんだけど、コロナコロナって騒いでる最中にも普通の感染症はいつも通り営業してるんだよなー」というつぶやき、そして「初めて見た」と、保健所からの通達を写真に撮って投稿しているのは、IT関連企業に勤めるかりんさん。

 かりんさんは、取引先が必要としている業務ソフトを開発したり、ネットワークを構築・メンテしたり、サーバー管理、保守などを取引先で行うお仕事をされており、あちこちのお客さんのところへ出向いてIT関連のお仕事をしています。

 このツイートに、過去に同様の通知が来た、結核は日本ではまだ横ばいで続いている、海外からの輸入結核もあるよね、等々、さらには実際に結核で入院した人の経験も。

 ここで慌てないでいただきたいのが、「結核は濃厚接触してもすぐに菌は増えない」という事。結核菌自体は、毒性は強いものの、コロナウイルスの様な増殖や進行の速さと違い、そんなに速く増殖する訳ではないんです。日光下に数時間晒されると失活(感染する能力を失うこと)しますし、感染して保菌者となっても増殖してから症状が出るまでに結構長いことかかるので、必ずしも「結核感染者に接触=ただちに治療が必要」という訳ではないのです。

 そんな訳で、かりんさんも現状自覚症状がないため、検査・診察は来週半ばに予約となり、特に医師の方からも特別な装備で来るようには言われていないとのこと。

■ 結核とは

 結核菌という細菌が体の中に入り、増えることによって起こる病気の事。BCG(Bacille Calmette-Guerin)ワクチン接種が広まったため、昔に流行した病気、というイメージがありますが、未だ撲滅には至っていません。

 昭和初期頃から中期にかけては結核による死亡者数も多く、多くは肺に結核菌が入り込んで「肺結核」という状態となりました。現在でも、結核の8割は「肺結核」として症状が出ます。肺の他にも、様々な臓器が冒されることもあり、腎臓、リンパ節、骨、脳など体のあらゆる部分に影響が及ぶことがあります。

 後期高齢者が昔かかった事がある病気として、肺結核の他に「脊椎カリエス」という病気もありますが、これも結核菌による病変。こちらも薬剤で治療できますが、骨のどこかに結核菌が隠れていることも多く、加齢や体力の低下、他の病気に乗じて再燃することもあります。結核は「2類感染症」という扱いとなり、発症した全数を国に報告する対象となっている病気です。2類感染症は結核の他、急性灰白髄炎、ジフテリア、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)、MERS(ベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスによる中東呼吸器症候群)、SARS(コロナウイルス属SARSコロナウイルスによる重症呼吸器症候群)が指定されています。

 健診を受けるようにと通知が来た段階では、特に症状が出ていない人の方が圧倒的に多く、もしも検査で菌が体内にあると診断されても、咳や痰などで結核菌が外に出る(排菌)事がない限り、他の人に移すこともありません。

 また、海外からの輸入結核も多く、国内の発症者総数は毎年1万7000人ほどにのぼります。病院で結核と診断され、咳や痰などからの排菌がある場合、結核専用の病室がある病院での隔離入院になります。

 同時に、排菌している患者を確認した場合、医師より保健所へ届け出る義務があり、保健所は排菌が確認された患者がいつ誰と接触しているかなどを調べることとなっています。かりんさんのところに健診を受けるようにと通知が来たのは、かりんさんが回った客先のどこかから結核患者が出たことを意味します。

 したがって、健康診断の結果、保菌しているだけの場合は外来で薬をもらって飲みながら仕事もできますが、保菌状態から軽い風邪症状に移行すると、咳やくしゃみなどから排菌された結核菌が外に出るため、周りの人が感染する可能性があります。

■ 結核菌は忘れた頃に動き出す

 結核患者と接触して感染が確立した場合、感染してから2年くらいの内に発病することが多いとされており、発病者の60%くらいの人が1年以内に発病しています。しかし、一方で、感染後の数年~数十年後に結核を発症する事もありますが、どういった理由で保菌者から発症するかは分かっていないところも多いようです。考えられる可能性としては、他の病気や加齢などによる体力の低下から、それまで抑えられていた結核菌が活動しやすくなり、症状が発生するのではないかという事。

 新型コロナウイルス感染症の場合、4日間以上続く発熱、倦怠感、咳やくしゃみといった症状から急激に病変していきますが、結核菌の場合、風邪かな?と思って2週間ほど市販の風邪薬を飲んでも微熱や咳が続く場合、感染が確立して排菌していると考えた方がよいでしょう。

 現在は結核用の抗菌剤を数種類内服する治療法が確立されており、早期に発見され治療した場合は結核菌を退治する事ができますが、抗菌剤を飲んだり飲まなかったりと不規則な飲み方をしてしまう事は、薬剤耐性菌を生み出してしまう原因となります。薬剤耐性性結核菌の治療となると、使える薬がかなり限られてしまい、治療が難しくなってしまいます。

 結核で一番怖いのが、排菌している人と接触してから感染が成立し、実際に結核菌が活発になるまでがいつになるのか、全く読めないところ。しかも、飛沫や経口感染だけでなく、結核菌自体が空気中に漂うために、その空気を吸い込んで感染する「空気感染」という非常に厄介な感染経路があります。このため、排菌している人と接触している可能性が高い人には、もれなく保健所から結核菌が感染していないかを調べるように通達が行きます。

 今でもツベルクリン検査で陰性であれば、結核のワクチン「BCG(Bacille Calmette-Guerin=ワクチンを開発したパスツール研究所の研究者、カルメットとゲランの菌)」を打つ事になりますが、乳幼児の定期ワクチンに組み込まれていても、ワクチンの効果は10年ほどで失活してまいます。

 そのため、乳幼児期にBCGを接種したからといっても完全に結核菌を防御できる訳ではないようです。大人になってからの結核の鑑別は、空気感染によって直接肺の中に吸い込まれてしまった結核菌が肺で病変を作っているかどうかを確認するための胸部レントゲン撮影やCTスキャン、痰から結核菌が認められるかを確認する喀(かく)痰検査によって行われます。

 結核に非常によく似ているけれど、結核菌とは違う細菌(非結核性抗酸菌)が結核のような症状を引き起こすことがあります。結核菌と非結核性抗酸菌の鑑別には、新型コロナウイルス感染症の鑑別でも話題になったPCR法を用いることで鑑別できますが、この鑑別方法は一般病院に置いてある機械では行うことができず、PCR検査可能な医療機関や地方衛生研究所、民間の検査設備を持つ検査専門の会社などでしか行うことができません。

 もし、排菌している人が複数の人と接触している場合には集団感染も考えうるので、集団感染が疑われるときは、6か月後、1年後、場合により2年後の胸部レントゲン線検査が必要となります。

■ 疑わしきはまず保健所にお電話を

 かりんさんの場合、持病に2型糖尿病があるとの事。もし感染、発症してしまうと必要な内服薬が一気に増えてしまうので、うっかり抗菌剤を飲み忘れる事が続いたり、症状が治まったから飲まなくなった、再発したから飲んだという抗菌剤の使い方をしてしまうと、多剤耐性菌をつくるばかりか、他の感染症に対しても免疫機構が落ちてしまう場合も考えられます。

 このため、結核の人に接触しているかもしれないという保健所のお達しが来たら、きちんと医療機関に連絡を入れて、検査の予約を取りましょう。そして、昔に保健所からの検査のお達しが来ていた人で、2週間以上風邪症状が続く人がいれば、いきなり病院に行かずに保健所にまずは連絡してください。

 結核の入院を受け入れられる機能は、全部の総合病院にあるものではありません。この辺は新型コロナウイルス感染症と同じで、感染が広がりやすい危険物として扱われていますので、結核菌が専用病棟から外に広がらないような病棟・病室の作りになっています。

 なので、結核の疑いとの通知が来たらまずは検査を。そして、昔通知を受けたものの検査に行かなかった・行けなかった人も、通知を受けた地域の保健所といつ頃かが分かるようであれば、一度必ず検査を受けましょう。そして、企業で働いている人は企業健診を、その他の人は国民健診を年に1度は受けてくださいね。

<参考>結核とは – 厚生労働省-戸山研究庁舎
結核Q&A | 公益財団法人結核予防会
結核の基礎知識 – 結核予防会結核研究所
など

<記事化協力>
かりんさん(@keikunyan)

(梓川みいな/正看護師)