最新の科学に関するニュースは、なんだかワクワクする気持ちにさせてくれるもの。それは100年前の明治時代でも同じだったようです。のみの市で手に入れたという古いスクラップ帳がTwitterに投稿され、話題を呼んでいます。

 このスクラップ帳を手に入れたのは、もんしゅさん。戦前期のかわいい物(玩具や生活雑貨)を主に取り扱う古物商を営んでいらっしゃいます。入手したのみの市は、関東圏で開催されているもので、全国の古物商の方が参加されているものだとのこと。

 もんしゅさんも、お店で取り扱う戦前期のグッズに、いい出物がないかと足を運んだそうです。それと同時に、ご自分がコレクションしている戦前の日本の不思議な物、ちょっと怖い雑貨や書籍についても探していたところ、出会ったのが青い表紙の古ぼけたノート。

 表紙はかなりすり切れており、持ち主の名前などは分かりません。開いて中を見てみると、なにやら様々な切り抜きが貼り付けられたスクラップ帳だったのです。


 どうやら、内容は科学関係の記事が集められている様子。それにしても、取り上げられているのが「彗星の尾の瓶詰」や「飯の代わりに電気」など、どれもが「ホントかよ?」と思ってしまう怪しげなものばかりです。「彗星の尾の瓶詰」は、1910(明治43)年に最接近したハレー彗星の尾を瓶詰めにした、という怪しげなグッズ。


 もんしゅさんがお気に入りだというのが「飯の代わりに電気」という記事。フランスのボルドーで開かれた科学大会で、ボルドー大学のベルゴニー教授が、電気がある程度まで食物の代用をするという実験結果を報告したというものです。

 これらの記事が、一体どんなものに掲載されたものなのか。もんしゅさんも出典が分かりかねる状態でした。唯一、手がかりといえそうなのが、記事に書き込まれた数字。


 筆者はこれを、記事が掲載された日付ではないかと考え、新聞記事のスクラップではないかという推論を立てました。そして、そういった記事を掲載する可能性がある新聞に、筆者は心当たりがあったのです。

 それは、言論人の黒岩涙香が創刊した新聞「萬朝報」。「よろずちょうほう(重宝)」という語呂から名付けられた、明治後期〜大正時代にかけて、発行部数が日本一になった新聞(日刊紙)です。なかでも第3面にゴシップや事件事故など、世間の耳目を集めるような記事を載せ、それらの俗称である「三面記事」という言葉の語源となったことでも知られます。

 萬朝報は1940(昭和15)年に夕刊紙の「東京毎夕新聞」に吸収されて廃刊。東京毎夕新聞も1941(昭和16)年に廃刊となり、その流れは途絶えています。

 国立国会図書館には、駒澤大学図書館が所蔵する「萬朝報」を底本として日本図書センターが1983(昭和58)年に刊行した縮刷版「萬朝報 復刻版」が所蔵されています。スクラップ帳の数字を日付と仮定して、記事を検索しました。

 すると……ありました。「彗星の尾の瓶詰」は、明治43年3月17日付の第1面記事です。

 当時最先端の医療として普及しつつあった、放射線治療の線源として利用されていたラジウムを医療機関に貸し付ける、という「ラヂウム貸付銀行」の記事は、明治43(1910)年3月8日付の萬朝報第1面に掲載されていました。

 また、明治43年5月26日付第1面には、フランスのドアイアン博士による「新発明の長命薬」の記事が。

 星(恒星)の色をもとにその表面温度を計測するという「星熱計量機械」は、明治43年9月5日付の紙面にありました。

 エジソンが発明した「電線を要せざる新電車」(今でいうバッテリー駆動の電車)と「無線電話でオペラ」(電波によるオペラ中継)は、明治43年3月26日の紙面に掲載されていました。

 萬朝報の特色は、娯楽的な色彩が強いこと。なので、一般市民の興味を引きそうな話題を見つけては、それを紹介するというスタイルでした。

 この当時のジャーナリズムは、まだ情報の真贋について細かく検証するという体制が整っていなかったため、今の目線で見ると不思議な科学記事がいくつも掲載されていたようです。このスクラップ帳の持ち主は、多少なりとも科学に興味を持ち、それがもたらす夢を楽しんでいたのかもしれませんね。

<記事化協力>
もんしゅ(@yakedooo)さん
<資料協力>
国立国会図書館(国図利1901045-4-360号)

(咲村珠樹)