最近、ツイッターのあちこちで「高校生でも避妊目的ではなく治療目的でピルを飲んでいることを知って欲しい」「ピルを飲み始めて生理前からの苦しみから解放されたのでお勧め」という話題が出ています。一方、ピルの副作用かもしれないといえる、血栓症になった人のツイートも話題になっており、物議となっています。

 「手放しでピル絶賛するツイートが蔓延してるけど…せめて使用前も使用中も定期的に血液検査してくれるところで処方してもらってくれ…数ヶ月に1回血圧計るだけで診察もなしに処方だけされる病院でラクチ~ンと思ってたらある日突然血栓で全身痙攣して死にかけた私が何度でも言う」と、自身の経験から血栓症の恐怖をツイッターに投稿したのは、ネットユーザーのかるこさん。

 かるこさんはその後ピルの服用は諦めたということですが、このツイートは他のピル服用者や産婦人科医アカウントからも反応が。ちなみに話題になったツイートの血液検査についての補足ですが、細かく説明するとこの場合の検査はD-dimerという検査項目を含む特殊な血液検査です。これは血栓ができたことを知る手立てなので、血液検査自体に予防・予測効果はありません。あくまで状態を知る手段の一つです。その点は誤解がないよう。健康診断などで行う項目にはこの特殊な検査はルーチンとしては含まれないので、家族に血栓による疾患がある人など、血栓ができるリスクが高いがピルによる治療が効果が高い(リスクよりも恩恵が高い)という判断のもとで処方される場合に限って、D-dimerを検査項目に追加する場合もありますが、この検査は血栓ができている時に数値が上がるものであるため、予測としての検査項目に必ずしも入れる必要はないのです。

■ ピルにも種類が色々ある

 ひと口にピルと言っても、その種類は多種にわたり、卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が1錠中50μgより多い「高用量」、エストロゲンの量が1錠中50μgの「中用量」、エストロゲンの量が1錠中50μgより少ない「低用量」大体30μg~35μg)、エストロゲンの量が1錠中30μgより少ない「超低用量」の4種類に分けられます。

 最近、レイプ被害などの後にオンライン診療にてアフターピルを処方できる制度が議論にあがっていますが、これは高濃度の黄体ホルモン(プロゲステロン)を一時的に摂取することで受精卵の着床を妨害するものなので、治療目的で処方されるピルとは別物となります。

■ 治療目的に使われるピルは

 治療目的で処方されるピルは、現在では低~超低用量ピルが主流。ピルを服用すると、エストロゲンとプロゲステロンが複合的に配合されている作用により、これらのホルモンの体内量が一定します。生理前のイライラ、頭痛などの多岐にわたる症状が出現する月経前症候群(PMS)や、子宮内膜症や子宮筋腫、生理不順や重い生理痛など、多くの症状を抑える作用が期待できます。これらの治療に使われるものは診断名が付くとともに、保険適応となります。

 しかし、ピルには副作用として重大なものもあります。それが、先述のかるこさんが発症した、血栓症。

■ 血栓症はいつ起こるかわからない

 ピルの処方には慎重を期す医師が一般的には多く、35歳以上、1日15本以上の喫煙歴あり、高血圧がある、の3つを満たしている人にはまず処方されないことが一般的になっています。また、片頭痛がある人にも慎重な投与となっています。ピルの副作用として、血液の凝固作用を促進させるというものがあるため、喫煙や年齢による血栓のできやすさを考えると、ピルの恩恵よりもリスクの方が上回ることになります。

 血栓症はどこに出来るか分からないこともありますが、血液の循環が滞りやすい下肢に出ることがあるため、服用者には軽い運動を続けることがよく勧められます。また、心臓の冠状動脈が血栓で詰まる事で起こる激しい胸の痛み、肺の毛細血管に血栓が詰まる事で起こる呼吸困難や胸痛、脳の一部の血管に血栓が詰まる事によって起こる様々な神経系の異常など、血栓ができた場所によって多種多様な症状が出る事があります。どの症状も重篤な状態に繋がるので、ピルを飲んでいる人は必ず、水分をしっかり摂ること、下肢を動かさないままでいないこと、今までにない体の一部の痛みや足のむくみ、視覚の急激な異常などを感じたら速やかに診察を受けるようにと、患者さんに伝えているはずです。

 逆に、これらの症状に気を付けるように言わない医師がいたら、他の医師にかかることをお勧めします。

■ 実際にピルを服用している人の例から

 実は筆者(42歳女性・喫煙歴なし)も、ピルを服用している者の一人。PMSと重めの生理痛(月経困難症)で超低用量ピルのジェネリック製品を処方されて1年以上が経過しました。最初の数か月は、1か月ごとに診察を受け、血圧を測り、足のむくみや痛みなどがないかを問診されましたが、半年くらいからは「特に副作用も問題なさそう」ということで3か月に1回の診察に。診察のたびに、「足の痛みやむくみはないか、胸の痛みや呼吸困難などはないか」などを聞き、血栓症らしき症状が出たら即救急にかかること、と受診するたびに口酸っぱくいう医師です。

筆者服用の低用量ピル

ピルの注意書き

 そんな筆者、ピルの服薬を始めて4か月くらいしたころ、やたら左のふくらはぎが痛むため、心配になって救急外来へ駆け込んだ事がありました。結論からいえば、血栓ではなくデスクワークの姿勢の乱れによるものと結論付けられたわけですが、あまりの痛みと、もし血栓症であれば夜間のクリニックでは対応できないのでは、という考えから、大病院へ。痛む方の足の触診と、動脈の脈拍に異常がないか、そして血液検査を受けた結果、凝固系に問題はなく、血栓の可能性は否定されるとの診断。痛み止めだけ念のためもらって帰ってきたのでした。

■ リスクと恩恵、どちらを取るか

 筆者の場合、年齢的なリスクのみということで、定期的な診察を受けながらピルを処方してもらっています。その代わり、デスクワークでもなるべく足を動かしたり、こまめな水分補給を行うなどして対策をとっています。今のところ服薬による恩恵を受けていますが、一度でも血栓症になってしまったら、もうピルを飲む事はないと思います。その代わりに、他に生理痛やPMSなどが軽減できるものがないかを医師と相談することになると思います。

 どの薬でもそうですが、作用がある代わりに副作用もあります。作用のみが出る場合は問題ないのですが、副作用の方が作用を上回るとなると、その後の治療や生活の質にも影響が出てきます。市販されている薬は、副作用の少ないかわりに効果も穏やかなものが多いのですが、市販薬では抑えきれない症状の場合はやはり専門医に相談することが望ましいといえます。

 医師にかかる場合は、どのような症状で困っているか、具体的にどの症状を緩和・治療したいかなどをしっかりと自分の中で把握して、メモに書き出して受診するのが一番です。ちょっとした不調でも相談できる、信頼できる医師を見つけるためにも、困り事を明確にして、そこに応えてくれる医師に出会えるように、逆に合わないと思ったらためらわずに他の医師にかかることも考えましょう。

<参考>
厚生労働省 平成30年度 第3回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会
「血液凝固のメカニズムとその対策シリーズ」ピルと血液凝固、その対策 日本産科婦人科学会雑誌(PDF)
低用量経口避妊薬 – 日本産科婦人科学会(PDF)

<記事化協力>
かるこさん(@karuco)

※血液検査のD-dimerに関する記述を追記しました。(2019年5月26日)

(梓川みいな/正看護師)