病気や不慮の事故で、思わぬ障害を得ることがある人生。誰でも起こりうる身体や精神の障害は、療養に長い時間を費やすことがほとんどです。通院でネックになってくるのが、医療費。医療費控除以外にも、その通院費用を助けてくれる制度があるのですが、意外と知られていないようです。

 「精神病と戦う人を助けてくれる自立支援医療って制度があるんだけど意外と知られていないっぽい。僕もしばらく知らないまま通ってた。 いつも通う病院や薬局でかかる医療費の自己負担額が1割になったり1ヶ月でかかる自己負担額に上限ができたりとホントに助かる制度なんだよ。 これマジで広まれ」と、自身が手にしたパンフレットの写真とともにツイッターに投稿したのは、作家の錦山まるさん。錦山さん自身、根性論生活でうつ病になり5年半もの間苦んだそう。現在は落ち着いており、メンタル疾患をオープンにして運動が楽しめる場所作りの準備を行っています。

 このツイートに、「この制度があることを知らなかった」「意外と病院とかでは教えてもらえない」といった声が上がっていましたが、一方で制度を活用して自己負担を軽減している人の声も届いています。


■ 「自立支援医療制度」とは

 「自立支援医療制度」は、厚生労働省が定める国の制度です。心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度で通常の健康保険で3割負担となるところがこの制度を使う事で1割負担となったり、さらに所得により自己負担額の上限以上の医療費は免除となるなど、長期療養で医療費や薬剤費の負担を軽減してくれる制度です。

 対象となる人は、精神通院医療、身体障害者福祉法に基づき身体障害者手帳の交付を受けた人が治療により確実に効果が期待できる18歳以上と判定された「更生医療」に当たる人、身体に障害を有する児童で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる18歳未満が該当する「育成医療」と判断された人となります。

 更生医療や育成医療は、肢体不自由や視覚障害、内部障害が認められた時に案内が出る事が多いので比較的この制度を使いやすくなっているようですが、精神通院医療に関しては、病医院での案内があることもないこともあり、分かりにくい支援策となっているようです。

■ 実際に自立支援医療を使っている人の例

 これは筆者のことなのですが、家庭の事や子どものことなどのストレスが同時期に一気に押し寄せたことで、筆者はうつを発症しました。かれこれ5年以上前の話になりますが、当時働いていた老人施設の職も、働く意欲はあって仕事自体は好きなのになぜか出勤できない、目が覚めても体が動かない、出勤できても以前のようにはつらつとした元気さを利用者さんに見せることが辛くなったなどといった状態に陥り、うつと診断されたあとは休職と復職を繰り返していました。休職中は薬を飲みながらひたすら横になる日々。そんな通院の日々を繰り返していましたが、通院先のクリニックに「自立支援医療」の案内ポスターが掲示されていました。

 治療を開始してから半年くらい経過したある日、この制度について主治医に尋ねてみると、「あなたは長期にわたって治療が必要な状態になると思われるので診断書を書きますよ」と告げられました。

 厚生労働省の「自立支援医療(精神通院医療)について」の項目には、「通院による精神医療を続ける必要がある方の通院医療費の自己負担を軽減するための公費負担医療制度」とあり、「医療保険の『多数回該当』の方(直近の12か月間に、国民健康保険などの公的医療保険の『高額療養費』の支給を3回以上受けた方)(1)症状性を含む器質性精神障害 (2)精神作用物質使用による精神及び行動の障害 (3)統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 (4)うつ病、躁うつ病などの気分障害 (5)てんかん」また、「3年以上精神医療を経験している医師から、情動及び行動の障害又は不安及び不穏状態を示すことから入院によらない計画的かつ集中的な精神医療(状態の維持、悪化予防のための医療を含む)が続けて必要であると判断された方」とあります。

 筆者が通院していたクリニックは、「指定自立支援医療機関」として、この制度を使う事ができるクリニックであり、隣接する薬局も同様の医療機関として指定できたので、この制度を使えるように申請し、長年お世話になることとなりました。この制度は指定された医療機関でしか使えないものなので、受診する医療機関が引っ越しなどで変わる場合、役所や保健所などの担当課で変更する手続きが必要となります。筆者も同じ市内で引っ越した際、医療機関を変更したので引っ越し先の医療機関に予約を取り、保健センターで予約先の医療機関に指定自立支援医療機関の変更手続きをしました。

■ うつかもしれない、病院にかかりたいときは……

 精神疾患は長期化する傾向が非常に強いものです。年単位でじっくりと腰を据えて服薬したり、カウンセリングを受けたりすることが大事ですが、その治療のはじめの一歩がなかなか踏み出しにくい人も多くいると思います。特に新規で受診するときの予約待ちの長さに心が折れるひとも多く、ひとりで抱え込んでしまうことも往々にしてあります。

 しかし、精神疾患は気合で治せるものではありません。心の骨折みたいなものです。骨折して手足が使えない時に気合で治そうとする人がいないのと同じく、適切な治療が必要なものです。精神疾患は何らかの脳のバグが原因なことも多くあります。脳のバグの場合、骨折みたいにきれいに治療するのが困難な場合があります。バグをバグとして認識することでうつなどに向き合うことができることもあります。しかし、それには専門家の助言やバグに立ち向かうための補助剤(治療薬)が必要になるので、予約を待ってでも医療機関にかかることをお勧めします。「指定自立支援医療機関」は役所や保健所などの担当部署で教えてもらうことができるので、自身が通える範囲内の医療機関を教えてもらうと、どこに予約を入れればいいのかの一つの目安となるかと思います。

■ 自分を守るための制度はとにかく活用を

 こうした、「自立支援医療制度」のほかにも、精神障害者手帳を交付してもらうことで受けられる税金の減免や公共交通機関の減免、障害者年金や国民健康保険の減免、国民年金の減免など様々な減免制度があります。自分がどの制度を活用できるかはその状態によって変わってくるので、かかりつけの医療機関やケースワーカー、役所や保健所などの担当部署に相談してみてください。

 生きづらいのは自分のせいでも、誰のせいでもないのです。今生きづらさを抱えている人は、誰かの手を少し借りることで、感じている高い壁(障害)を多少は低く感じることができるかもしれませんよ。そのための制度、有効に活用しましょう。

<引用・参考>
厚生労働省 自立支援医療制度の概要

<記事化協力>
錦山まる@メンヘル筋肉作家さん(@nishikiyamamaru)

(梓川みいな/正看護師)