ほんの軽い気持ちで、誰かにしょうもないイタズラを仕掛ける子ども、多いと思います。しかし、そのイタズラが原因で、誰かを負傷させたり、一生を左右しかねないような大きな後遺症が出ることもあります。そんな実例が以前ツイッターに投稿されました。

 これは、ネットユーザーの桜月さんの息子さんが体験したこと。椅子を引かれて尻もちをついた衝撃や、背中にぶつかるイタズラの衝撃などが重なって、最終的には脳脊髄液減少症と診断されたということです。このことを桜月さんは、「そいえば数ヶ月前に椅子を引かれるイタズラされて尻もちついたらしいの… あのイタズラで減少症になった子供がけっこういるって子供の脳脊髄液減少症に真剣に取り組んでる主治医が言ってたので絶対にやめて欲しい!!! 人の人生壊して多額の賠償金支払わされる可能性もあるってみんな知っておいて!」とツイートしたのが2018年の9月。それまで普通の高校生活を送っていた息子さんは、現在(2019年5月時点)入院しています。

 このツイートは2万回以上リツイートされ、同じ様にイタズラで椅子を引かれたときに多くの実害を語る人がリプライに出現、担任の教師が啓発してくれたという思い出を語る人も。ケガで済んだ場合もありますが、同じ様に脳脊髄液減少症になって今も苦しんでいる人も多くいるようです。

■ 脳脊髄液減少症とは

 脳から出ている神経の束は、硬膜やくも膜といった膜で脳ごと覆われています。その膜の内側には脳脊髄液が満たされており、脳や神経の束を外からの衝撃から和らげるなどの役割を果たしています。しかし、この脳脊髄液がどこかから漏れて、健康な状態以下の量にまで減ってしまうと、頭痛・疲れやすさ・目の幅広い症状・体の一部のしびれ・聴力障害・記憶障害など、実に多岐にわたる症状が出現します。

 しかも、脳脊髄液減少症による症状があまりにも多すぎて、なかなか診断が付かない場合もあります。多くの場合、覆っている膜に穴が開いて、そこから髄液が漏れて症状が出現するのですが、持続的に少しずつ漏れていたりすると、症状の出現も強くないため、脳脊髄液減少症と診断されるまでに非常に長い期間を要することがあります。

 髄液が急激に漏れると、起きている時だけ激しい頭痛やめまい、吐き気などを伴いますが、横になって安静にしていると症状がなくなりますので診断は付きやすくなります。しかし、骨や髄膜が弱い体質だったり、骨粗しょう症などがあると、尻もちなどの衝撃に耐えきれず膜に穴が開いてしまい、少ない量が持続的に漏れてしまう状態に陥ります。このような状態となると、心当たりがないがなぜか疲れやすい、体が凝りやすい、以前は問題なくできた運動ができなくなる、など、症状の出方も緩やかになり、特有な症状と言われる、頭を起こした時の頭痛が出てこない場合も見られます。

■ 実際にこの状態になってしまった息子さんの現在

 桜月さんによると、2019年の6月で18歳になる息子さんが体調不良を訴え始め、疲れやすくなったなどの症状が出始めたのは、発症1年以上前となる、2017年の9月ごろ。部活を辞めて体力に余裕があるはずなのに夏休み終わってからよく頭痛いとか疲れたとか動けないなど、桜月さんに訴えていたそうです。そして、椅子引き事件が起きたのは、息子さんの記憶によれば「クラス替えの前頃(2018年2~3月頃)」で、本格的に症状が出現し始めたのは2018年の年末。ここまで時系列でよむと、症状は事件の前からなので「椅子引きとは関係ない」と思うかもしれませんが、ひとまず続きを読んで下さい。

 実は、桜月さん自身も、約18年前の出産後から原因不明の体調不良が続き、7年前に倒れて以来、脳脊髄液減少症と診断されて長いこと寝込むことがあったり、疲れが回復しないなどの症状を体験しています。そこで、息子さんの原因については「イタズラのせいかは特定できない」と考えつつ、自身の経験から「(体調不良が始まったのは)椅子引きイタズラよりも前ですが、私は何度かの衝撃で徐々に悪化したと見られているので息子も同じなのでは」と考えたそうです。「椅子引き以外にも背中に突撃されるイタズラなんかもその後あったようなので」とも、桜月さん。

 そこで息子さんを専門医に診てもらったところ、やはり脳脊髄液減少症と診断。椅子引きのイタズラの他にも、背中に衝撃を何度か受けたことによるものではということで、精密検査の結果、漏出部分があることが判明したといいます。

 その後、3週間の安静を言い渡され、療養生活をしていた息子さんでしたが、日常生活に戻るとまた症状が悪化。さらに精密な検査となる脳槽システルノグラフィー(脳槽シンチグラフィー)の検査入院を行い、複数の漏出を治療するために3月に自分自身の血液を硬膜外に注入して穴をふさぐ「ブラッドパッチ」という治療を受けました。現在は自宅療養を経て、入院しながら院内学級で学ぶ息子さん。今後、経過を見て再び検査などを行っていくそうです。

■ イタズラは時に傷害事件となる

 こうした重症化した事例ももちろんですが、椅子を引いて尻もちをついた結果、唇や舌を噛み切ってしまい大出血を起こした、イタズラ心でわざとぶつかったら思わぬ転び方をしてしまい骨折した、などの事例は後を絶ちません。そして子どもの無知によるこうしたイタズラからの大事故は、時に怪我をさせた相手の一生を左右することにもなるかもしれません。子ども同士の事故は親同士が話し合って内々に済ませてしまうことも多く、なかなか表に出てきにくいという現状もあります。

 いつ自分の子どもが加害者になるか、また被害者になるか……知識を持っていれば防げることが多い事故。加害者にも被害者にもさせないよう、また、被害に遭った時には担任や親にきちんと報告できるように、このような事例を通して一度親子で話をしておくとよいかもしれませんね。

<参考>
脳脊髄液減少症その臨床像と診断・治療法(PDF)
発症から治癒後まで頭部MRI 所見を追跡し得た特発性低髄液圧症候群の一例(PDF)

<記事化協力>
桜月さん(@841ve_ev)

(梓川みいな/正看護師)