海外からの観光客から沖縄へ持ち込まれた麻疹(はしか)が、今全国に広がろうとしています。これまでの報道でも感染者が沖縄から名古屋に新幹線で移動し問題に、そして航空機の客室乗務員が麻疹を発症した事で大きな問題になっています。医療機関などでも感染者と同じ車内・機内にいた人に受診を呼び掛け、診察前には必ず医療機関に電話で連絡してから受診するようにとしています。

 今再び麻疹が広がりを見せ始めている背景には、ワクチン接種後の免疫の低下や、1回のみの接種で免疫を獲得できなかった人がいるという事、サービス業などで人と接する機会が多い人には特にワクチン接種の必要性が高いハズなのにそれがあまり認識されていない事も背景にあります。

 感染者と同じ空間にいるだけでも空気を介して感染する「空気感染」するほど感染力の高い麻疹。起こった事をこれ以上広げないようにする為に必要な事をお伝えします。

■麻疹の症状

 麻疹は感染成立後約10日間の潜伏期間を経て症状が出現します。咳や鼻水などといった風邪の症状が2~3日続いた後に、39℃台の高熱と全身の発疹(赤いブツブツ)が出現します。この発疹は麻疹の特徴的な症状です。肺炎や中耳炎も合併して発症する事もあり、脳への後遺障害や死亡率も、先進国の中でも1000人に1人と高い割合を示しています。

■麻疹の免疫と妊婦

 特に妊婦に感染した場合は妊娠時ではない状態の時よりも合併症になる率や重症化する率が高くなり、胎児への影響も強く出やすくなります。流産や早産も約3割に起こり、母体にも胎児にも命の危険が伴います。

 出産した母親が麻疹の免疫を獲得していない場合は生まれた子供にも母体の免疫は移行していないので、0~2歳までの間に麻疹にかかってしまうと命に関わる程に重症化しやすい危険性があります。この為通常は1歳からMRワクチンの接種を始めていますが流行地帯となっている沖縄県の一部市町村では生後6か月からワクチンを受けられるように助成を始めています。

 今妊娠している人で麻疹の免疫があるかどうかは、自身の母子手帳を確認してみてください。予防接種が1回だけの場合、免疫が完全にあるとは言い切れない場合もあるのですが、妊娠中のワクチン接種は胎児にも影響を与える可能性が高いのでだめです。また、ワクチン接種から2か月の間は妊娠しない様気を付けてください。この間に妊娠すると胎児の生育に影響が出る恐れがあります。

■非常に強い感染力の麻疹の治療と予防

 現在の医療でも、麻疹のウイルスを確実に体内から消す様な治療法は確立しておらず、発症してしまったら対症療法でしか治療に当たる事ができません。出現した症状に対しそれが悪化しない為の治療のみとなります。肺炎や中耳炎など、細菌感染が併発した場合は抗菌剤を使用する事がありますが麻疹ウイルスには効果はなく、症状が治まるまで悪化させない治療を続ける形となります。 

 感染者と同じ空間にしばらくの間いるだけで感染する麻疹。新幹線や航空機など機密性の高い空間では強い感染力を発揮し、マスクをしていても感染する事があります。この為、もしも麻疹かもしれない、という症状が出現した場合、もしくは感染者と同じ空間にいたかもしれないという場合は絶対にバスや電車などの公共交通機関は使わないでください。絶対にです。バイオテロになります。移動手段は自家用車・またはタクシーなど他の人と乗り合わない移動手段を確保してください。

 これだけ強い感染力を持っていても、ワクチンを接種しておくことで予防する事ができます。感染者ともし接触してしまった場合、免疫がない人は接触後72時間以内にワクチンの接種を受ける事で発症を予防する事ができる可能性があります。また、麻疹・風疹ワクチンを接種した記憶がない人・母子手帳に記録がない人はMRワクチンを接種しておくことで感染を防ぐ事ができます。

 MRワクチンは鶏の卵から作られているので、もし卵に対して強いアレルギー反応を持つ場合は接種が困難な場合もあります。かかりつけの医療機関に相談しましょう。

■免疫があるかどうか不安な人は、まず医療機関に相談

 MRワクチンはあらかじめ接種しておくことで麻疹にかかりにくくなります。これからの行楽の時季、たくさんの人が公共交通機関を利用して移動しますが、ワクチンを接種していれば発症を防ぐ事ができます。自分に免疫があるかどうか不安な人は、まず医療機関に相談してください。そしてこれ以上感染者が増えない様、各自で予防に努めてください。過去に麻疹にかかった事がある人はその時点で免疫が付いていますのでそれ以上ワクチンを接種する必要はありませんが、たとえかかったことがある人がワクチン接種をしても副反応は増強しません。かかったかどうか不明な人、ワクチン接種歴が不明な人は一度医療機関で相談の上、ワクチン接種を考えてください。

 乳児や妊婦の場合は、人混みや公共交通機関を避けるようにしてください。また、幼児や妊婦、これからパートナーと子作りを考えている男性側も忘れず予防接種歴をチェックして、分からない様であれば予防接種をうけましょう。父親側に免疫がなく、家族内に感染を広げるケースも考えられます。自分の身はもちろん、家族の身は自分で守り、他に広げない事が何より大事です。

<参考>
麻しんについて|厚生労働省
麻疹とは|国立感染症研究所
麻疹流行とその対策|大阪府立母子保健総合医療センター産科部長 末原 則幸
麻疹対応についての医療従事者向けQ&A(2018年4月13日版)|沖縄県医師会(PDF)

(梓川みいな / 正看護師)