11月15日、南大西洋で消息を絶ったアルゼンチン海軍の潜水艦サンファン(S-42)。この潜水艦の捜索にはアルゼンチン海軍をはじめ、各国の軍が集結してあたっており、史上最大規模の共同作戦となっています。

 行方不明になっているサンファン(S-42)は、1983年に西ドイツ(当時)のティッセン・ノルトゼーヴェルケ社で建造され、アルゼンチン海軍に引き渡されたTR-1700型潜水艦の1隻。アルゼンチン海軍サンタクルス級潜水艦の2番艦として1985年11月19日に就役しています。全長65.93m、潜航深度300m、水中速力は25ノットを誇り、世界最速のディーゼル潜水艦です。アルゼンチン最南端、フエゴ島にあるウシュアイア海軍基地から、ブエノスアイレス州にあるマル・デル・プラタ海軍基地に向かう、アルゼンチンの排他的経済水域で違法操業する漁船の取り締まり任務航海の途中でした

 通常、乗員は26名ですが、消息を絶った当時は44名が乗艦していました。現在のところ、アルゼンチン海軍から乗員についての情報は公表されていません。電気系統の不具合を伝える通信があったのち、消息を絶ちました。サンファンはディーゼルエンジンで発電し、電動機でスクリューを回すディーゼル・エレクトリック推進の潜水艦なので、電気系統の不具合を報告していたのは気になるところです。

 消息を絶ったところは、フォークランド諸島を過ぎた、行程の中間あたり。アルゼンチン南部のチュブト州にあるサン・ホルヘ湾沖です。この辺りは「吠える40度」と呼ばれる南緯40度付近。強い偏西風が吹く海の難所です。捜索が始まった当初も、悪天候に阻まれていました。アルゼンチン海軍のTwitterでは、捜索中荒れる海に翻弄される駆逐艦サランディ(D-13)から撮影された動画が投稿されています。

 この潜水艦サンファン遭難に、各国の軍や民間企業が捜索への協力を申し出ました。隣国のブラジル、チリ、ウルグアイ、ペルーだけでなく、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスが捜索のために哨戒機を派遣したり、捜索用の艦艇や、潜水艦救難艦・潜水艦救難装備を派遣しています。ロシアも哨戒機の派遣を決定したという発表がありました。現在までに史上最大規模となる、アルゼンチンを含めた9ヶ国による共同作戦となっています。

捜索にあたる航空機・艦船と捜索範囲(画像:Armada Argentina)

捜索にあたる航空機・艦船と捜索範囲(画像:Armada Argentina)

 このような協力体制が敷かれるには訳があります。船乗りには「板子一枚下は地獄」という共通認識から、何かあった時は助け合うというシーマンシップが徹底されているのです。特にアルゼンチン海軍は、潜水艦を運用しているものの潜水艦救難部隊を持っておらず、潜水艦の救難に関するノウハウが不足しているため、各国が積極的に協力しているという側面があるのです。

 このうちアメリカ海軍は、サンディエゴにある唯一の潜水艦救難コマンド(URC)を派遣し、無人潜水艇や救難用チャンバー、与圧救難モジュールをノルウェーの海底調査会社が保有する工作支援船「スカンジ・パタゴニア」にのせて捜索に当たっています。

ノルウェーの工作支援船と米海軍のレスキューチャンバー(画像:U.S.NAVY)

ノルウェーの工作支援船と米海軍のレスキューチャンバー(画像:U.S.NAVY)


ノルウェーの工作支援船に積み込まれる米海軍のレスキューチャンバー(画像:U.S.NAVY)

ノルウェーの工作支援船に積み込まれる米海軍のレスキューチャンバー(画像:U.S.NAVY)


米海軍の無人潜水艇(画像:U.S.NAVY)

米海軍の無人潜水艇(画像:U.S.NAVY)


米海軍の与圧救難モジュール(画像:U.S.NAVY)

米海軍の与圧救難モジュール(画像:U.S.NAVY)

 ブエノスアイレスで現地時間11月23日に行われたアルゼンチン海軍の記者会見では、広報官のエンリケ・バルビ大佐が語ったところによると、有力な手がかりはまだ見つかっていないそうです。

 電気系統の不具合を報告したのち、浮上したのかどうかも判っていませんが、アルゼンチン海軍の規定では、15日間の食料等を常に積載しているとのことなので、浮上していれば今月いっぱいあたりがデッドラインとなります。また、48時間ごとに潜航時に使用する電池への充電と艦内空気の入れ替えのために浮上する規定になっていますから、もしサンファンが海面下にあるという場合には、かなり厳しい状況も考えられます。

 多くの参加国により、史上最大規模で展開されている潜水艦の捜索救難作戦。早く見つかることを祈るばかりです。

(咲村珠樹)