「デブが踏んでも壊れない(ニッコリ)なティッシュボックスですよ。私は90キロ以上ありますがつぶれませんでしたから。」

 こう笑いながら話すのは、福島県会津若松市で紙器業を営む『桐屋紙器』の9代目当主・諏佐淳一郎さん。諏佐さん自ら冗談めかして投稿した内容が、たまたま筆者のSNSタイムラインに流れてきました。見ると「デブが踏んでも壊れない」というイメージとは大分異なり、凜とした美しさの光る繊細なティッシュボックス。

【関連:ネットの話を深掘り! 時代劇に甲冑作りを捧げた男達】

 キャッチフレーズとその美しさがあまりにミスマッチに感じ……でも、諏佐さんの言葉が何となく面白くもあり。さらに言えば仕事柄色んなところにアンテナを張っていますが、「デブが踏んでも壊れない」なんてパンチが効いたキャッチフレーズのティッシュボックスならこれまで話題になっていてもおかしくないのに、全く聞いたことがないのもあり気になって仕方なくなりました。一体このティッシュボックスは何なのか?今回はこの話を深掘りしてみました。

■「デブが踏んでも壊れない」なティッシュボックスができるまで

 諏佐さんの話によると『桐屋』は「おそらく福島県では一番古く、東北でも1、2番」の老舗紙器専門店になるそうです。冒頭でも紹介していますが、諏佐さんはその9代目。

 桐屋はもともと菓子箱や会津漆器の入る紙箱をメインにてがけていたそうですが、平成に入ってからの不況の影響から、取引先の倒産や縮小が相次ぎ売り上げは激減する一方だったそうです。物が売れなければ当然箱も売れないということで、そんな中どうしたらいいか悩んでいたところ思いついたのが「(入れる)物がないならば作ってしまえば良いじゃない!」という発想。

 しかし、桐屋は箱屋。箱屋ならではのものと思案したところ最初にでてきたのが「ティッシュボックス」だったそうです。早速ティッシュボックスを生産し、和紙をはり売ってみると人からは「綺麗」「かわいい」と評価されるものの売れ行きはさっぱり。

 「何がいけないんだろう?」と悩んでいた頃、あるお客さんからこういうわれたそうです。「会津は和紙の産地じゃないよね?とても綺麗だけど私の街でも買えるかもしれない……」。そう、折角つくったにも関わらず“個性”を忘れていたのです。

 そこでさらに思いついたのが「会津木綿を使ったらどうだろう?」というアイデア。しかし、布は紙を貼るのとは訳が違い、しわしわになりノリがしみ出してしまうそうです。ところがその難易度の高い張り方をクリアする人物が実は身近にいました。当時現役だった先代8代目であり、諏佐さんのお父さんがその方法を知っていたそうです。

 その後は親子二人三脚で新商品を開発。箱屋ならではの技術で耐久性を高めより頑丈に、そして9代受け継いだ技術と8代目の職人技を生かして会津木綿を美しく貼り付けた『会津木綿ティッシュボックス』が完成したのです。

 しかし当時はまだ8代目の時代。一緒につくったものの先代のこだわりから扱う商品は「あくまでも主力は漆器問屋さんなどからの注文の箱」。対し次世代を担う9代目にとっては「減る一方の売り上げが気になる……」という目の前の現実が重要でした。何度も重ねられる話し合い。折り合いがつかず8代目と9代目でケンカになることもしばしばだったとか。

 そんな中訪れたのが、2011年3月11日。
「あの東日本大震災が起き、福島は「原発」というおまけもついてしまい、売り上げはまるでフォークボールのようにストンと落ちました。」当時を振り返りこう話す諏佐さん。

 その後はどうしていいか分からないまま時がながれ、8代目は持病であった糖尿が原因であろう腎不全をおこし2013年2月に亡くなりました。

■親子二人三脚で完成させた「会津木綿を使った商品」柱に

 8代目が亡くなって思い出されたのは、やはり親子の絆とも言える「会津木綿を使った商品」。完成から約5年後の出来事でした。

 ただし時期は震災の後。手広く商うこともできません。そこで自宅兼会社の店頭を使い、とりあえず細々でも展開開始することにしたのです。そんな年の暮れ、地元の金融機関の支店長が「中小企業庁の第二創業という補助金がある、ハードルは高いけどチャレンジしてみませんか?」と話をもってきました。第二創業とは現在の業務をベースにした新しい事業を起こす事。藁をもつかむ思いでそのチャンスにかけることを決意。通常業務の傍ら沢山の書類をかき、事業計画をまとめて提出までにこぎつけました。そして発表された翌年2月の採択。受験の合格発表なみにドキドキし、そして採択が知らされた時には大喜びしたそうです。

 そんな喜びもつかの間、採択された以上は事業を展開させていかなければなりません。2月の採択からわずか2か月後の4月には、店舗改装をスタート。6月には完成させようやく「会津木綿を使ったオリジナル商品の店」を本格スタートさせたのです。

 「いかにもサクセスストーリーを歩んだようにもなりますが、現実はまだまだで、ようやく浮上するきっかけをつかんだに過ぎません。」

 ここまでの話の終わりでこんなことをポツリと漏らす諏佐さん。実際、商品はまだ店舗(会津若松市七日町5-8)でのみの取り扱いとなっています。どうやらこの辺の事情がこれまで広く知られてこなかった背景にあるようです。ただ、自宅兼店舗ではじめた2013年と違うのは、商品が口コミで徐々に広がり知られ始めていること。またSNSの普及もそれを手助けしています。

 今では旅館などからティッシュボックスの大量オーダーを受けることもあるそうです。一気に手広くとは行かないまでも、地道にコツコツ9代重ねた桐屋のように、一歩一歩確実に商品が広がるよう頑張っていきたいとしています。

 桐屋の看板商品となる『ティッシュボックス』のラインナップは15種類ほどとなるそうです。「ほど」の部分ですが、実のところ会津木綿さえあれば200~300種は作れるそうですが、会津木綿の織り元さんが2社しかなく、加え会津木綿が人気が高いということもあって非常に会津木綿事態の入手が難しいのだとか。そのため、例えば同じ柄で数十個そろえるというのは時に難しいこともあるそうです。

 なお、価格は1850円~20000円(税込)くらいまで。受注生産の場合には数週間必要となります。今現在は店舗のみの販売となっていますが、物産展など機会があればチャレンジすることも!?なきにしもあらずだそうですよ。

 会津で受け継がれた桐屋の伝統技術を会津で磨かれた会津木綿が美しく彩る名品。「デブが乗っても大丈夫」は諏佐さん独特のジョークから生まれた商品キャッチですが、職人技の光るすばらしい商品であることは誰が見ても一目瞭然。福島県外だとなかなか手に入りにくい商品ではありますが、だからこそ足を運んでその実物に触れてみるのはいかがでしょう。福島はこれから、花も美しくさらに過ごしやすい季節へと移り変わります。長期休暇も増えるこれからの時期、是非旅先の候補に会津若松もご検討ください。

『桐屋』店内 / 画像提供・桐屋

・協力:有限会社桐屋紙器工業所(福島県会津若松市七日町5-8)

(宮崎美和子)