隠密剣士表紙「うちの本棚」、今回取り上げるのは、堀江 卓によるコミカライズ作品『隠密剣士』です。昭和37年から40年にかけて放映された大人気ドラマで、忍者ブームを火付け役だったといわれています。
そんなドラマをオリジナルストーリーで漫画化したのは、『矢車剣之助』の堀江 卓。読みごたえ十分の仕上がりとなっています。

【関連:183回 ジャガーの眼/たつみ勝丸(原作・高垣 眸)】

隠密剣士


本作は、昭和30年代終わりに一世を風靡し、子供たちに忍者ブームを巻き起こしたテレビドラマ『隠密剣士』のコミカライズである。とはいえ内容はドラマの設定を踏襲しつつ堀江オリジナルのストーリーとなっている。

堀江 卓といえば『矢車剣之助』が有名で、いくら撃っても弾が尽きない拳銃だとか、大がかりなカラクリのイメージが強いかもしれないが、本作はテレビドラマを下敷きにしていることもあって、シリアスな忍者作品となっている。

昭和30年代から40年代にかけては白土三平の登場で忍者漫画のブームが起こると同時にそれまでの忍術から忍法に表現が変っていった時期でもある。刀で斬られれば腕が飛び、首が落ちるといった残酷な描写は、一部で批判もされた。本作はそこまで過激な表現こそ出てこないものの、実写ドラマの印象をオリジナルストーリーでも損なわない、劇画調の描写となっている。

堀江 卓は、ともすれば杉浦 茂にも近い力の抜けた絵を描くが、『マイティジャック』のソノシートなどかなり写実的な絵もこなす力量の持ち主で、本作はその中間というべき、バランスの取れた描写で読者を楽しませてくれる。
このころの漫画作品は全体的に1ページや見開きといった大コマで見せることが少ない。本作も最大で半ページ程度が大きなコマといえる。それでも迫力は十分伝わってくる。漫画の表現について考える意味でも若い読者に読んでみて欲しい気がする。

また『隠密剣士』自体は、後年リバイバル的に、新たにコミック版が他の作者によって描かれてもいますが、そちらに関しては「オリジナル作品」と判断して今回は取り上げません。

初出:隠密剣士/講談社「週刊少年マガジン」1963年23号~32号、うず汐太郎/少年画報社「少年画報」1957年1月号~6月号、仇討三番勝負/東邦漫画出版社書き下ろし・1958年

書 名/隠密剣士
著者名/堀江 卓
出版元/パンローリング・マンガショップ
判 型/B6判
定 価/1800円
シリーズ名/マンガショップシリーズ
初版発行日/2009年5月2日
収録作品/隠密剣士、うず汐太郎、仇討三番勝負

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/