近年世界中で一気に普及した「SNS」。日本においても、多くの企業が様々なSNSの「公式アカウント」を有し、情報発信ツールとして活用することが、一般的になってきました。

 同時に注目されはじめたのが、運用業務を行う「SNS広報人材」について。これについて問題提起した投稿が、Twitter上で話題となっています。

「『SNSでの広報できる人材が不足してる!』と言われてるけど、間違い。
足りないのは『SNS広報できる人材の価値がわかり、適切な報酬&権限を与えられる評価できる力&組織の覚悟』よ。
報酬なしで通常業務のついでにやらせて、SNS音痴の上司に許可とらないと何もできない体制だから名乗りでないのよ」

 吉村英崇さん(以下、吉村さん)が、自身のTwitterで提起した投稿。「兵法家」として戦略や戦術の研究をする傍ら、マーケティングや広報戦略についても併行して研究している吉村さんは、「分かりやすくかつ使いやすく」をモットーにした記事を、定期配信しています。

 今回の投稿については、自身もかつて「SNS広報」という業務に携わったうえで感じた気づき。リプライ欄では、上記の補足に加え、「企業が勘違いしてるSNS広報」と銘打った誤解を7回に分けてツイートしています。

 「『SNS広報が上手くいかない』と『人材が集まらない』という2つの問題点について、いい機会だからまとめようと思ったんです」と、「経験者視点」での指摘をされています。

■ 「隗(かい)より始めよ」ってなんなん

「偉い人は故事が大好き!
だけど『隗より始めよ』なんか、マジでやってる会社とかあまりみない(笑)
『SNSできる人いなくてー』と呼ばれた会社を調べたら、少なくともかなりセンスありそうな人の仕事を2、3人ほどみつけた。
人材はいるけど、見つかりたくないのよ。能率あるヒトは。故事のまんま」

 中国の故事からの引用という、活動の源流が孫子の「兵法」である吉村さんらしい投稿。しかしながら、決して洒落っ気で選んでいるわけではありません。

 これは言葉を置き換えれば、「能ある鷹は爪を隠す」ともいえる話で、豊富なセンスを有している人材だからこそ、自分の融通が利かない業務を安易に請け負わないという意味も有しています。

 とはいえ、そういった方は「モチベーション」という特効薬があると、翻意することもしばしば。吉村さんの冒頭の投稿の通り、「それ(報酬)を用意すればいいのでは?」と感じられる方も多いと思います。

 ではなぜそのような状況に陥っているのか。原因について、吉村さんはさらに複数に分けて推察しています。

■ 「SNS広報」理解されてますか?

「#企業が勘違いしてるSNS広報 ※一部を抜粋
●SNS広報は文章かくだけの簡単なお仕事でない
●現代SNSは、双方向性が強く、情報の変化が早く、顧客との距離が大変近い
●SNS広報を任命するには、外交官、諜報局を設置するのに等しい覚悟がいる
●一見、同じにみえるWEBサイト・ブログと、双方向性の高い現代SNSは別モノ
●SNS担当者は瞬間的な判断を求められる事が多い
●SNS広報は無料?もちろん違います。情報を集めたり勉強するので金かかります
●「なんか口調が悪いやつらばかり集まってるんだけど」→今まで見えてなかったお客様の顔がようやく可視化されたようです
●あまり認識されてませんが広報とて営利活動です
●「我が社の利益とは?その根源は?」と担当者は考えます
●そんなわけで、SNS担当者は社内の暗部に詳しくなっていきます。軽い気持ちで任命して大丈夫?

 予め申しておきますが、上記抜粋内容は、吉村さん個人の実務経験による傾向であり、いわば「個人的見解」です。

 その上で、先述の『SNS広報が上手くいかない』『人材が集まらない』という問題点については、「『組織が問題を正しく把握していない』『報連相のトラブルで若手が怯えてでなくなっている』が、要因ではないでしょうか」と、編集部の取材の中で語っています。

 私事ですが、筆者は以前、企業公式Twitter担当者(いわゆる「中の人」)として、業務に従事していました。そして現在は、弊社おたくま経済新聞公式Twitterの運用担当者でもあります。また、ささやかながら、これまで培った運用ノウハウを有しているのもあり、他企業からSNS運用の相談を都度受ける立場だったりします。

 そんな立ち位置で、私も「個人的見解」として申し上げるならば、今回吉村さんが7回に分けた投稿した企業側の「誤解」に賛同できる部分は多く(全てではありません)、かつそれに陥っている2つの要因にもうなずける部分はあります。

 まず『組織が問題を正しく把握していない』ですが、これはそもそも論として、企業がSNSに関しているイメージに関しての「ズレ」が散見されること。端的にいってしまうと、「SNSは無料の金のなる木である」という印象を持たれているということです。

 ただ、これは、完全に的外れな見解というわけでもありません。実際にSNS運用をしたことで、あまりコストをかけず売上に好影響を与えた企業があることは事実です。

 しかし、「金のなる木」になるかどうかというのは、商材次第という側面もあり、そして仮にそれをクリアしていたとしても、長期的視野を持たないと継続していかないということです。

 『報連相のトラブルで若手が怯えてでなくなっている』に対しては、これは全ての年代の担当に当てはまることでもあります。

 SNSがこれまでの既存メディアと決定的に異なるのは、「情報処理に対してのスピード」です。特にTwitterに関しては、リアルタイムで様々な事象が変化しているため、時に担当者は、「勇み足」ともいわれそうな判断に迫られることが多々あります。

 そういった状況下で、従来の価値観による「報連相」では正直全く通用しません。「情報は鮮度が命」という言葉もありますが、昨今はその“賞味期限”が急激に短くなってきています。

 もし仮に、自社に対して格好のアピールチャンスになるような話題が、ある日突然SNS上に降って湧いたとします。ここで、従来の承認フローを得てのアクションしかできない場合、もう既に「祭りのあと」だったというケースは大いにあります。そして、反応をしたとしても、判断の遅さについて批判を受ける可能性すらあります。何もアクションをしないよりは遥かにマシですが。

 というわけで、「企業が時代に順応する」というのが、本稿の結論になっていくのですが、ただ一方で、企業側も全く対応していないわけでもありません。

 吉村さんが今回題材に挙げた「SNS広報」という業務ですが、実は既に10年ほどの歴史を有している仕事でもあります。この間企業側も、それ用の専門部署を設けたり、またそれを管轄する監督者にしたりしても、10年前からは一定レベルの世代交代が行われているため、以前よりはSNSに対する理解度が深まってきています。

■ 仕事は対価あってのものです

 一方で、今回の真の問題なのが、「社内の有望な人材が率先して立候補しない」という点。これは、今回吉村さんが、冒頭の投稿で指摘した「適切な報酬」というのがまだ確立できていないというのが、最大の理由なのではないかと感じます。

 SNSというのは、従来では考えれなかった繋がりが生まれる可能性があり、結果ビジネス展開に繋がるケースも多く存在しています。

 ただし、それに対しての明確な報酬がないのも、事実的側面としてあります。これは成果に対する「比較対象」が存在しないために、“料金設定”がしにくいというのもありますが、とはいえ、「これすごいね、ご苦労さん」という言葉をかければいいというわけではありません。

 これは筆者もかつてそうでしたが、SNS担当者は別途「本業」があり、業務の片手間で運用している方が多いです。そして決定的に時間が足りません。

 「SNSは無料で出来るし、ウチもやってみよう!」というのは、個人的には動機として理解はできます。ただその代わりに、常に担当者をフォローする組織体制を作り、また結果を残したら、しっかりと対価を支払うのは、企業として当然の責務でもあります。担当者はボランティアでやっているわけではありません。

 そういった仕組みを作り上げることができたならば、「この仕事(SNS運用)は、結果を残せば目に見えた評価をもらえる」という印象を持たれ、有望な人材を確保できるように感じます。人気職種にもランクインされるかもしれませんね。

 それを確立させるためには、担当者は実績について正しくアピールをする必要性があります。またあくまで「仕事」としての意識を、根底に持っていく姿勢も大切です。会社に認められたいのなら、相応の振る舞いをするのは当然のことでしょう。

 そうすることで、吉村さんも危惧されていた、「組織や上層部が原因でトラブル化したせいで、末端の担当が離反し人材不足に陥る」という事象も、時間はかかるでしょうが、徐々に改善されていくように感じます。

■ おたくま経済新聞のSNSについて

 少々長々な文面となってしまいましたが、最後に弊社SNSについて触れたいと思います。

 先述の通り、筆者は「おたくま公式Twitter」の運用担当です。が、実は「専任者」ではありません。

 これは弊社の“記事”が、Twitterとも密接にかかわっていることも大きいですが、同時に、SNSアカウントが会社の「共有財産」として機能しているため、特定の人間に負担をかけずにチーム運用していくというのが理由のひとつでもあります。なので、弊社Twitterアカウントでは、筆者以外も様々な編集部メンバーが登場しています。

 また弊社は、役職関係なく一定レベルのネットリテラシーを有しています。そして、時に私がTwitter上で正しくないアクションをした場合も、気兼ねなく指摘できる環境下にあります。ただ、それは圧迫感のあるものではなく、双方がリスペクトした状況下で改善策を取るようになっています。

 ひょっとすると、これは日本企業の中ではレアケースなのかもしれません。小さな会社だから実現している面もあるでしょう。ただ、ひとつだけ申したいのは、この環境を自慢したいわけではありません。え?ならなんで紹介するのかって?

 だって、SNS広報って「仕事」でしょ?

<記事化協力>
吉村英崇さん(@Count_Down_000)

(向山純平)