2018年2月17日~3月23日に、ブラウザゲーム「艦隊これくしょん~艦これ~」に於いて期間限定海域「捷号決戦!邀撃、レイテ沖海戦(後篇)」が開催されました。これは1944(昭和19)年10月に発生したレイテ沖海戦をゲーム中で再現したものです。ここでは、レイテ沖海戦が「艦これ」や各種映像作品でどのように描かれたかを見ていきたいと思います。

 「艦これ」に登場する戦場は、太平洋戦争で実際に戦場となった場所が多いのですが、一方で、モデルとなった地名をちょっと変えて登場させている例が目立ちます。例えば、インド洋がカレー洋、ソロモン海がサーモン海という名前で登場するといった具合です。しかしレイテ沖海戦ステージでは、同海戦の戦場が実名で登場しています。2014年に「艦これ」でミッドウェー海戦を再現した期間限定海域が登場した際、筆者は「「艦これ」から読み解くミッドウェー海戦」という評論文を掲載したことがあったのですが、本稿はミッドウェー海戦に続く第2弾です。

 尚、本稿の主眼は、「艦これ」及び映像作品でレイテ沖海戦がどう描かれたかを探ることにありますので、この点を御理解戴ければ幸いです。また、私もまだまだ不勉強な点があることを事前にお詫びしておきます。

 ■レイテ沖海戦の概要

 まずは、レイテ沖海戦の概要を、「艦これ」のスクリーンショットを引用しながらご紹介します。

 アメリカ陸軍はレイテ湾に出現し、フィリピンに進攻しました。これに対し、日本海軍は戦艦や重巡洋艦等をレイテ湾に突入させて米陸軍を叩こうとしました。しかし、それには邪魔者がいました。フィリピン東側の海域に、戦艦の敵である航空戦力を擁する米海軍の機動部隊がいたのです。そこで日本海軍は、空母瑞鶴、千歳、千代田、瑞鳳を囮にしてフィリピン北東に進出させ、米機動部隊を北方に引き付ける作戦を実行しました。

 この時、日本側の4空母は迷彩が施されていた為、「艦これ」でもこれら四空母の迷彩色バージョンが登場しています。


攻撃を受ける空母瑞鳳(PHOTO:U.S. National Archives)

攻撃を受ける空母瑞鳳(PHOTO:U.S. National Archives)

 これら四空母を率いた司令長官が小沢治三郎中将であったことから、この艦隊は小沢艦隊と呼ばれています。余談を2点申し上げますと、まずテレビアニメ「神様のメモ帳」第3話「僕が二人にできること」で登場人物の大学生・向井均(声・宮田幸季)が小沢を尊敬しております。また、テレビアニメ「ブレイブウィッチーズ」の登場人物・大沢義三郎(声・土師孝也)のモデルが小沢治三郎であると推測されます。

 さて、小沢艦隊が米機動部隊を北方に引き付けるのと連動して、3つの艦隊がレイテ湾を目指しました。大和、武蔵、長門と日本を代表する戦艦などを主力(旗艦は第四戦隊の重巡洋艦愛宕)とする栗田艦隊、戦艦山城、扶桑を中核とする西村艦隊、重巡洋艦那智、足柄を主力とする第二遊撃部隊の志摩艦隊です。


ブルネイを発つ武蔵(U.S. Naval History and Heritage Command Photograph)

ブルネイを発つ武蔵(U.S. Naval History and Heritage Command Photograph)

 この続きは追い追い申し上げることに致しましょう。

 ■レイテ沖海戦を描いた映像作品

  レイテ沖海戦を描いた映像作品としては、レイテ沖海戦全体を描いた作品が2本、部分的に描いた作品が3本あります。

 まずレイテ沖海戦全体を描いた映像作品として、昭和46年のタツノコプロのテレビアニメ「アニメンタリー 決断」(総監督・九里一平)第21話「レイテ沖海戦(前篇)」及び第22話「レイテ沖海戦(後篇)」、昭和56年の東宝映画「連合艦隊」(本篇監督・松林宗恵、特技監督・中野昭慶)があります。

 レイテ沖海戦を部分的に描いた映像作品は以下の通りです。

 昭和35年の東映映画「殴り込み艦隊」(本篇監督・島津昇一、特撮監督・上村貞夫)は、架空の駆逐艦・黒雲を主役にした映画です。黒雲はレイテ沖海戦でスリガオ海峡に突入して敵艦隊と交戦した後、生還しています。史実では西村艦隊がスリガオ海峡に突入し、駆逐艦時雨が生還しています。

 昭和49年の東映映画「あゝ決戦航空隊」(本篇監督・山下耕作、特撮監督・本田達男)では、レイテ沖海戦における特攻作戦の誕生を描いています。

最初の特攻「神風特別攻撃隊・敷島隊」の攻撃を受けた護衛空母セント・ロー(PHOTO:U.S. National Archives)

最初の特攻「神風特別攻撃隊・敷島隊」の攻撃を受けた護衛空母セント・ロー(PHOTO:U.S. National Archives)

 平成17年の東映・角川映画「男たちの大和」(本篇監督・佐藤純弥、特撮監督・仏田洋)には、レイテ沖海戦で戦艦大和が対空射撃を行う場面があります。 この他、1960年代半ばに東宝がレイテ沖海戦を映画化する予定だったそうですが、実現しませんでした。個人的には非常に残念です。もし実現していれば、恐らく円谷英二特技監督による海戦シーンが見られたのではないでしょうか。結局、その後も、レイテ沖海戦"のみ"を描いた映画は現在に至るまで製作されていません。

攻撃を受ける大和(PHOTO:U.S. National Archives)

攻撃を受ける大和(PHOTO:U.S. National Archives)

 次の項目では、「アニメンタリー 決断」「連合艦隊」について、もっと詳しく見ていきましょう。

 ■「アニメンタリー 決断」のあらすじ

 「アニメンタリー 決断」第21話「レイテ沖海戦(前篇)」は、戦艦武蔵が主役となっており、シブヤン海で武蔵が米航空隊の空襲を受けて沈没するところまでを描いています。
 では第22話「レイテ沖海戦(後篇)」は武蔵が沈没した後の話であろうと思ってしまうところですが、何とそうではなく、前篇で描いた部分ももう1回描き、レイテ沖海戦をまた最初から描いています。つまり、後篇だけ見ればレイテ沖海戦の全体像が分かるのです。

 即ち、パラワン水道における米潜水艦の雷撃、シブヤン海における米航空隊の空襲とそれによる武蔵の沈没、サマール島沖における栗田艦隊と米護衛空母の戦い(ナレーターはこの戦いでレイテ沖海戦の火蓋が切られたと言っています)、米護衛空母に突っ込む特攻隊、小沢機動部隊と米機動部隊の戦いが描かれ、運命の瞬間を迎えます。

 ■「連合艦隊」のあらすじ

 「連合艦隊」は、太平洋戦争開戦前から戦艦大和沈没までを描いた映画(正確に言うと冒頭に日露戦争の場面もチラッと出てきます)で、昭和17年10月の南太平洋海戦の場面からレイテ沖海戦の場面までは、空母瑞鶴が主役級の扱いを受けています。

 本作におけるレイテ沖海戦の場面は、主に次の3つの部分で構成されています。

 1.第二艦隊司令長官・栗田健男(演・安部徹)と第一戦隊司令官・宇垣纏(演・高橋幸治)のやり取り
 2.瑞鶴の様子
 3.慶応義塾大学日吉校舎の地下にあった連合艦隊司令部の様子

筆者が撮影した慶応義塾大学日吉校舎の連合艦隊司令部入口です。

 因みに、「連合艦隊」でも「殴り込み艦隊」でも慶応義塾大学日吉校舎の連合艦隊司令部の場面に田崎潤が出演していますので興味のある方は見比べてみてください。

 「連合艦隊」の栗田艦隊の場面では、パラワン水道における米潜水艦の雷撃の場面は描かれましたが、シブヤン海における米航空隊の空襲、サマール島沖における栗田艦隊と米護衛空母の戦いは省略されました。西村艦隊と志摩艦隊は劇中の地図にすら登場しません。

 一連の栗田艦隊の場面における栗田と宇垣の台詞とそっくりな台詞が「劇場版  艦隊これくしょん~艦これ~」にも登場していますので、興味のある方は注目してみてください。

 尚、「アニメンタリー 決断」ではナレーターがスリガオ海峡海戦にチラッと言及していましたが、「連合艦隊」ではスリガオ海峡海戦も省略されました。という訳で、スリガオ海峡海戦を映像化した作品は「殴り込み艦隊」だけということになります。

 一方、栗田艦隊の場面と同時並行して瑞鶴の場面も描かれ、栗田艦隊は運命の瞬間を迎えます。

攻撃を受ける瑞鶴(U.S. Naval History and Heritage Command Photograph)

攻撃を受ける瑞鶴(U.S. Naval History and Heritage Command Photograph)


総員退艦で万歳三唱する空母瑞鶴乗組員(U.S. Naval History and Heritage Command Photograph)

総員退艦で万歳三唱する空母瑞鶴乗組員(U.S. Naval History and Heritage Command Photograph)

 ■栗田艦隊の反転

 レイテ沖海戦の中で、世間の注目を最も集めている瞬間が、栗田艦隊の反転です。レイテ湾を目前にした栗田艦隊は、北方に米機動部隊がいるという電文を受信した為、これと決戦すべく、北に反転したのですが、結局、米機動部隊とは遭遇しませんでした。この電文には謎が多い為、議論を呼んでいます。

 世間には、栗田艦隊が撤退したという解釈も少なくありません。戦後、栗田氏がインタビューで漏らした一言が独り歩きし、栗田撤退説の普及に拍車をかけました。

 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」に2013年9月19日に掲載された「「艦隊これくしょん -艦これ-」はいかにして生み出されたのか。その思想から今後のアップデートまで,角川ゲームスの田中謙介氏に語ってもらった」という記事に、「艦これ」の生みの親である田中謙介プロデューサーのインタビューが掲載されているのですが、田中プロデューサーの口ぶりを見ると、この時点ではどうやら栗田撤退説を取っている印象を受けます。それでは、「アニメンタリー 決断」「連合艦隊」「艦これ」では栗田艦隊の反転をどのように描いたのでしょうか?

 ■「アニメンタリー 決断」における栗田艦隊の反転

 「アニメンタリー 決断」では栗田撤退説を取っています。この時の栗田長官の見解は次の通り。

 ・艦隊決戦に勝利した。
 ・レイテ湾に突入すれば米軍の救援が来る。そうなれば栗田艦隊は全滅するかもしれない。艦隊を温存して日本を守るべきだ。
 ・小沢艦隊の動向が不明である。

栗田長官の上記の見解に対し、宇垣司令官はレイテ湾突入を主張していました。ナレーターは、決断を下す為には正確な情報が重要であると語り、物語を締め括っています。

 ■「連合艦隊」における栗田艦隊の反転

 「連合艦隊」では、北方に敵機動部隊がいるという電文を受信した栗田長官は、次のような論理を展開しました。

 ・小沢機動部隊による囮作戦は失敗したと考えられる。
 ・なぜなら北方に敵機動部隊がいるからだ。
 ・よってレイテ湾には突入せず、北方の機動部隊に向かう。

 本作でも宇垣司令官がレイテ湾突入を主張し、2人が対立する様子が描かれました。また、小沢艦隊の動向が不明である点が栗田長官の判断に影響を与えたことが描かれました。

 ■「艦これ」における栗田艦隊の反転

 「艦これ」のプレイヤーは、レイテ湾直前に、レイテ湾に突入するか北方に行くか選択することができます。

 レイテ湾に突入すればボスとの戦闘になり、北方に行くと、空母との戦闘になる場合と敵を発見できない場合がありました。

 かつて田中プロデューサーは栗田艦隊が撤退したと解釈していた節がありますが、数年の時を経て登場したレイテ沖海戦ステージで制作側は、栗田艦隊が撤退したという解釈を採用しなかったと言えるでしょう。

 ■まとめ

 ミッドウェー海戦と違ってレイテ沖海戦は作品数が少ない為、「映像作品にこういう傾向がある」とは言いづらいのですが、「アニメンタリー 決断」と「連合艦隊」の共通点と違いを挙げると以下のようになります。

 違い……「アニメンタリー 決断」では栗田艦隊は撤退したと描かれたが、「連合艦隊」では栗田艦隊は北方の敵機動部隊と戦う為に反転したと描かれた。

 共通点……小沢艦隊の動向が不明であったことが栗田艦隊の判断に影響を与えた。栗田長官は反転を主張したのに対し、宇垣司令官はレイテ湾突入を主張して対立した(あくまでも劇中の描写がそうだという意味であり、史実がそうだと申し上げている訳ではありません)。

 最後に、レイテ沖海戦の戦没者に黙祷を捧げ、本稿を終わりに致します。

本文ゲーム画像:ブラウザゲーム「艦隊これくしょん~艦これ~」のスクリーンショットです。
レイテ沖海戦写真:U.S. National Archives/U.S. Naval History and Heritage Command

(コートク)