人事異動の季節、企業の広報担当でツイッターを運営している人も続投か終了か、交代により維持か、こういった企業公式アカウントのつぶやきはあちこちで毎年見られている光景です。

 その企業公式カウントを運営している「中の人」が炎上もなく降板させられるかもしれない、という事態は果たしてどうなのか?ある事例を通して考えたいと思います。

 筆者がたまたま見かけたこの事例は、主に高校生向けの進学情報を提供している某企業のツイッター公式アカウントの出来事。
 
 「#拡散希望 突然ですがこのアカウントは3月末で活動休止となります… フォロワ数が少ない(5万いかないなんて努力不足!と上から…涙)と。もし5万行けば存続出来るかもしれません…! 僕をフォローしてTwitterの力を見せてください!努力不足と笑われてもいい!高校生に進学情報をお届けしたいです!」
と切実な訴えを投稿しています。

 企業公式アカウントといえば大企業でユーモアのあるシャープやタニタ、キングジムやセガなどが有名どころですが、現在は大企業だけでなく小売業や顧客が個人ではない、いわゆるBtoB企業も盛んにツイッターを利用した広報活動を行っており、この企業の場合も主な取引先は大学関係など。そして訴求対象となる年齢層は高校生とその世代を子供や孫に持つ世代。15~18歳と30代後半以上が主なターゲットとなる訳です。

 この企業は草の根活動的に異業種企業アカウントとも積極的に交流しており、現在のフォロワー数は1万2千弱。メーカーや娯楽を扱う企業とは違い対象が限られている中でのフォロワー獲得はかなり大変である事は容易に推し量る事ができます。そしてその大変さを肌身で常に感じている仲間の企業アカウントが続々と応援のツイートやリプライを送るなど少しずつその波紋は広がりを見せています。また、この投稿を受けて「ガイダンス行ったことある!」という方や「これから使わせてもらおうと思っていたのにアカウントがなくなるのは非常に残念」といった声も寄せられています。

 ツイートの拡散自体はあまり広まっていないものの、このツイートが投稿された後にあちこちからフォロワー数と中の人の活動についての大変さを語るツイートが散見されています。元企業アカウントの中の人で現個人アカウントである人は「RTやいいね、インプレッションはつぶやいた内容によって物凄く増えたりしますがフォロワーはなかなか増えません(中略)簡単にフォロワーの数を増やせ、とかは絶対言っちゃダメ」と発言し、シャープ公式アカウントも、「NHKやシャープみたいに数を稼げ」といった怒られ方をしているとあるサラリーマンの事を投稿したツイートへの引用リツイートとして、「数を稼いだって褒められるわけでもないし給料だって増えないよ、とその気の毒な若者に伝えてあげてほしい。」と言及。

 さらに、最近はこんな出来事もありました。日本テレビ系「ザ!世界仰天ニュース」の公式アカウントは生放送と連動して、「3万人突破→初出し丸秘写真公開 10万人突破→今日の服をプレゼント30万人突破→あなたの家に泊まりに行きます!」と全国放送内で銘打ち、確かに放送時間内にフォロワー数が30万人を突破しました。が!!その翌日には2万人くらい減り、3月26日記事執筆時点では247,894人。数日で約5万人のフォロワーが減ったという事になります。

 また、この出来事で着目すべきは、全国放送クラスの番組アカウントでも番組連動企画の放送前はフォロワーが3万人もいなかったという点。番組自体は長寿な部類に入るのにこの状況。他のテレビ番組でもフォロワー数が1万人以下なんてものはザラな状態。

■フォロワー数=戦闘力なのか?

 ここから考えたいのは、「フォロワー数=戦闘力」となりうるのか? という事。確かにフォロワー数は一つの目安になりうるかもしれません。が、テレビ番組でさえ爆発的に増やしたフォロワーをそのままの数で維持できない事、実際に口コミで評判を広める事を行えるアクティブなユーザーがこの数の中にどれだけいるのかは不明である事を考えると一概に「数の多さ=影響力」とは限らない様に思います。

 実際これは弊社公式アカウントの例ですが、2009年から運営し、特に宣伝も何もしていないということもありフォロワー数は6000ほどと企業アカウントの中では最弱の部類。爆発的に増えることはありませんが、爆発的に減ることもありません。でもこれで困ったことは特になく、何か発信したいときにそれが1万RT行くことはままあります。普段目立つことはない超地味アカウントですが、いざという時にはそれなりに拡散能力を発揮します。これはあくまで個人認識ですが、今居る6000人の中にはアクティブユーザーが多い印象。よそからみたら「たった6000のフォロワー」でも、私たちからみたら「とっても頼もしい6000人のフォロワーさん」だと感じています。

 しかし、これはあくまで弊社アカウントの例。現場の空気というのは上層部に伝わらないのが世の常です。どの現場でもそうですが直属の上司は分かってくれるがその上、さらに上が理解を示さないというのは一般企業でも官公庁でも変わらず見られる現象。これはどの企業も当てはまる訳ではなく、現場に理解のある上司がいると現場と上層部の乖離というのが減るように見受けられます。

 知名度がそこそこ、な企業でもツイッターの運営が上手く行っているアカウントは大概社長クラスの上司が運営に理解を示し協力的である場合がほとんど。タニタの公式アカウントでは社長のツイッター上への露出が非常に多く見られ、パインアメ、浅田飴なども社長自身がツイッターによる広報運営を積極的に応援している状況がそのツイート内容からもうかがえます。

 こうした現象について、ツイッター草創期に警視庁犯罪抑止アカウントでかつて絶大な人気を得た中の人(中村健児警部)が論文を発表しています。2013年に発表された「ソーシャルメディア駐在所論」の中で中村警部は「ソーシャルメディアは、従来の広報に対する理解の範疇を超えるコミュニケーション技術である。広報に対する理解と実践にコペルニクス的転回が必要となる。これを解決するためには、ソーシャルメディアの本質に対する理解を得る努力が必要である」と述べており、ソーシャルメディア利用を通したマーケティングはコミュニケーションによる共感が必須である、また広報そのものに対する考え方、発想の転換が必要である事を示唆しています。

 目に見える数字は分かりやすい指標のひとつかもしれません。しかし、数字だけが全てではなく、発信力、ブランディングも企業が一体となって取り組むべきものであると、数年にわたり企業公式アカウントを見続けてきた筆者は考えます。それぞれの企業が発信力を持ちブランディングを明確にしてその横軸の繋がりを見た人が共感的なイメージを持つ。そのイメージの相乗効果が時にものすごい力を発揮します。言うのは簡単な事ですがこれはとても難しい事です。もしツイッターでの企業ブランディングに悩んだら先述の「ソーシャルメディア駐在所論」を一読してみてください。そして広報の肌感覚を上層部にいる人にぜひ感じてもらってください。ネット社会におけるブランディングのひとつの指標となるかと思います。

(梓川みいな)