「うちの本棚」、今回取り上げるのは一条ゆかりの『デザイナー』です。ファッション業界を舞台にした、これでもかって言うくらいドロドロした恋愛人間ドラマの名作。

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デザイナー・前 デザイナー・後

 一条ゆかりといえば、現在は『有閑倶楽部』が代表作であり、よく知られていると思うが、その前は『砂の城』、そしてこの『デザイナー』が代表作として知られていた。
 自分を捨てた母親への復讐や、そうとは知らずに父親に恋してしまうなど、どろどろの人間ドラマが展開している作品だけあって、人気も高かった。またモデルやデザイナーといった女子が憧れる職業や業界を舞台にしたのも良かったのだろう。もっとも一条の場合、華やかで夢のある世界というよりは、欲望渦巻くドロドロとした業界という描き方で、この作品を読んでデザイナーになりたいと思う読者は少ないだろうけど(笑)。

 一流モデルとして人気の亜美は、その名前以外名字も年齢も不明というミステリアスな女性で、モデル仲間にもその冷たい態度から敬遠されている。が、ひとたびステージに立てば舞台は華々しくなり、会場は沸く。実は、亜美は生まれてすぐに養子に出され、育ての親も1年後に事故でなくなり、その後は12歳で飛び出すまで孤児院で過ごした。少女がひとりで生きていくために必死の思いだったわけだが、生きる原動力のひとつに自分を捨てた母親への憎しみがあった。モデルとして成功したいま、その母親が、現在仕事で接しているデザイナーの鳳 麗香であると知り、その動揺から交通事故を起こして脚の神経を痛め、モデルを引退せざるを得なくなる。そこに現れたのが、結城コンツェルンのトップ、結城朱鷺だった。莫大な経済力を使って亜美をデザイナーとして教育し、売り出し、鳳 麗香への復讐を叶えさせるという朱鷺の提案を、亜美も受け入れる。やがて亜美と麗香はデザイナーの女王を争うことになっていく。
 母親譲りなのか、デザインにも才能を発揮する亜美だが、恋愛はことごとく悲恋に終わる。そしてその結末は…。
 それまでもシリアスな作品ではどろどろの恋愛ドラマを描いてきた一条だが、この『デザイナー』はその集大成とも言うべき作品で、代表作の名にふさわしいものだった。主人公の亜美と朱鷺は共に18歳という設定だが、とても大人びているし、デザイナーという仕事に生きるために生まれてすぐの子供を養子に出す麗香の生き方も、とても少女漫画的ではないだろう。もっとも、なんのバックボーンもなく一匹狼で一流モデルになり、車の運転はカーレーサー並という亜美の設定は実に漫画チックではあるのだけれど。とはいえ、描かれていないだけで、「生きていくためには何でもしたわ」という亜美のセリフを深読みすれば、枕営業くらいはしていたのかもしれないのだが(笑)。

初出:デザイナー/集英社「りぼん」昭和49年2月号~12月号

書 名/デザイナー(前・後編)
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/各320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-90、91)
初版発行日/前編・1976年7月10日,後編・1976年8月10日
収録作品/前編・デザイナー、作品リスト、後編・デザイナー

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/