本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。

 おたくま読者諸氏や筆者にとって『嫁』と言えば、毎クールごとに変わるがわる浮気しちゃうアニメのヒロインだったり、あるいは胸部がやわらか素材の美少女フィギュアだったり、もしかしたら本当に奥さんのことだったりする可能性も微粒子レベルであるかもしれないが、主には二次元の、そして二次元発の『嫁』こそが、嫁であろう!

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 そんな先入観を抱きつつ、本作『魔法使いの嫁』というタイトルを見た瞬間 ――実は天才的なチカラを持っているけど封印して、山奥で一人静かに暮らすイケメン魔法使い(俺)のもとに、見習い魔法少女が押しかけて来てなぜか俺たち同棲するハメに! やれやれ、彼女の呪いを解くには婚姻の儀とやらが必要らしい―― などと勝手に想像していました。が。

 表紙では、あれ、なんかガイコツみたいなヒトが、ヒロインっぽい少女と英国式のお茶してる。人外モノ…? 茶器とか小物の描写も凝っている。ついでページをめくれば、いきなり少女が競売=人身売買にかけられているし、ガイコツさんが競り落として開口一番「君を僕の弟子にする」って……! もう、早くも濃厚なにおいがプンプン。
 本作『魔法使いの嫁』はそのタイトルから、オタク生活に入り浸っている読者には、魔法少女とのゆる甘エブリデイ・マジック生活を想像もとい、妄想させますがその実、本格魔法ファンタジー<幻想譚>となっている作品なのです。

 魔法や魔術、幻想の生物たちががほぼ絶えてしまった現代の英国(イングランド)。人間社会にひそむ魔法使いたちの中でも、その力を畏怖される“ヒト為らざる”魔法使い・エリアスに競売で買われた少女・チセは、魔法の才能を見込まれ、弟子入りすることに。両親を失い、親戚に拒まれ、友だちも見はなす世界に失望していたチセですが、エリアスの魔法に導かれ、今までとは違う「世界」を見つけていくことになります。

 本当は巧く隠されているだけ。この世には、妖精たちが飛び交う世界、ドラゴン一族が太古より営巣する世界、9つの命を生きる猫たちの暮らす世界が存在している……。そこでは、優しげなモノが邪な誘いを持ちかけてきたり、恐ろしげなモノがあたたかい夢を見させてくれたり。チセは、本来同じヒトから学ぶべきことを、エリアスをはじめとする「人外のモノたち」に教わります。

 魔法とは人間以外のモノに力をかりて起こす「奇跡」であり、魔術は世界の理を書き替える「科学」で、過ぎた力は術者自身に返って害をなすなど、人外のモノたちを柔らかに描く一方で、魔法と魔術に関しては精緻な設定と描写が本作には織りこまれています。このあたりの細部にこだわる姿勢が、本作に重厚感を与え、本格の名に恥じない魂を宿らせているのです。

 魔法使いといえば黒猫を代表格とする「使い魔」、マスコット的存在も欠かせませんよね。『魔法使いの嫁』には、これぞ妖精という愛らしい姿の「空気の精<エアリエル>」や、まるで仔犬のような人懐っこく言葉を話す「ドラゴンの雛」たち、「~ですわ」と語りかける女王猫様(もふもふ長毛種)など、男女問わずカワイイ! と唸ってしまう「人外サン」たちがたくさん登場する点も、見逃せないポイントでしょう。

 この第01巻は、壮大な物語のプロローグに過ぎません。人外の魔法使いとして生きるエリアスのあまりに謎めいた過去。チセに秘められた力とは何なのか? そして、巻末にはエリアスと因縁ありげな魔法使いが登場。いまだ全貌が明らかになっていない「魔法使いの社会」も、その内情が気になるところ。そもそも、人外に囲まれて魔法に従事するチセは、幸せな結末にたどり着けるのか、それとも――。

 ひさびさに「魔法モノ」「ファンタジー」ジャンルに新星が出現したという衝撃! ファンタジー作品のヘビーファンはもちろん、主人公・チセは一般人目線で魔法世界に入門しますから、同じ英国が舞台の『ハリー・ポッター』で初めて魔法に魅せられた方も、置いて行かれる心配なし。ゆったり楽しめます。
 作者・ヤマザキコレ氏いわく「ずっと昔からためこんできたファンタジー知識が やっとこの作品で実を結んだような。」とのことで、その知識をフル活用し、まだまだ私たちに重厚かつ本格的なファンタジー体験をさせてくれると、期待しています。

参考:『魔法使いの嫁』