2018年12月2日、航空自衛隊百里基地で恒例の航空祭が行われました。垂直尾翼に描かれたオジロワシのマーキングで有名な第302飛行隊は、F-4EJ改ファントムIIによる最後の航空祭。F-35に機種改変の際には別のマーキングが採用されるため、飛行隊ではオジロワシをフィーチャーした特別塗装機を2機用意。オジロワシとの別れを惜しむファンたちの目を楽しませました。

 例年、未明から基地周辺の道路が大渋滞することで知られる百里基地航空祭。茨城空港が開港してからは、その乗客が搭乗便に間に合わないという事態も発生していたため、今回は基地内に一般来場者向けの駐車場を設けず、周辺道路で交通規制を実施。離れた鉾田市の大竹海岸駐車場、そして大洗町の大洗サンビーチ駐車場を確保して事前に予約した車両を誘導し、そこから座席定員制のシャトルバスで輸送する「パーク&ライド」方式を採用しました。周辺道路の交通規制が功を奏して、シャトルバスの運行も渋滞に巻き込まれることなく順調に行われ、バスの台数も大量に確保したために乗車への待ち時間も少ない状況となりました。今後この方式が定着すれば、茨城空港の航空旅客や基地周辺の住民への生活へ与える影響も少なくて済みそうです。

 航空自衛隊のF-4飛行隊が集まる百里基地は、世界有数のファントムネスト(ファントムのすみか)として知られています。このうち1974年に北海道の千歳基地で新編された第302飛行隊は、来年度からF-35Aの飛行隊として生まれ変わり、青森県の三沢基地に移動します。現在「臨時F-35飛行隊」ではF-35の愛称「ライトニングII」にちなんで雷神の姿を部隊マークにしており、これが来年度第302飛行隊へ移行した際もその部隊マークが受け継がれることが予想されています。ファントム、そしてオジロワシ最後の年を記念して、第302飛行隊では白と黒、2機の記念塗装機を用意しました。



 機体には百里基地のマスコット「ひゃくりん」の姿も描かれ、コクピットにはぬいぐるみの姿も。


 第302飛行隊のブースには、記念塗装機のデザイン画と、隊内で募集した際の応募デザインが一部紹介されていました。パイロットの右袖には記念パッチも。








 また、ファントムの開発元、マクダネル社(現:ボーイング)が制定したF-4ファントムIIのマスコット「スプーク」も登場。来場者との記念撮影に応じていました。

 飛行展示の幕開けは、第301、第302、第501の各飛行隊から2機ずつが参加した編隊祝賀飛行でスタート。F-4ファントムIIのみの編隊飛行は、この百里航空祭が見納めとなります。



 地上展示では、当初鳥取県の美保基地(米子空港)から参加予定だった第403飛行隊のC-2が事情により不参加。地元機のほか、第402飛行隊(埼玉県入間基地)のU-4、静浜基地(静岡県)のT-7、海上自衛隊第3航空隊(神奈川県厚木航空基地)のP-1、陸上自衛隊のUH-1Jなどが参加。これまで海上自衛隊からは下総航空基地のP-3C(第203教育航空隊)が参加していたため、P-1は百里航空祭初参加です。



 戦闘機では小松基地(石川県)の第6航空団から第303飛行隊のF-15Jが参加。2019年度に第302飛行隊が移転する青森県の三沢基地第3航空団からは、入れ替わりに百里へとやってくる第3飛行隊のF-2Aが飛来。一足先に顔見せを行いました。

 百里基地消防隊はローゼンバウアー社(オーストリア)製の新型消防車などを展示。また、航空機展示場内を周遊する観覧車には、百里基地とF-4EJファントムIIを一躍有名にした名作まんが「ファントム無頼」の主人公である神田・栗原コンビが乗るF-4EJ680号機(F-4EJは301〜440までしかなく680は実在しない)の姿も描かれています。


 百里基地名物、偵察航空隊第501飛行隊のRF-4Eによる上空からの「記念撮影」も実施されました。撮影後速やかに写真は現像され、会場に張り出されます。来場者は自分がどこに写っているか、撮影時の位置を思い出しながら姿を探します。もちろん、筆者の姿も写っていました。


 第302飛行隊の飛行展示は、2機の記念塗装機によるデモスクランブルと模擬地上攻撃の実演。百里基地マスコットのひゃくりんがスクランブル命令を示すベルを鳴らし、2機による編隊離陸を行います。

 続いて地上目標への射撃を模擬した飛行。地上からの反撃を避けるため、射撃終了後は速やかに上昇していきます。この他にもハイGターンなどを披露。




 第303飛行隊のF-15Jも機動飛行を披露。F-4とはまた違ったパワフルなフライトを見せました。

 午後の機動飛行1番手は第301飛行隊。事前に飛行隊のブースで機動飛行を実施するパイロットや、機動飛行の課目を撮影ガイドと一緒に展示していたので、撮影の参考にした人も多かったのではないでしょうか。






 機動飛行の最後は第501飛行隊。戦術偵察という非常に難しい任務を行うため、所属するパイロットはF-4の操縦に長けた猛者ばかり。洋上での活動を想定した青い迷彩の905号機、山あいなどの活動を想定した俗に「松葉色」と呼ばれる緑を主体にした迷彩の907号機が飛行を行いました。





 20万人ほどの人が押しかける埼玉県の入間基地航空祭をはじめ、各地の航空祭ではマナーの悪い来場者への苦情がTwitterなどで寄せられることが多い昨今ですが、今回の百里基地航空祭では、筆者の見た範囲においてトラブルらしいことは起こっていませんでした。多くの人が集まる記念塗装機の周囲でも、順番に場所を譲りながらの撮影が行われており、撮影に集中している人とぶつからないよう、移動する際に「立ちまーす」や「後ろに移動しまーす」という声かけも行われ、スムーズな撮影環境となっていました。また、小さい子供が航空機を見られるよう、最前列にいる大人のファンが足元に子供を呼び寄せて場所を提供するなど、周囲への配慮が行き届いたケースが多く見受けられました。オジロワシ最後の航空祭を気持ちよく過ごそうという思いにあふれた航空祭だったように思います。

(取材:咲村珠樹)