欧米では「夏の始まり」とされている夏至も過ぎ、徐々に暑い気候になってきました。夏といえばホラーなど「恐怖」に関する様々なものが楽しまれるようになりますが、とある図書館のTwitterアカウントで公開された「図書館恐怖の写真」が注目を集めています。なんと付箋によって、本から文字が離れていってしまうのです……。

 この「図書館恐怖の写真」を投稿したのは、神奈川県立図書館(横浜市西区紅葉ヶ丘)と神奈川県立川崎図書館(川崎市高津区坂戸)の公式アカウント「クリッピング!(神奈川県立の図書館)」(@kanagawa_lib)。両県立図書館の所蔵資料や展示、イベントや仕事の様子を紹介するアカウントです。2018年6月21日に投稿されたツイートに、この「図書館恐怖の写真」が写真付きで紹介されていました。

“図書館恐怖の写真(心霊番組風)画像をご覧いただきたい。お分かりであろうか。付箋をはがした時に、ページの表面が活字ごと剥がれてしまっている。長い年月を経た本は、きれいに見えても劣化が進んでいる事がよくあるのだ。絶対に、図書館の本に付箋を貼ってはならない……(横浜) #神奈川県立図書館”

 図書館職員なら「ギャッ(楳図かずお作品風に)」と、恐怖におののいてしまうこの光景。実は「図書館あるある」な話でもあるのです。貸し出しされた図書資料に、利用者が傍線を引いたりメモを書くというのと同時に、しおり代わりに付箋紙をページに貼り付けて、そのまま返却されるということは……。家に持ち帰ることで、つい「自分で買った本」のような感覚になってしまうんでしょうね。

 図書館に収蔵してある本などは、一括して「資料」と呼ばれます。つまりレンタル商品ではなく、地域社会などで長年保存・活用されるものとして扱われているのです。中には年月を経ることで、将来重要な歴史資料となるものもあります。

 一見、付箋は「のり」の粘着力が弱いので、紙に影響を与えないと思うかもしれませんが、付箋やテープなどに使われている「のり」は、図書にとっては意外に強力なのです。特に古い本になると酸性紙が使われていたりして、経年変化によって紙の構造がもろくなっており、紙表面の繊維が簡単にはがれてしまうことがあるのです。

 また、付箋をはがした跡にも「のり」が残っており、時間が経つにつれその「のり」が粘り付き、ページを開いた拍子に反対側の紙をポロッとはいでしまうこともあります。絶対に付箋をしおり代わりに用いないでください。

 また、押し花なども酸性になっているので、長期間挟んだままだったりすると、その部分の紙が劣化することがあります。気をつけましょう。

 そして「図書館あるある」で多い話では、貸出資料を破いてしまって、セロハンテープなどで補修して返却された、というケース。これもセロハンテープに使われている「のり」が強力なのと、時間が経つと変色して紙にダメージを与えてしまいます。また、周りの紙に比べてテープの部分が丈夫なので、その境目から新たに破れたりしてしまうのです。

 子供向けの絵本などでよくある話ですが、破いてしまった場合は「そのままの状態」で、返却時に「破いてしまったこと」を職員に伝える方がベターです。図書館では紙への影響を最小限にとどめる修復・補修の方法があり、適した形で実施します。

 重要なのは、図書館の資料というのは「自分だけでなく、自分を含めた人々のために収集・保存されているもの」という認識を忘れないことです。実は、図書を180度開いて読むというのも綴じ部分にダメージを与えてしまうので、その状態で長時間読むのはお勧めしません。IFLA(国際図書館連盟)が作成した「IFLA 図書館資料の予防的保存対策の原則」(日本語版:日本図書館協会資料保存委員会 編集企画 2003年)では、通常の図書を開く場合は120度以下、固く製本されているものは90度以下で開いて読むことを推奨しています。

 公立図書館は無料で利用できる(図書館法第17条の規定による)ので、購入するには値が張る資料や、もう一般書店では手に入らない資料でも気軽に触れることができるのが特徴です。しかし、図書館の資料は「共有財産」だということを忘れずに、利用していきたいものですね。

参考資料:「IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則」(国立国会図書館デジタルコレクション

<記事化協力>
クリッピング!(神奈川県立の図書館)(@kanagawa_lib)

(咲村珠樹)