揚げ物をしている時は絶対に火元から離れてはいけない、という事を改めて強く思わせてくれる実録漫画がSNS上で大きな話題となっています。

 この実録漫画は、ツイッターユーザーの「をぎくぼ虫」さんが投稿したもの。過去に火事になりかけた時の体験談を漫画で紹介しています。

 数年前、冷凍のフライドポテトにとてもハマっており夜中にも度々揚げ物をしていたという、をぎくぼ虫さん。夜中の2時に急にフライドポテトを食べたくなり、鍋に油を入れて火をかけたのですが、無性に早く食べたくなり油の温度を早く上げようと鍋に蓋をしてしばらくその場を離れたそうです。

 そして数分後、油も程よくなっただろうと鍋の蓋を開けた途端、鍋から立ち上がる火柱。その火の勢いは今までに体感した事のない勢いだったそうで、あまりの勢いにしばし茫然。「頭の中が真っ白になった瞬間、周りから全ての音が消えてしまったかのように感じました」と述懐するほど思考停止していたのですが、次の瞬間、ある「音」で我に返ります。それは、コンロ周りの色んなものが溶ける音。メキュ…メキュ…パキ…パキ…。

 テンパったをぎくぼ虫さんは雑誌で火を扇ぐという挙動に出てしまいます。さらに雑誌が鍋の取っ手にあたりひっくり返してしまうという大惨事に……。この瞬間、「翌日のニュースや新聞に火事が取り上げられる」という思考とともに目に入ったのが、1週間分の溜まった洗濯物。この洗濯物を全て火の上に被せて何とか鎮火させる事に成功。衣類はダメになったものの命拾いをしたという事です。

 この一件以来、揚げ物を夜中にする事もなくなり、消火器の設置場所もしっかりと確認するようになったとの事です。

 このツイートが拡散されると様々な初期消火の知恵や消火用具の話が。多く出ていたのが、濡れたバスタオルで火のついた鍋を覆う、窒息消火という意見。他にも多くの反応が上がっていますが、防火設備等に詳しく消防設備士の資格も持つ青木防災(株)さんに初期消火について話を聞いてみました。以下、伺った内容を基にまとめています。

■ 今回のボヤの原因と初期消火の注意点

 天ぷら油などの食用油はおおよそ360度前後で自然発火するそうで、今回のケースは蓋の中で気化した油が酸素に触れた事で一気に引火したと考えられます。この場合、「まず空気を遮断して引火の原因となる酸素を絶つと同時に油の温度を下げる必要がある」そうです。火が付き始めたくらいであればまずコンロの火を止め、ぴったりとした蓋をする事で燃え広がる事を防ぐ事ができます。濡れバスタオルでぴったりと覆うというのも同じ理屈となります。

 しかしテンパってしまいコンロの火を消し忘れてしまうとせっかく酸素を遮断してもまた発火してしまいますので、まずは火を止める事が一番肝心。「火が上がってもまず冷静にコンロの火を消しましょう」とのお話。

 そして油の温度を下げようとして一番やってはいけない事が、水をぶっかける事。高温の油が飛び散る事で火が拡散してしまいます。注水厳禁です!

 また、今回の様に火柱が高く上がってしまい蓋をする事が困難な場合に備えて消火器をすぐに取りに行けるよう、日頃から消火器の確認をしておくことも肝心。集合住宅の場合、各階に法令に基づく消火器の設置・定期点検が義務付けられていますが、各家庭でも簡易消火器を備えておくと安心です。

■ 家庭での消火用具の備えについて

 現在一般的に入手できるものは、エアゾール式の簡易消火スプレー。今回のケースにも当てはまる、住宅火災の大多数を占める油による火災に対応しているこの簡易消火スプレーは2017年に法令により適合表示のあるものが販売できる事となっています。購入する際は、油や電気など、どの消火に適しているかの適合表示を良く確かめて購入すると良いでしょう。

 しかし、家庭用消火用具には定期点検の義務付けはないので、備えていても有効期限が切れてしまったまま……というケースも少なくない様です。一昔前には「消火フラワー」というものが家庭のガスコンロ付近に置かれていた家庭も多かったと記憶していますが、これは有効期限が2年間と短い為、現在ではほぼエアゾール式の簡易消火スプレーに置き換わっているようです。しかし、エアゾール式も使用期限が3~5年程であるので注意が必要です。使う出番がないままうっかり数年眠らせておいた……という人は、家庭で処分して新しいものに買い替えましょう。

 使用期限が過ぎた簡易消火スプレーは屋外でゴミ袋に入れた新聞紙に向かって放出させてカラにし、穴を開けてスプレー缶として家庭ごみで処分できます。なお、この作業を行うときはゴム手袋などを装着して手に液がかからないよう注意すること。かかった場合には、速やかに水で流すことが大切です。そして新聞にしみこませた液は袋をしっかり縛って燃えるゴミとして処理してください。また、処分が大変という人は地元の防災設備を扱っている会社でも引き取ってくれることがあります。最寄りの業者に確認してみてください。

 エアゾール式の簡易消火器ではカバーしきれない大きさの火になってしまった場合に備えても、自治体などで行っている消火訓練に参加して消火器の使い方を習得しておくといざという時に慌てずに対処できます。訓練で使う消火器は業務サイズと同じものである為、使い方を習得できていないと的確に消火できないという事もあり得ます。

 うっかりは誰でも起こりうる事ですが、こうしたケースをきっかけに各自で防火防災についての意識を持つ事で大きな火災を予防しやすくなります。筆者も、キッチンのスプレー消火器を一度点検してみようと思います。

<記事化協力>
をぎくぼ虫さん(@wogikubomushi)
青木防災株式会社(@aokibosai)

(梓川みいな)