2月の開幕戦アブダビ大会から約2か月。レッドブル・エアレース第2戦の舞台は、初のフランス開催となる南フランスの風光明媚な街、カンヌです。国際的な映画祭で知られる、コート・ダジュールのこの街で、映画祭に先駆けてレッドブル・エアレースが開催されます。

 ヨーロッパで初めて飛行機が飛んだ(1906年、ブラジル人アルベルト・サントス・デュモンが14-bisという飛行機で初飛行)国であり、ヨーロッパにおける航空先進国としての歴史を持つフランス。1905年にFAI(国際航空連盟)が発足した際には、本部事務局がパリに置かれた(現在はスイスのローザンヌに移転)という過去もありますが、FAI公認の世界選手権であるレッドブル・エアレースが開催されるのは、意外にもこれが初めてのこと。エアロバティック(曲技飛行)競技の強豪国であり、レッドブル・エアレースに参戦するパイロットのうち、最も多いのはフランス人(マスタークラスに3人・チャレンジャークラスに2人)なので、フランスのパイロットにとっては長く待ち焦がれた母国開催となりました。

エアレース機とパトルイユ・ド・フランスの共演(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

エアレース機とパトルイユ・ド・フランスの共演(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 開催に先立つ2018年3月22日には、フランスを代表してフランス空軍のフライトディスプレイチーム「パトルイユ・ド・フランス」と、マスタークラスのフランス人パイロット3人(フランソワ・ルボット選手、ニコラ・イワノフ選手、ミカ・ブラジョー選手)による「歓迎フライト」が行われました。イワノフ選手は、開幕戦のアブダビで損傷した機体の修復が間に合わず、普段エアショウで使用しているエクストラ300Lで参加しています。

互いにエシュロン編隊で並ぶエアレース機とパトルイユ・ド・フランス(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

互いにエシュロン編隊で並ぶエアレース機とパトルイユ・ド・フランス(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 レッドブル・エアレースのパイロット側でエレメントリーダー(編隊長)を務めたのは、フランス空軍で飛行教官を長く務め、パトルイユ・ド・フランスの使用機、アルファジェットの性能と飛行特性を熟知しているフランソワ・ルボット選手。パトルイユ・ド・フランスもA380など数々の異機種間編隊の経験がある為、非常にスムーズな飛行を見せました。

ブラジョー機、イワノフ機を率いるルボット選手(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

ブラジョー機、イワノフ機を率いるルボット選手(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 そして4月18日、パイロットが勢ぞろいするフォトセッションが行われました。まるで往年のハードボイルド刑事ドラマを思わせるような雰囲気の写真。ある一定以上の年代にとっては、土曜日のTBS系夜9時を思い出させるような仕上がりです。真ん中を歩く主役は、もちろん2017年のワールドチャンピオン、室屋義秀選手。

勢ぞろいして歩を進めるパイロット達(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

勢ぞろいして歩を進めるパイロット達(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

 フランス人パイロット3人は、カンヌ上空でリーコンフライト(顔見せ飛行)も実施しました。イワノフ選手の機体も修復が終わり、自らのレース機であるエッジ540で参加。しかしアブダビでパイロン下部の白く丈夫な部分に接触し、砕け散ったウイングレットは再制作する余裕がなかったのか、コンベンショナルなウイングチップが装着されていることにも注目です。また、機体修復に時間を取られて、開幕前から課題を抱えていたエンジンのクーリングに関して対策を取れなかった、とイワノフ選手は語っており、気温が上昇した場合のエンジンパフォーマンスの低下を懸念しているようです。

顔見せ飛行を行うフランス人パイロット達(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

顔見せ飛行を行うフランス人パイロット達(Joerg Mitter/Red Bull Content Pool)

 また、パイロット達は実際に建てられたパイロンの間を船に乗り、トラックチェックを行いました。室屋選手、ルボット選手、ソンカ選手は同じ船に乗り、スマホで写真や動画を撮影しながら、実際の様子を確認していました。ルボット選手の住まいはカンヌに近い南フランスにあり、この辺りは地元です。

トラックチェックを行うソンカ選手(左)室屋選手(中)ルボット選手(右)(Vincent Curutchet/Red Bull Content Pool)

トラックチェックを行うソンカ選手(左)室屋選手(中)ルボット選手(右)(Vincent Curutchet/Red Bull Content Pool)

 カンヌ大会のレーストラックは、弧を描くビーチの中を周回するレイアウト。観客席はビーチに沿って長く伸び、メディア関係者の取材場所はハイGターン(ゲート4~5)の側、岬の先端の方に位置します。全体としてハイスピードなカルーセル(回転木馬)型のトラックと言えるでしょう。

カンヌ大会のレーストラック(Red Bull Media House/Red Bull Contents Pool)

カンヌ大会のレーストラック(Red Bull Media House/Red Bull Contents Pool)

 スタートゲートからゲート2は直線で、そこから左へターンしてシケインのゲート3、3本目のパイロンをクリアするとそのままの方向へハイGターンとなります。ターンの中間点にあるゲート4で一旦機体を水平に戻す必要がありますが、次のゲート5がシングルパイロンなので、ここで速度が落ちないように旋回できるかが1つのポイントとなります。

 そしてゲート6を水平に通過した後、シングルパイロンのゲート7をすり抜けて、急激な右旋回をしてゲート8を水平に通過、そこからバーティカルターンでゲート9に向かいます。カンヌのトラック最大の難所は、このゲート7~8の急激な90度ターンからバーティカルターンでしょう。急旋回した直後に機体を水平に戻し、すぐバーティルカーンの引き起こし……と忙しいレイアウトで、ここでのオーバーGと、ゲート8でのインコレクトレベル、風が横から強く吹いた場合のパイロンヒットに気をつけねばなりません。

 全体的にスピードを乗せて飛び、ターン時にエネルギー(速度+高度)を失わないようにすることが基本で、バーティカルターンでのミスが大きな差を生む形になるでしょう。特にゲート5からゲート6通過後の進路をどう繋げるかで、ゲート7後の90度ターンとバーティカルターンの成否が決まる、と思いながら観戦するといいかもしれません。

 今回、室屋選手の機体にも待望のウイングレットが確認されました。少し小さめのものですが、この新兵器がターンし通しのカンヌにどう適合するか、注目です。次戦の千葉大会に向けて、良い成績を収めて上り調子でいきたいものですね。

 レッドブル・エアレース第2戦、カンヌ大会はDAZNでのネット生中継(予選・決勝の両日)のほか、NHKのBS1で22日の決勝を夜21時~22時(ラウンド・オブ14)、23時~24時(ラウンド・オブ8~ファイナル4)の2回に分けて生中継する予定です。

見出し写真:Joerg Mitter/Red Bull Content Pool

(咲村珠樹)