「うちの本棚」、今回も松森 正の作品を紹介します。古書店でもなかなか見かけることの少ない『愛の伝説』。原作は神保史郎です。

神保史郎原作による「愛」をテーマにした連作シリーズ。単行本に収録された6話は、大きく前半3話ではアンハッピーな結末、後半3話では将来に希望のある結末となっている。


松森は同じ原作者と数作品コンビを組むことが多いが神保史郎とは(少なくとも単行本化されているのは)この作品だけである。日本文芸社の編集者がいろいろな原作者とコンビを組ませたかったのか、ゴラク・コミックスで刊行された作品では他の松森作品では見かけない原作者とのコンビが目立つ。ちなみに関川夏央とのコンビも日本文芸社刊行の雑誌での作品が最初だったはずである。

『愛の伝説』というタイトル自体、松森作品としては異色な印象があったりするのだが、内容を読んでみると…特に前半のアンハッピーエンドなエピソードは70年代の松森作品らしいものになっている。松森の70年代の代表作である『満州お菊』や『まんちゅりぃぶるうす』に近いというか、同じ匂いがするのである。

また、全体としてフキダシの形を工夫していて、どこか実験的な雰囲気もある。
「愛」の形にもいろいろあるわけで、悲しい結末も迎えるもの、希望に向かう結末のものと当然ながらあるわけだが、前半と後半ですっぱりラストの展開が分かれているのは、当初悲劇的な展開でシリーズを構成していたのを、途中で考え直したと考えられなくもない。また前半3話では人の死が描かれているという共通点もある。

ゴラク・コミックス刊行の松森作品はその存在自体があまり知られていない印象があるが、この『愛の伝説』はなかでも印象の薄い単行本で、古書店でもめったに見かけることがない。また背表紙が褪色しやすくコレクター泣かせのアイテムといえるだろう。

原作の神保史郎は『サインはV』『ガッツ・ジュン』といったいわゆるスポ根もので知られる。本書のような作品もあったのだなという印象もあるが、巻末のあとがきによれば担当編集者の出してくるアイデアを基にしていた、編集者との合作だという。まあ、多かれ少なかれそういう部分はどの作家にもあると思うが。

松森流ヒューマンドラマ作品である本書、運良く手に入れることがあればじっくり堪能してほしい。

書 名/愛の伝説
著者名/松森 正(原作・神保史郎)
収録作品/純愛の湖、風のうた、三つの旋律、雪の傘、圭子の場合、杏よ花咲け
発行所/日本文芸社
初版発行日/昭和53年10月25日
シリーズ名/ゴラク・コミックス

■ライター紹介
【猫目ユウ】

フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。