例えばあなたがあるお店の販売員だったとして、商品をよりきれいに陳列をすることは、商品を売るためには当然のことでしょう。では、あなたが顧客として買い物をするときはどうでしょうか?商品が整然ときれいに陳列された売場が良いですか?それとも、少し乱れている方が良いですか?

 もちろんモノにもよるので一概にこれが正解という事はないのですが、小売業では「売り場はきれいに陳列するよりも少し崩す方が売れやすい」ことが定説ともされており、この事をつぶやいた、山梨県の老舗和菓子店「金精軒」(@kinseiken_jp)のツイートが大きな注目を集めています。

 ツイートに添えられた2枚の写真では、金精軒を代表するお菓子のひとつ「大吟醸粕てら」が売場で陳列されています。

 1枚目は縦横の個数が揃ったきれいな陳列。

縦横個数が揃い、きれいに陳列された商品

 2枚目では縦横の個数が不揃いで、少し崩れた陳列になっています。どちらがより商品が売れる陳列でしょうか?

縦横の個数が不揃いで段差がある陳列

 実はこの場合、顧客の手に取ってもらいやすく、売れやすいのは2枚目の少し崩れた陳列なのです。

 筆者も過去15年ほど小売業の経験があり、商品の陳列についても勉強を積んできました。私の過去在籍していた業界では「見せる売場」と「売る売場」があり、「見せる売場」ではまだ実需でない入荷したばかりの新商品をいかにきれいに美しく見せるかを意識します。

 一方「売る売場」では今売り上げがピークの実需商品を、多少陳列が乱れたとしても「常に商品が売場にある事」「数を積み上げ回転率を上げる事」を優先して売り場作りを行っていました。

 今回の金精軒のツイートはもちろん後者でしょう。消費者側の感覚からすると、きれいすぎる売場は「陳列を乱してはいけない」「きれいに並べてあるのだから自分が触るとお店に迷惑がかかる」といった心理が働き、手に取ってもらいにくくなってしまいます。

 反対に少し陳列が崩れていると「この商品は売れているんだ」「他のお客さんが触っているから、少し触っても大丈夫だよね」といった商品に対する安心感が生まれ、手に取りやすくなるのです。特に日本人はこの傾向が顕著であると言えるでしょう。

 金精軒のツイッター担当者が、店の新人スタッフにこの陳列方法を教えたことをきっかけに「ツイッターのフォロワーさんに同業者も多いから教えてあげよう!」と思い投稿したのだそう。金精軒では実際にこの方法で陳列して、お店全体の売り上げが大きく上がったそうです。

 店を構えて商売をしている方なら、知っておきたい豆知識。コロナ禍における小売業の状況は厳しく、多くの会社が売り上げに苦戦しています。もしも売り上げが伸び悩んでいるなら、空いた時間を使ってきれいに陳列するのではなく、逆にちょっとだけ崩してみる、こういった顧客心理に訴えるアプローチを試してみても良いかもしれません。

<記事化協力>
金精軒(@kinseiken_jp)

(山口弘剛)