イギリス国防省は、有人の戦闘機と連携して任務を遂行する無人機(ドローン)の試作機開発予算として約3000万ポンド(約42億7600万円)を計上。プロジェクトチーム「チーム・モスキート」を率いるスピリット・エアロシステムズに対し、試作機の製造を発注しました。試作機は、2023年末の飛行試験開始を目指します。

 無人機を支えるAIなどの技術が発達したことにより、近未来の軍事行動では現在以上に、無人機と人間が協調して作戦を遂行するようになると考えられています。航空分野においては、貴重なパイロットの損耗を避けるため、長時間に及ぶ飛行や撃墜の危険が伴う攻撃時に、無人機を活用する研究が各国で進んでいます。

 イギリス空軍が「F-35の次」として研究開発を進めている次世代戦闘機「テンペスト」は、無人機編隊のリーダー機として航空攻撃を指揮する能力が求められています。このため、テンペスト自体の開発だけでなく、指揮下に入る無人機の開発も並行して進めなければなりません。

イギリスの次世代戦闘機テンペスト(Image:MoD Crown Copyright)

 イギリス空軍では、戦闘機を補佐して攻撃に参加する、軽量でリーズナブルな「LANCA(Lightweight Affordable Novel Combat Aircraft)」という無人機を構想中。オーストラリア空軍がボーイングと開発を進めている「ロイヤル・ウィングマン(Loyal Wingman=忠実なる僚機)」と同じく、有人戦闘機と連携し、索敵から攻撃までをこなせるものです。

LANCAの概要(Image:MoD Crown Copyright)

 この無人機LANCAを開発する企業チームとして組織されたのが、チーム・モスキート。次世代有人戦闘機を開発するチーム・テンペストと同じく、第二次世界大戦中に活躍したイギリスの軍用機、デハビランド・モスキート(世界最速の木製機として名をはせた)の名を冠しています。

1943年デハビランドのハットフィールド工場で撮影された完成直後のモスキート(Image:IWM)

 試作機開発を主導するスピリット・エアロシステムズはアメリカの企業ですが、実際の開発作業は北アイルランドのベルファストで進められます。今回の決定により、北アイルランド地域に100を超える労働需要が生まれました。

北アイルランドへの投資額(Image:MoD Crown Copyright)

 決定を受け、ブランドン・ルイス北アイルランド担当大臣は「非常に喜ばしいニュースであり、高度なエンジニアリングと製造能力を通じ北アイルランド経済を強化するものです。この画期的なプロジェクトは地域雇用だけでなく、国の安全保障分野における北アイルランドの貢献を強化する投資も含まれています」と歓迎のコメントを発表しています。

F-35と任務を遂行するLANCA(Image:MoD Crown Copyright)

 チーム・モスキートには、無人機開発で豊富な経験を持つノースロップ・グラマンのイギリス法人も含まれており、今回の試験機開発でも協力。2023年末開始が見込まれる試験飛行を含む開発計画が順調に進めば、2020年代末にはユーロファイター・タイフーンやF-35に対して能力を展開することも視野に入っているとのことです。

<出典・引用>
イギリス国防省プレスリリース
Image:MoD Crown Copyright/IWM

(咲村珠樹)