10年前にインターネット上で起こった日本鬼子ムーブメントをご存じでしょうか?当時、インターネット上のおふざけから誕生した萌えキャラクター「日本鬼子」を。

 誕生したいきさつについては後述するとして、誕生以来そのかわいさからファンに愛され、同人誌、コンピレーションアルバム、コンセプトカフェと活躍の場を広げてきました。そして今回、10周年を記念してVtuberとしてデビューすることが決定。さらに10周年企画としてキャラクター声優オーディション企画の開催も決定しました。

■ そもそも鬼子とは?

 もともと「鬼子(グイズ)」とは清の時代に著された『聊斎志異』(著:蒲松齢)という、中国の怪異小説に由来する言葉でした。この小説は神仙や幽霊や妖狐の話を集めた短編小説集で、作中の「画皮」(人間の皮を被って人に化ける魔物)という話に登場します。

 作中では「道士が魔物に対して使う蔑称」として使われ、ニュアンスとしては「魔物(悪魔)」の様な意味合いのもの。(本来、中国語の「鬼」とは「幽霊」や「亡霊」という意味)

 それが清朝末期、中国大陸を侵略する西洋人に対して「鬼子」や「洋鬼」という言葉を用いる様になり、第二次世界大戦頃には旧日本軍(日本人)のことを「日本鬼子」や「東洋鬼」と呼ぶようになります。

 大戦が終結し、西洋人に対する「鬼子」や「洋鬼」という言葉は忘れられましたが、「日本鬼子(リーベングイズ)」という日本人に対する蔑称は中国語圏(中国・台湾・香港・マカオ・シンガポール等)に広く残り、現在でも使われているようです。

■ 2ちゃんねるのニュース速報VIP板で話題に

 さて、この「日本鬼子」という言葉が日本のネットで話題になったのは2010年(平成22年)のこと。「尖閣諸島中国漁船衝突事件」を受けて中国国内でデモが起こり、日本に対して抗議する意味で「打倒日本鬼子」というプラカードを持った人々がニュースで紹介されたことがきっかけでした。

 当時のネットユーザーの反応を見てみると「日本鬼子」が日本人に対する蔑称だと知らず、人名(苗字が「日本」で、名前が「鬼子」)だと思った方もいたようです。しかしながら、情報は早いものですぐに蔑称ということが知れ渡ります。

 しかし、「蔑称」とはわかっても、慣れない言葉ゆえピンと来ない人も珍しくなく、ついには「日本鬼子という萌えキャラを作ろう」という趣旨のスレがインターネット掲示板「2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)」のニュース速報VIP板にたてられました。

 確か「日本鬼子ってインターネットで検索すると萌えキャラが出てくるようにして脱力させようぜ!」というのも目的の一つだったと記憶しています。蔑称されたからといって正面から対抗して中傷合戦をするのではなく、平和的にかわしてしまおう、という考え方です。この脱力戦法には賛同する人が続出。多くのイラストが投稿されました。

 このことは中国語圏の人々にとってショッキングな出来事だったらしく、海外の新聞でも取り上げられ国内外で話題となりました。

 と、ここまではインターネット界隈でよくある話。掲示板で誰かのレス(発言)に絵がつけられ、アイデアが投稿、何らかの作品が完成してニュースで報じられて話題になる。

 しかしそうした出来事も、祭りが終われば人々はスレから去っていき、忘れられてしまうものです。日本鬼子もその様な「ネットの徒花」に終わるはずでした。

■ 二次創作と日本鬼子

 ところが「日本鬼子」というキャラで二次創作を行いたいという団体が現れます。それがサークル「劇団鬼子」(団長:さなだ)です。

 この「劇団鬼子」を中心に、日本鬼子の萌えキャラ作りに関係した人々が集まりサークルが結成されます。「劇団鬼子」は日本鬼子のキャラを考えたスレッドの人たちが集まり、2ちゃんねる(当時)を中心に意見交換。スレに投下されたネタをすくい上げ、それらのネタを元に日本鬼子の創作活動が行いやすい様にキャラクター設定を固めて同人誌を発行していきました。

 当初の「日本鬼子」はイラストを投稿した絵師により姿やデザインに幅があったので、投票で「日本鬼子」の代表デザイン(日本鬼子はインターネットで自然発生したキャラクターなので、公式は存在しないという解釈)が選定されます。この代表デザインが選定された日、2010年11月1日が日本鬼子の誕生日となっています。

 これを皮切りにキャラクター設定や世界観が整理され、脇を固めるサブキャラたちも作られていきました。

 主人公の「日本鬼子(ひのもとおにこ)」(代表デザイン:No.015)の他にも、妹分の「小日本(こにぽん)」(代表デザイン:きぃら~☆)、鬼子の親友「田中匠(たなかたくみ)」(デザイン:ぽてろんぐ。)などのサブキャラが作られると、彼らの目的やストーリーも作られます。

 「日本鬼子」は人間の心の闇に巣食う「心の鬼」を退治する「鬼」と設定され、鬼子と対立する「天魔党」という敵対組織も作られました。

 日本鬼子というキャラクターが構築された後、誰でも日本鬼子の創作活動ができる作家たちの相談の場、寄合の場として「日本鬼子ぷろじぇくと」が誕生し、日本鬼子創作者たちの活動の拠点となっていきます。こうして日本鬼子は多くの人々が参加して創作するキャラクターコンテンツとなっていきました。

■ 政治活動とは無縁の妖怪キャラとして

 日本鬼子はその発生過程から政治活動と結びつけて見られることもありますが、「日本鬼子ぷろじぇくと」としては「そうした活動を目的とした創作は無粋」として、ユーザーも支持。「日本鬼子というキャラは存在し続けているだけで価値がある」として、かわいい妖怪(鬼)の女の子キャラクターとして歩んでいくこととなります。

 その後は同人誌の発行、歌声合成ツール「UTAU」音声ライブラリ制作(2010)、コンピレーションアルバムの頒布(2013)、「萌えキャラ学会(キャラサミ)」にキャラクター運営登録(2014)、秋葉原でのコンセプトカフェ「鬼子カフェ」イベント開催(2014)、LINEスタンプ配信(2015)、日本鬼子代表声優決定(2017)、スマホゲーム「ブレイブファンタジア」コラボ出演(2018)、足利市のカフェとのコラボ(2018)、日本鬼子痛掛軸販売(2019)と、日本鬼子は創作活動が続けられてきました。

■ 10th企画でVtuberデビュー!

 こうした歩みを続けてきた日本鬼子ですが、10th企画でVtuberデビュー&SHOWROOMでキャラクター生配信が決定しています。

 企画を立ち上げたのは6年前に秋葉原で「鬼子カフェ」をプロデュースした黒幕Pさん。「Vtuber鬼子」は黒幕Pさんがオーディションで選んだ新人声優ONIKOさんが演じます。

 当時、20社以上の企業や団体の協賛を受け、一週間でのべ1200人もの来場者を集めた仕掛け人。鬼子カフェはイベントとしては成功だったものの、その後のラジオ企画が続行できなかったことが心残りだったそうで、「10th企画に合わせてラジオ企画を再始動したかった」というのが、今回企画するきっかけだったそうです。

 「当時できなかったことが、今ならできると感じました。“Vtuber鬼子”は、ラジオ番組として配信を行っているVtuberという試みで定期的な配信を行っていきます色々と仕掛けを考えているので、応援してくれると嬉しいです」と筆者に語っています。

 現在、SHOWROOM内に仮ルーム「Vtuber鬼子の鬼カフェラジオ(仮)」を作成して動作試験中。アバターの挙動を確認するために何回か仮放送を実施していますが、正式な第一回放送は2020年8月15日22:00からを予定しているとのことです。

 既にこのプラットフォームでの新企画も進められており、小日本(こにぽん)の代表デザイン、きぃら~☆さんを審査員に迎えた 声優募集オーディションの準備も着々と進行中とのこと。筆者も仮放送を視聴させていただきましたが、とてもキュートな声の演者さんなので、本放送が楽しみです!

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(和泉宗吾)