アメリカ空軍は2020年7月16日(現地時間)、空中給油・輸送機KC-46Aペガサスが初の患者搬送任務を実施したと発表しました。この任務では6回のフライト、計17時間をかけてメリーランド州のアンドリュース統合基地から、5名の患者と2名の付添人を3か所の基地へ搬送しています。

 KC-46Aペガサスは空中給油機であると同時に、約30トンの貨物を搭載できる輸送機としても利用可能です。今回の患者搬送任務はアメリカ空軍試験開発センターのもと、カンザス州マッコーネル空軍基地に所在する第22空中給油航空団の第931空中給油飛行隊のKC-46Aと、第22航空機整備中隊によって2020年7月10日に実施されました。

 マッコーネル空軍基地を離陸したKC-46Aは、まずメリーランド州のアンドリュース統合基地に着陸し、搬送を待つ5名の患者と2名の付添人を機内に迎えます。機内には担架を設置するアタッチメントが取り付けられており、患者はそれぞれの場所に固定されます。

 患者の搬送先は、バージニア州のノーフォーク海軍基地、フロリダ州のパトリック空軍基地、そしてカリフォルニア州のトラビス空軍基地の3か所。東海岸を北から南へ向かい、さらに西海岸へとアメリカ大陸横断を含む長距離ミッションです。

 任務に参加した第905空中給油飛行隊のパイロット、マイケル・マーフィー大尉は「このようなミッションを実施する際、チームがどれだけ訓練を重ね、献身的な働きをしているかなんて、誰も気づかないと思います。誰もが高いレベルで素晴らしい働きをしますからね」と、普段からの訓練が任務を支えていることに言及しています。

 この任務を実施するにあたり、空軍試験開発センターでは1年にわたってKC-46Aの患者搬送能力についての評価試験を重ねてきました。今回の任務を成功させたことで、KC-46Aは空中給油と輸送だけでなく、患者搬送にも使用できることが実証されたといえます。

 アメリカ空軍で、KC-46用患者搬送装備の試験開発を3年にわたって担当してきたヒース・ハンプトン1等軍曹は「今回の任務で私たちが注目していたのは、最長14時間にわたって患者のケアを続けることができるか、という点でした。それが証明されたことで、KC-46が患者搬送をするというコンセプトが実証されたのです」と今回の任務成功が持つ意義について語っています。

 この患者搬送任務では、2名の航空看護師と3名の医療技術者がクルーに加わり、5名の患者と2名の付添人の搬送を支えました。訓練課程では様々なタイプの患者、そして様々なパターンの搬送についてのシナリオがあり、状況に応じて的確な判断とケアができるように経験を重ねています。

 任務成功を受けて、第133空輸航空団で患者の航空搬送を統括するジェイソン・アーント中佐は「兵士が負傷した場所から家へ帰れるようになるまでの過程において、航空搬送が果たす役割は素晴らしいものがあります。その過程のすべてで力を発揮し、チームが一丸となって患者を安全かつ効率的に搬送できるよう、シームレスに連携しているのはとても良いことです」とコメントを発表し、患者を迅速に搬送する航空機の能力と、それを支える人々の献身に賛辞を送っています。

 患者の搬送を安全に実現するためには、患者の状態を把握しやすいと同時に患者にストレスを与えないよう機内照明の明るさを適切に調節したり、医療機器を稼働させるための電力を十分に確保したりと、通常の輸送任務とは異なる様々な条件があります。今回の患者搬送任務の成功で、2019年に導入が始まったKC-46Aペガサスの完全作戦能力獲得が、また一歩近づいたといえるでしょう。

<出典・引用>
アメリカ空軍 ニュースリリース
Image:USAF

(咲村珠樹)