【うちの本棚】155回 凱羅/板橋しゅうほう「うちの本棚」、今回も板橋しゅうほうの作品を取り上げます。

『凱羅』はふたつの雑誌をまたいで連載され完結した作品で、そのテーマ、内容ともに板橋作品の集大成と言ってもいいでしょう。


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本作品は『アイ・シティ』『Hey!ギャモン』に続いて双葉社の「月刊スーパーアクション」に連載されたものの、単行本2巻分までで中断、その後アスキー出版局の「ログアウト」で後半が連載されたという変則的な成立を見ている。

前半部分では鬼が登場したり、オドロオドロしい雰囲気もかもし出していたが、後半になるとヒーローコミック然としたアクション作品になっていると言ってもかまわないと思うが、通読したときに前半と後半で違和感を感じるところまで絵柄やストーリー上の差はない。

前半の主人公は、善鏡(ぜんきょう)という人物で、電子データを読み取ることが出来る特殊な能力をもっている。これまでもさまざまな作品で脳に直接電子データを送る状況を描いてきた板橋だが、ここでは機械的な補助を使わずに電子データを読み取るという「つつあるき」という能力を描いている。

さて、物語の本筋だが「凱羅因子」というものによって、主人公のような特殊な能力を持ったり、怪物化することがわかるとともに、この「凱羅因子」が人類の進化に影響を与えているのではないかと考え、秘かに実験を繰り返している製薬会社のことを知り、主人公は「凱羅因子」の謎に迫っていくというもの。

実は主人公もその実験によって生れたことがわかるとともに、同じように人の意識を残したまま超人的な能力を発揮する仲間が集まり、人類の進化を掛けて闘うことになっていくのだが、このあたりの展開は『アイ・シティ』、いや『ペイルココーン』以来の板橋のテーマとも言っていいだろう。
「凱羅因子」によって超能力を得たもの同士が闘う構図は、アメリカのSF小説シリーズ『ワイルドカード』を連想させるところもある。
また、本作でも『DAVID』や『SLICK STAR』のように前半と後半では何年かが経っていて、主人公も善鏡から娘の梨久(りきゅう)に変わる。そういう部分でも板橋作品の集大成という印象もある作品だ。
そして本作も現在新刊書店では入手が出来ない状況にある。読み出すと一気に読める面白い作品なので大変残念なことである。

ちなみに、本作品は当初前半2巻が双葉社から刊行され、「ログアウト」で連載が再開されたのをきっかけにアスキー出版局から再刊行され、続けて後半2巻が刊行された。第2巻の巻頭カラーページは前巻の粗筋となっているが、双葉社版とアスキー出版局版では違うものになっていて、大きな変更はカバーイラスト、見返しとこの粗筋部分となっている。

初出/双葉社「月刊スーパーアクション」1986年8月号~1987年9月号、アスキー出版局「ログアウト」第6号(1993年3月)、「月刊ログアウト」創刊号(1993年4月)~16号(1994年7月)

書 名/凱羅(全4巻)
著者名/板橋しゅうほう
出版元/アスキー出版局
判 型/A5判
定 価/各980円
シリーズ名/ASCII COMIX
初版発行日/第一巻・1993年5月22日、第二巻・1993年5月22日、第三巻・1994年4月22日、第四巻・1994年12月22日
収録作品/凱羅

凱羅-01 双葉社 凱羅-02 双葉社 凱羅-01
凱羅-02 凱羅-03 凱羅-04

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/