【うちの本棚】第百二十八回 吸血鬼/さいとう・たかをセレクション「うちの本棚」、今回はさいとう・たかをの怪奇ミステリー短編を集めた『吸血鬼』をご紹介いたします。60年代後半に発表されたさいとう・たかをの怪奇コミックをご堪能ください。


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本書は60年代後半に発表された、さいとう・たかをの怪奇コミック作品を中心に集めた短編集。収録作品中『人犬』などはかつて朝日ソノラマの「サンコミックス」にも収録されていたはずだ。また同時に刊行された『魔海』は「アドベンチャー編」、本書は「ミステリー編」と記されている。
『人犬』はタイトル通り人が犬になる、ある種の変身物語だが、表題作である『吸血鬼』は、いわゆる妖怪であるところの「吸血鬼」ではなく、ちょっとひねってある。永井 豪にも吸血鬼をSF的解釈で扱った作品があるが、本作はまさにミステリー的に扱ったものといえるだろう。かつて吸血鬼が現れたという伝説のある村が舞台であるだけに、吸血鬼そのものが登場しないのはちょっと寂しい気がしないでもない。
『血泥がえり』はヨットで太平洋横断を試みようとして遭難してしまった青年が体験する奇怪な物語だが、瀬下 耽の小説、『柘榴病』的な雰囲気がある。二度とその島を見つけることができなかったというラストも、怪奇探偵小説の影響を感じてしまう。
『黒い太陽の恐怖』はミステリーと怪奇がバランスよく混じった作品で、さいとう・たかをというよりは石森章太郎的かもしれない。もっともタイトルからは、楳図かずおの『笑い仮面』を思い起こさせるのではあるけれど。

巻末に収録された『獣人』は絵物語のさし絵で、今回が単行本初収録。文章が収録されていないので物語はわからないが、絵を見ているだけでは物足りないほど想像力をかきたてられる。次に収録する機会があればぜひ文字部分も復刻していただきたい。

個人的には『人犬』がもっとも気に入っているのだが、ページ数のためか予想外にあっさりとした作品に仕上がっている。内容が内容だけにもっと膨らませた作品に仕上げることもできたと思うのでもったいない感じがしてしまう。

ともあれ、ハードボイルド作品でしかさいとう・たかを作品に触れていない読者には、こんな一面もあるというのがよく分かる一冊なのではないかと思う。機会があればぜひ手に取って見て欲しい。

書 名/吸血鬼(さいとう・たかをセレクション)
著者名/さいとう・たかを
出版元/リイド社
判 型/文庫版
定 価/500円
シリーズ名/さいとう・たかをセレクション
初版発行日/2005年10月6日
収録作品/人犬(1966年/別冊少年マガジン)
吸血鬼(1967年/別冊少年マガジン)
血泥がえり(初出時期不明/月刊少年マガジン)
黒い太陽の恐怖(1973年/週刊少年マガジン)
獣人(1967年/小学五年生)絵物語さし絵

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/