こんにちは。様々な建物や街並に萌える「建物萌の世界」でございます。夏になって暑い日々が続きますが、まるで日本が南の国になったような感じの暑さですね。今回は、そんな南の異国情緒を感じさせる建物に行ってみましょう。


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東京・築地周辺は、古くは『忠臣蔵』で知られる浅野内匠頭(赤穂藩)の屋敷があったり、明治期には外国人居留地があったりと、なかなか面白い歴史を持った土地です。戦争中は空襲の被害が比較的少なかったこともあって、戦前からの建物も多く残ります。そんな中でも、地下鉄築地駅前、新大橋通り沿いで特異な存在感を放っているのが、築地本願寺です。正式名称は「本願寺東京別院」。浄土真宗本願寺派の寺院です。

インパクトのある外観は、これが「お寺」だとは思えませんね。インド風……という感じです。

1934(昭和9)年に建てられたこの寺院。設計したのは伊東忠太。施工は松井組(現:松井建設)です。日本建築のルーツを求め、アジア~ヨーロッパを旅して調査研究をした経歴を持つ、伊東忠太らしさ全開といった建物といえるでしょう。

インド・イスラム風の様式を持ちつつも、よく見ると中央部の屋根には蓮華の装飾があり、仏教のお寺だということを主張しています。

建物の両サイドには、仏塔(ストゥーパ)をモチーフにしたものが乗っています。

壁面には唐草と蓮華模様をモチーフにした装飾が施されていますが、これも日本というよりアジア的で、仏教の源流であるガンダーラを思わせますね。

本堂内部に入ってみると、外観のインド風とはうって変わって、柱と梁(はり)、組み物で支えられた折上格天井と、日本の伝統建築の構造となっています。ギャップが激しいですね。欄間などの彫刻は、昔から本願寺派の建物彫刻を手がけていた、富山県井波(現:南砺市)の職人によるものです。

入り口にはステンドグラスと、なぜかパイプオルガン。このパイプオルガンは創建当時のものではなく、1970(昭和45)年に寄贈されたもので、定期的に本堂で演奏会が開かれています。ステンドグラスにオルガン……というとキリスト教の教会というイメージがありますが、この築地本願寺の無国籍な雰囲気には合っているかもしれません。

さて、このお寺らしくない雰囲気の築地本願寺。いくら設計者がアジアの建築に造詣が深いといっても、建物の設計・デザインは施主(注文者)の意向に沿わなければなりません。そもそもなぜ、こんな建物が建てられたのでしょうか。これには偶然と人の縁が関わっていました。

浄土真宗本願寺派のトップである法主、その22代の大谷光瑞は仏教のルーツを探求しようと、インド・中国を中心としたアジア各地に散らばる仏教遺跡の発掘をする調査隊を、明治末期から数次にわたって派遣しました。俗にいう「大谷探検隊」です。仏教だけでなく、陶片の収集など考古学的な発見も多かった(発掘された陶片の一部は、東京の出光美術館で見られます)大谷探検隊ですが、この最初の調査の際、たまたま日本建築のルーツを探る為にアジア各地を調査していた伊東忠太一行(建築を記録する為に写真家を伴っていた)と大谷探検隊が偶然出会ったのでした。

当時は欧米に学ぶ……という考え方が主流で、アジアに目を向けるというのは少数派でした。建築と仏教という違いはあれど、アジアにルーツを求めようという同じ考え方を持っていた大谷光瑞と伊東忠太は意気投合。親しく交流するようになります。

その後に発生した関東大震災で、江戸時代に建てられた築地本願寺の本堂は焼失してしまいました。本堂再建に当たって、大谷光瑞は設計を伊東忠太に託します。二人は話し合い、双方の趣味……というか、今まで培ってきたアジア研究の集大成として、この特異な本堂を生み出したのでした。通常のお寺と違い、本堂内部が畳敷きや板張りでなく、椅子席になっているのは、大谷光瑞が「これからは日本も椅子に座るライフスタイルが定着する」という考えのもと、あえてこのような形に設計されたもの。そのお陰で、土足のまま気軽に本堂に入って参拝できるのは便利ですね。

ところで、伊東忠太の建築といえば、妖怪や幻獣、動物のモチーフが各所に用いられるのが特徴です。この本堂でも、いたるところに動物があり、ちょっとした動物園みたいな感じ。子供連れで訪れた際には「動物探し」をしても楽しい建物です。

たとえば、本堂正面には翼を持つライオン。イタリア・ベネツィアの守護聖人である、聖マルコのシンボルとしても知られていますね。……もちろん、仏教とは関係ありませんが。

内部の階段には、象、猿、馬、ライオン、牛、鳥の彫刻があります。このうち象、猿、鳥はジャータカという仏教説話中の「三畜評樹」に基づくもの。

ある日、釈迦十大弟子であるサーリプッタとモッガラーナを差し置いて上位の席に座ろうとした僧を見かねて、ブッダ(釈迦)がこんな話をしました。昔、象・猿・鳥が「誰が一番年長か」という議論をして、そこにあった一本の木を基準にして、いつ頃から知っていたかで判断しようとなり、鳥は木が植えられる前を知っていたということから一番の年長であることが判りました。さらに鳥はブッダ、猿はサーリプッタ、象はモッガラーナの前世であることをブッダが教え、年長者を敬うようにと諭した……という説話で、インドなどではポピュラーなモチーフだそうですね。階段の中での位置関係については、実際に確かめてみてください。この階段室にある動物の彫刻は、猿を除いてどれも丸々とデフォルメされており、特にライオンはちょっと間抜けな表情が愛らしい存在です。

階段といえば、寺の事務室がある部分の階段の手すりは、上から獅子がくわえて支えています。こちらは力強さを感じさせる、ノミ跡を残した木彫です。

また、本堂内部で天井を支える柱の四方には、青龍、朱雀、白虎、玄武の四神のレリーフが入っています。ちゃんとこの四神が守護する東、南、西、北の各方位と、レリーフの位置が対応しているかどうかは確かめていませんが……。

アジア的モチーフと日本建築の融合、各所にちりばめられた動物達と、伊東忠太らしさが詰まった築地本願寺。宗教施設なので参拝するところではありますが、仏教や宗派といったものとは別に、見て回るだけで楽しい建物です。ぜひ、不思議なこの空間を楽しんでみてください。

(文・写真:咲村珠樹)