7月13日、「強姦罪」が「強制性交等罪」となり、内容も大幅に改正されました。刑法の改正は実に110年ぶり。特に大きな違いは被害者が告訴しなくても起訴できるようにする親告罪の削除ですが、さらにその内容がどんなふうに変わったのかをアディーレ法律事務所所属の岩沙好幸弁護士にお聞きしました。

1:これまでの強姦罪とは、具体的に何が違うのでしょうか?

名称を「強制性交等罪」に変更し、被害者の性別は女性のみではなく、男性も含むこととしました。また、姦淫行為だけでなく「肛門性交又は口腔性交」も併せて「性交等」として処罰されます。さらに、法定刑も「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」へ厳罰化されました

2:親告罪の規定を削除し告訴を不要としたことによって、例えば強制性交をされた被害者に変わってどんな第三者が告発することができるのでしょうか?

実は告発は、誰でも、犯罪があると思料するときは捜査機関に対してすることができるものですが、今回の改正とは無関係です。
親告罪は告訴、すなわち被害者やその法定代理人などが訴追がを求めないと起訴できませんが、今回の改正で、強姦罪などは親告罪でないことになりましたので、告訴がなくても起訴することができるようになりました

3:男性に対して強制性交を行った加害者への罪が、これまでよりも重くなるのでしょうか?

従来は、男性が被害者の場合、強姦罪を適用できず強制わいせつ罪で処理していました。ところが、強姦罪の法定刑が「3年以上20年以下の懲役」なのに対し、強制わいせつ罪は「6月以上10年以下の懲役」と低いという実情がありました。
今回の改正で、男性が被害者の場合も強制性交等罪が適用され「5年以上の有期懲役」になります。したがって、加害者の量刑は重くなるでしょう

4:新設された「監護者性交等罪」についてですが、監護者による18歳未満への性交について、両者間に恋愛関係があった場合はどうなるのでしょうか?

18歳未満が性交に同意していた場合に本罪を成立させるかは難しい問題です。もっとも、類型的に真摯な同意が期待できない立場を利用した犯罪なので、同意があったとしても「監護する者であることによる影響力があることに乗じて」と言えるのであれば、本罪は成立するでしょう

5:準強姦罪の場合は、今までと何か変わるのでしょうか?

準強姦罪も準強制性交等罪に名称が改められました。その余の改正点は1のご質問と同じです

■改正されて何が良くなったのか

一番大きな改正点は、親告罪でなくなったことですが、それに加えて被害者が女性であっても男性であっても変わらない罪の適用がされることになったのは、今まで声を上げることができなかった男性被害者にとって光となることは明確です。
そして、18歳未満の監護者、すなわち実親や義親などの監護者による「監護者性交等罪」は、これまで声を上げることができなかった児童の強い助けとなることが予想されます。
強制性交罪は施行前に起きた事件にも原則適用されるため、泣き寝入りしてきた被害者たちが報われることも増えるのではないでしょうか。

相手を強制的に意のままにすることは、あってはならないこと。
一説によると、性犯罪者には「相手は喜んでいる」という顕著な認知の歪みがあるとされています。そして、自分では制御できない性衝動と闘っている場合があったり、そもそも性犯罪自体、自分のスキルアップのためゲーム感覚で行っている場合もあると言われています。
誰もが性犯罪に合う可能性が0ではない昨今、厳罰化されたことで犯罪に手を染めかけている人々がその現実を正しく把握し、少しでも性犯罪が減ることを祈るばかりです。

<記事化協力>
弁護士法人アディーレ法律事務所

岩沙好幸弁護士
東京弁護士会所属。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。
パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。

岩沙好幸弁護士

<参考>
『性犯罪者の頭の中』鈴木伸元 幻冬舎新書 2014年

(貴崎ダリア / 見出し画像・写真AC)