海底火山の大規模な噴火で大きな被害を受けたトンガ。日本の自衛隊ほかオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アメリカなどの軍が航空機や艦艇を派遣し、支援物資を届ける活動を展開。その様子をご紹介します。

 トンガの海底火山「フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ」が噴火したのは、日本時間の2022年1月15日13時ごろのこと。火山から65kmほど離れたトンガの首都ヌクアロファをはじめ、周辺の島々には津波のほか、多くの火山灰が降りました。

■ 上空からの被害状況把握

 噴火にともなう津波や降灰により、トンガの通信手段は致命的な打撃を受けました。現地からの情報が入らないため、近いニュージーランドでは、1月17日朝に空軍のP-3K2哨戒機を派遣。上空から被害状況を確認しました。

上空から見たトンガの惨状(画像:New Zealand Defence Force)

 火山灰により、緑に覆われているはずの島々は一面の灰色。エメラルドグリーンの美しい海も灰色に染まっています。

 次いでオーストラリア空軍がP-8哨戒機を派遣し、さらに詳しい調査を実施。偵察機材で島々を上空から撮影し、被害状況を把握して必要な物資の選定に役立てました。

港の津波被害(画像:Commonwealth of Australia)
火山灰の積もった飛行場(画像:Commonwealth of Australia)

■ 輸送機による救援物資輸送

 首都ヌクアロファ近くにあるファアモツ国際空港では、滑走路や誘導路に降り積もった火山灰が除去された20日より、オーストラリア空軍とニュージーランド空軍の輸送機による緊急援助物資の輸送が始まりました。

火山灰の残るファアモツ国際空港に到着したオーストラリアのC-17(画像:Commonwealth of Australia)
輸送機の積荷(画像:Commonwealth of Australia)

 日本も1月20日、国際緊急援助活動の第1陣として、航空自衛隊のC-130H輸送機とC-2輸送機を2機ずつ派遣。小牧基地を発ったC-130Hは、21日に拠点となるオーストラリアのアンブリー空軍基地に到着しました。

オーストラリアに到着した航空自衛隊の派遣隊(画像:Commonwealth of Australia)

 トンガと日本はラグビーを通じて長い交流の歴史があり、トンガ出身の日本代表選手も数多くいます。このため、航空自衛隊の派遣隊員はラグビーボールにトンガと日本の国旗を描き、2019年のラグビーワールドカップで日本代表チームの合言葉となった「ONE TEAM」の言葉を添えて、トンガの人々とともに歩む志を示しました。

オーストラリ航空自衛隊のC-130Hと派遣隊(画像:Commonwealth of Australia)

■ 艦船による物資輸送

 航空機による緊急輸送が進む中、援助物資輸送の主役を担うのは船です。まずニュージーランド海軍が1月19日に哨戒艦ウェリントンと補給艦アロテオロアを派遣。沖合から島々の状況を把握し、補給物資を積んだ艦艇の活動に備えた情報収集を行いました。

津波で破壊された建物(画像:New Zealand Defence Force)
哨戒艦ウェリントンと調査用ボート(画像:New Zealand Defence Force)
海の状況を分析する(画像:New Zealand Defence Force)

 オーストラリア海軍は1月17日、緊急援助物資と人員を乗せた強襲揚陸艦アデレードがトンガに向けて出発しました。強襲揚陸艦が選ばれたのは、物資を大量に積載できるだけでなく、港湾施設が使えない場合でも揚陸艇を使って物資を荷揚げできるからでもあります。

アデレードに搭載される火山灰除去用の器材(画像:Commonwealth of Australia)
アデレードに搭載されたユニセフの援助物資(画像:Commonwealth of Australia)

 同じく、日本からもエアクッション艇LCACで物資を輸送可能な輸送艦おおすみが、1月24日トンガに向けて出発。陸上自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターのほか、火山灰除去のための用具や、不足している飲料水などを輸送しています。

 イギリス海軍は、南太平洋からハワイに向けて航行中だった哨戒艇スペイをタヒチに緊急寄港させ、30キロリットルの飲料水や400個のファーストエイドキットなど援助物資を積載。トンガへ向けて19日に出港しました。また、オーストラリアの強襲揚陸艦アデレードにも、イギリスの援助物資が積み込まれています。

タヒチで支援物資を積み込む哨戒艇スペイ(画像:Crown Copyright)
支援物資を持つ哨戒艇スペイの先任伍長(画像:Crown Copyright)
アデレードに搭載されたイギリスの援助物資(画像:Commonwealth of Australia)

 また、アメリカ海軍は同じく南太平洋を哨戒中だった駆逐艦サンプソンのトンガ派遣を決定。ニュージーランドの補給艦アロテオロアから燃料の補給を受けつつ、艦載ヘリコプターで救援活動を1月25日に始めました。

■ 活動を阻む新型コロナウイルス

 緊急援助活動が進む一方、気掛かりなのが新型コロナウイルス。トンガの医療インフラはもともと脆弱で、WHOの援助が入っているところに火山災害が起こり、新型コロナウイルス対策をする余裕がありません。

 そんな中、日本から派遣された人員の中から4名の感染が確認されました。現在、濃厚接触が疑われる計36名が感染防止策として、現地の宿泊施設で隔離されています。

 また、オーストラリアからトンガに向かっていた強襲揚陸艦アデレードでも、23名の感染が確認されました。こちらでもオーストラリア軍が定める規定に従い、濃厚接触が疑われる人員を含めて艦内で隔離措置がとられたといいます。

 強襲揚陸艦アデレードは災害派遣も考慮した設計となっており、ベッドが40床あるほか、新型コロナウイルスの検査設備など医療設備が充実しています。このため、オーストラリア国防省は救援任務遂行に影響はないとしています。

 火山灰に覆われた大地は植物が枯れ、火山噴出物による海洋汚染など、トンガの災害はこれからが本番だといえます。新型コロナウイルス禍という困難な状況下、各国の救援活動は続きます。

<出典・引用>
防衛省 トンガ王国国際緊急援助活動ページ
防衛省・統合幕僚監部 報道発表資料
ニュージーランド軍 トンガ救援情報ページ
オーストラリア国防省 ニュースリリース
イギリス海軍 ニュースリリース
アメリカ海軍 ニュースリリース
画像:New Zealand Defence Force/Commonwealth of Australia/Crown Copyright

(咲村珠樹)