写実彫刻を目にすると、本物を別の素材に置き換えたかのような驚きと、作者の観察眼と技量を讃えたい気持ちが同時にわいてきます。木の板に載せられた、溶けかかっている氷。これ全部、一体となった木彫作品なんです。木での表現が難しい、氷の透明感をも再現した作者のキボリノコンノさんに話をうかがいました。

 キボリノコンノさんは名前の通り、木彫りの作品をTwitterなどに発表している作家さん。小さい頃から木を素材に加工して楽しんでいたそうですが、木彫を専門に学んだわけではなく、新型コロナウイルス禍により家にいる時間が増えたことを機に、2021年9月から趣味で木彫り作品を作り始めたといいます。

 これまで「自分が好きな食べ物を、自分が好きな『木』という素材で表現してみたかった」と、身近な食べ物を彫ってきたキボリノコンノさん。今回の「溶けかけの氷」で、22作目の作品になります。

木彫りのうなぎパイ(キボリノコンノさん提供)

 不透明な素材である木で、透明な氷を表現するのは難しそうです。この作品を作るにあたり「木目が透けているように見せるため、土台と氷部分を一体で彫りました。透明でない木を透明に見せるため、氷を何度も観察し、氷が透けて見える理由を考えて作品に活かしました」と、制作の裏側を明かしてくれました。

大まかに切り出す(キボリノコンノさん提供)

 普段は柔らかく削りやすい上、着色しても木肌の質感が変わらない、という理由からシナの木を好んで使っているそうですが、今回の作品で選んだ木材はヒノキ。この理由も「彫りやすい上に木目がはっきり見えて、氷の下に透けた木目を活かせると思ったからです」と明快です。

 それでも、氷の下に見える木目は屈折で歪んで見えるため、その具合も考慮して彫り出す分量を決める必要があります。言葉では簡単ですが、繊細な技術が必要。

彫り上げたところ(キボリノコンノさん提供)

 紙やすりで表面をツヤツヤに磨き、彩色に入ります。上部には細かな泡を閉じ込めた白、そして溶けかけた氷の表面を包む水の透明感や、光の反射が描き込まれていくと、さっきまで木のかたまりだったものが、とたんに氷のように。

彩色の様子(キボリノコンノさん提供)

 ツヤのない木の表面に、濡れた照りのある透明感のコントラスト。木目が際立つことで、より氷の質感と光の屈折がリアルに迫ってきます。

キボリノコンノさんのツイート(スクリーンショット)

 木目を活かした必要最小限の彩色で氷の透明感を表現した、キボリノコンノさんの「溶けかけの氷」。モチーフを観察し、数多くの情報を制作に反映させた素晴らしい作品です。

<記事化協力>
キボリノコンノさん(@kibori_no_konno)

(咲村珠樹)