自分にとって「あたりまえ」であっても、誰かにとっては違うかもしれない……多様性を考える上で、重要な視点です。健常者が当たり前のように使っている自動販売機が、視覚障がい者にとっては何が出てくるか分からない「ロシアンルーレット」である、という側面を日本盲導犬協会がTwitter動画で紹介しています。

 日本盲導犬協会は、盲導犬育成をはじめ視覚障害リハビリテーションを通じて、視覚障害者の社会参加をサポートする公益財団法人。目の見えない人、見えにくい人が、行きたい時に行きたい場所へ行けるよう、盲導犬や白杖での歩行を提供しています。

 日本盲導犬協会では公式Twitterアカウントを通じ、盲導犬の紹介や、視覚障害者が普段どのように暮らしているかなどの情報を発信しています。

■ 視覚障がい者にとって自動販売機は使いにくい

 2021年9月、公式Twitterで「職員のひとりごと」と題された動画が投稿されました。視覚障がい者が、飲料の自動販売機を利用する際に起きる「あるある」な場面です。

手探りでボタンを探す

 自動販売機で買い物をする際、買いたい商品を目で確認し、ボタンを押して購入します。しかし、視覚障がい者にとってみれば、自動販売機は「ボタンが並んでいるだけ」で、どのボタンがどの商品に対応しているのか、確認する方法がないのです。

■ 視覚障がい者はどのようにしている?

 視覚障がい者は、どのように対処しているのでしょうか。日本盲導犬協会の職員で、盲導犬ユーザーでもある押野まゆさんにうかがいました。

 自動販売機を利用する際は「基本的には、決まった場所の自販機を利用することが多いです。駅のホームやよく行く施設では、自販機の場所をしっかり覚えれば自分で飲み物を買うことができます。私は学生の頃、電車通学をしていたので、乗り換えの待ち時間に、ほぼ毎日自販機を利用していました」とのこと。

 実際に自動販売機で商品を購入する時は「自販機のメーカーがわかれば、どんな商品が入っているか分かるので『どこの自販機のどのボタンが何である』という風に覚えて購入しています」と話してくれました。

 しかし、時には欲しい商品が売り切れだったり、商品の入れ替えでボタンと商品の対応状況が違ってしまう場合もあります。こうなると、欲しい商品をスムーズに買うことができません。この状態をTwitter投稿では「自販機ロシアンルーレット」と表現しています。

商品配置が変わると目的のものが買えない

 運悪く、目的の商品と違うものが出てきてしまった場合、視覚障がい者の方はどうしているのでしょうか。押野さんにうかがうと「主に、次の3パターンで対応しています」と対処法を教えてくれました。

1. そのまま飲む
2. 持ち帰って誰かにあげる(私はコーヒーが苦手なので、缶の雰囲気でコーヒーっぽいと思ったら誰かにあげています)
3. 周囲に人がいれば、買いたいものがどこにあるか聞く(かなり勇気がいるのですが、使う頻度の高い自販機であれば、近くにいる人に「○○はどこですか?」と尋ねます)

 出てきた商品を手探りで判別し、違う商品だと分かった時は気落ちしてしまいそうです。しかし、缶やボトルの手触りで商品を確認する、というのは自動販売機に限らず、スーパーやコンビニなど一般の買い物でも同じこと。

 場合によっては同じ商品でも、リニューアルによってボトルのデザインが変わってしまうこともあります。CMでリニューアルされたことは分っても、視覚情報がないとボトルのデザインは確認できません。

 この点を押野さんにうかがうと「飲み物に限らず、お店では自分1人で陳列棚から商品を選ぶことは難しい場合が多いため、店員さんに商品選びを手伝っていただいています。最近は無人店舗の実証実験のニュースを耳にしますが、そういった無人店舗になれば、私たち視覚障がい者にとっては買い物が難しくなってしまうな、と少し心配です」という答えが返ってきました。

 このところ増えているセルフレジでも、タッチパネルやバーコードリーダーなど、基本的に視覚情報で操作するよう設計されているので、視覚障がい者の方は利用が難しそうです。有人レジの存在は重要ですね。

■ 困っていたら声をかけて

 では、視覚障がい者の方が自動販売機などを利用しようとしている際、健常者はどのようにお手伝いしたら良いのでしょうか。Twitterに投稿された動画には、後半に「こうしてくれると助かる」という方法も示されています。

「なに買われますか?」と声掛け
何を買いたいか要望を聞く

 自動販売機の前で、視覚障害者の方が迷っていたりした場合、声をかけてみましょう。押野さんも「『何を買いますか?』や『ボタンを押しましょうか?』など、声をかけていただけると嬉しいです」と話してくれました。

代わりにボタンを押す
スムーズに目的のものが買える

 健常者があたりまえのように使っている自動販売機が、視覚障がい者にとっては手がかりが何もない、というのは、当事者でなければ分からない情報です。これ以外にも、私たちにとっての「あたりまえで便利」が、別の立場から見ると「使いにくいもの」であるケースはたくさんあります。

 それぞれが「できること」を持ち寄り、みんなが快適に暮らせる「あたりまえ」を作ること。この考え方が、多様性の豊かな社会を実現する方法なのかもしれません。日本盲導犬協会のYouTubeチャンネルでは、盲導犬ユーザーの日常生活を紹介する動画などが公開されており、盲導犬についてより詳しく知ることができます。

<記事化協力>
公益財団法人 日本盲導犬協会(@JGDA_GuideDog)

(咲村珠樹)