ミリタリーに関心があり、各国の軍の動きやニュースをSNSで追いかけている人も少なくないでしょう。中には、同じ趣味を持つ者同士で交流する機会も。しかし、顔の見えないSNSだからこそ注意が必要です。国連機関や国連軍の兵士と名乗って近づいてくる詐欺アカウントがあり、国連でも再三注意喚起をしています。

 SNSの利点は、世界中の情報を直接入手できたり、同じ趣味の人と交流できること。筆者はミリタリー記事を担当していることもありSNSは情報収集の場。いくつかの国の広報官や公式アカウントと相互フォローになって交流しています。

■ 国連の兵士や医者を名乗る

 直接知り合う機会のない人と関係が築けるのはSNSの特色ですが、逆に「顔が見えない」からこそ、事件やトラブルに巻き込まれるケースも少なくありません。国連の日本語広報サイトである「国際連合広報センター」では、お知らせのトップに「詐欺にご注意ください!」というメッセージを掲げています。

国連広報センター公式サイト(スクリーンショット)

 その内容は、国連に関係する医師や軍人などを名乗る人物からソーシャルメディアを通じて、彼らの休暇や退職後の日本渡航に関わる手続きについて、費用の立て替え等を求められたという詐欺行為が以前から引き続き報告されているというもの。また、国連総会の元議長などの国連関係者になりすまし、一般個人を国連親善大使に任命するなどと偽って、手続登録料金を要求する詐欺行為も報告されているといいます。

国連関係者を名乗るSNS詐欺の注意喚起をする国連広報センター公式サイト(スクリーンショット)

 こうした詐欺は恋愛をほのめかすパターンが多いことから「ロマンス詐欺」と呼ばれています。他にも、相手が名乗る職業が軍人な場合には「ミリタリー詐欺」とも呼ばれています。

 国連の注意喚起メッセージは、2020年4月13日に掲載されたもの。2021年10月現在もお知らせのトップに掲載されていることから分かるとおり、この詐欺は現在も横行中です。また、国連本部の公式サイトにも同様の注意喚起が掲載されています。

国連本部公式サイトの注意喚起(スクリーンショット)

■ 自称「イエメンに派遣されている国連軍の女性兵士」とやりとりしてみた

 実際にどんな手口なのだろう、と疑問に思っていたところ、弊社編集部員のTwitterアカウントに「イエメンに派遣されている国連軍の女性兵士」を名乗る人物から、ダイレクトメッセージ(DM)が届きました。ちょうど良い機会なので、ダイレクトメッセージが届いた編集部員を通じて観察・交流してみることにしました。

最初の連絡

 ちなみに、イエメン情勢に関して国連は事務総長の特使(OSESGY=Office of the Special Envoy of the Secretary-General for Yemen)として、ハンス・グリュントベルク氏を派遣してはいるものの、国連決議に基づく「国連軍」は派遣されていません。

 弊社編集部員にTwitterを通じて接触してきた人物は、自称・アメリカ人の女性。現在このアカウントはTwitter社によって凍結されており、ツイートを閲覧することはできませんが、プロフィールにはノースカロライナ州在住とあり、凍結前はなぜか日本のまとめサイトの記事が頻繁にツイートされていました。

自称「イエメンに派遣されている国連軍の女性兵士」のアカウント

 数少ない彼女(女性のプロフィール写真が使われていたので便宜的に「彼女」とします)自身のツイートには、陸上自衛隊を含めた複数の国の迷彩服を着た女性たちの集合写真が添付されていました。「Our armies were in as much chaos in victory as theirs in defeat.(私たちの軍は敗北を喫した時のような勝利の混乱状態でした)」との文が添えられていましたが、ご存知の通り、陸上自衛隊は武力行使をともなう海外派遣を実施していません。

複数の国の迷彩服を着た女性たちの集合写真

 ツイートに添えられた写真を詳細に見てみると、女性たちの着ている迷彩服は、陸上自衛隊のほか中国人民解放軍、タイ陸軍、オーストラリア陸軍の迷彩服のようです。もちろん、この写真の中には「彼女」のプロフィール写真と同じ人物はいません。

 筆者の推測ですが、この写真はタイとアメリカが共同で主催する東南アジア最大の共同訓練「コブラ・ゴールド」で撮影されたものではないでしょうか。この訓練に陸上自衛隊は2005年から参加しており、中国人民解放軍やオーストラリア軍も参加しています。

 彼女はダイレクトメッセージで、現在イエメンに派遣されている国連軍部隊の隊長で年齢は40歳、数年前まで駐日大使のもとにいた(駐在武官?)と「怪しげな日本語で」語りました。応対した弊社編集部員によると、なぜか英語よりも日本語の方が得意なようで、英語で所属部隊を問いかけても無視されてしまったといいます。

 また、イエメンでの食事についても語っていたのですが、イエメンなどでポピュラーな羊を使ったスープを食べているといい、部隊の調理兵が作った食事についての言及はありませんでした。

▼ 彼女から聞き出した彼女に関する情報

※()内はやりとりを担当した担当者の心の声、もしくは補足です。

・アメリカ人
・女性
・40歳
・成長痛を理由に24歳のときにアメリカ軍に入隊(なぜ成長痛?)
・現在イエメンの国連軍で働いてる。隊長をつとめている
・数年前には日本で駐日大使のもとで働いていた
・日本語は不得意なので当時から通訳を使っている(でも英語で話しかけると日本語でしか返事がこない)
・日本食で好きな食べ物はカレーとラーメン
・日本にいたころはあまり外出できず日本の地理や地名は詳しくない
・日本にいたころの友人が荒川に住んでいる
・夕飯では好物の「ラムブロススープ」を食べた(写真をみせてとお願いしたら料理サイトにある写真を送ってきた)

▼その他

・本人曰く「勤務中でオフィスにいる」状態にもかかわらず、ダイレクトメッセージを送ると即で返事がくる(とにかく会話を続けたがる)
・時差があるのに日本時間にあわせて朝と夜の挨拶を必ずしてくる(朝は日本時間の6時頃、夜は8時頃)
・「今イエメンは何時何分」と聞いてもないのに唐突に言ってくることがある

■ やりとりをしつつプロフィール画像を調査→写真の人物を発見

 こうしたやりとりをしつつ、彼女のプロフィール写真を画像検索するなどして、アカウントの正体を探っていきます。

▼ ざくざくでてくる「彼女」アカウント

 まずプロフィールトップにある画像を画像検索にかけてみると、全く同じ画像をプロフィールトップに使用した別のTwitterアカウントがすぐ見つかりました。使用言語はフランス語で、こちらは2020年に2件のツイートがある以外はアクティビティがありませんでした。

 他にもアイコンに使用している写真と全く同じ写真を「最近の私」的に投稿しているアカウントを4つ発見。計5つの「彼女」の別アカウントをみつけたのでした。ちなみに名前はバラバラでした。

もう一つのTwitterアカウント

▼ お金をせびられた人の体験ブログも発見

 また、個人ブログで彼女の画像を掲載して、Twitterでのやりとりの全てを公開している方もみつけました。記述によるとブログ主に対しては「シリアにいる45歳のアメリカ軍の軍人」と語っていたそうです。最終的には送金を求めてきたといいます。

 ブログ主はもちろん引っかかってはいません。彼女とのやりとりをのこして、誰かがひっかかりそうになって検索したときのために公開しているそうです。グッジョブ!

▼ 写真のご本人アカウントを発見!注意喚起をしていた

 そしてさらに調べていきます。するとある女性のFacebookページが見つかりました。

 そこには「私の画像を利用した偽のプロフィールがいくつか出回っているので十分注意してください」「私は2つの名前をもっていないし、双子でもない。このアカウント以外で私の写真がプロフィールに使われているのを見たらブロックして」とフランス語で注意喚起のメッセージ。使われている写真も添えられていました(彼女アカウントのいくつかで使用されている写真と同一でした)。

 ざっとFacebookの方の写真をみていくと、どうやらこの人物の写真を「彼女」はいくつも無断で使用しているもよう。Twitterにある「彼女」アカウントに投稿された写真と重複するものをいくつも見つけることができました。

 余談ですが、編集部でやりとりしていた彼女アカウントのアイコンと同じ写真が、海外の出会い系サイトで複数登録されているのも見つけることができました。ネットに顔写真をアップすると、今回のように勝手に詐欺に使われることもあるようです。怖いですね。

■ いざ凸→即ブロック

 これらの情報を得て、ダイレクトメッセージで「彼女」に質問してみました。すると最初は全力否定。他にアカウントもないと言い張ります。

直接聞いてみた

 では、と全く同じ画像をプロフィールトップに使用した別のTwitterアカウントを出して「これは?」と質問すると即ブロック。こちらからは接触できなくなってしまいました。

ブロックされた

 ちなみに翌日のこと。「彼女」のアカウントはTwitterルールに違反しているアカウントとして凍結。やはり、何らかの違法行為につながる偽アカウントだったようです。

凍結された彼女のアカウント

■ ダイレクトメッセージのやりとりには他の人との共通点があった

 なお、ネットで今回接触してきた彼女のプロフィール「イエメン」「女性兵士」などを組み合わせて検索してみると……。似た体験談が続々出てきました。やはり2020年頃から増えているようです。

 やりとりの流れには共通している部分もあり「突然のフォロー」「性別を聞いてくる」などがあります。このため参考までに編集部でやりとりしたケースでの流れを以下に記しておきます。

▼他の人と共通する手口

・突然フォローしてくる
・相互になると最初からDM
・イエメンにいることなど一方的に自己紹介
・ハンドルネームがあるのに何故か名前を聞いてくる
・性別も聞いてくる
・結婚してるかも聞いてくる
・朝と夜の挨拶がとにかくオーバー(例:美しく素晴らしい夜が訪れたわ!~/美しい一日が始まるわ!~等)

■ 突然DMを送ってくるアカウントには気をつけて

 今回、接触してきたTwitterアカウントは、詐欺の「本題」に入る前の段階で逃げてしまいましたが、同様のアカウントは各SNSで活動を続けています。

 守秘義務のある軍人にも関わらず、やけに自分の身の上をペラペラと語ってくるアカウントは、何らかの違法行為を狙って近づいてくるアカウントの可能性が高いので、くれぐれも気をつけてください。

<出典・引用>
国際連合広報センター プレスリリース「詐欺にご注意ください!

※記事中にあるダイレクトメッセージの画像は編集部員と、自称「イエメンに派遣されている国連軍の女性兵士」が10月9日から10月10日にかけてやりとりしていた内容の一部です。凍結があまりに早く全てのスクリーンショットを残せなかったため、たまたま撮っていた一部のみの掲載となっています。なお、文で記載したやりとりの内容は、残っていた編集部員側からの質問をもとに忠実に再現しています。(凍結後、先方からのメッセージは消えてしまいましたがこちら側からの質問は全て残っていました)

(咲村珠樹/宮崎美和子)