ヴァージン・グループで空中発射式ロケットによる衛星打ち上げビジネスを担うヴァージン・オービットは、2回目の試験打ち上げを2021年1月17日(現地時間)にカリフォルニア州沖の太平洋上空で実施し、NASAの超小型衛星10機の軌道投入に成功したと発表しました。アメリカで民間企業による空中発射式ロケットの打ち上げ成功は、ノースロップ・グラマンのペガサスロケット以来、地球周回軌道投入成功は初めてとなります。

 ヴァージン・オービットは、リチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・グループの宇宙関連企業のうち、空中発射式ロケットによる衛星打ち上げを事業とする会社。ほかに有人宇宙旅行を実施するヴァージン・ギャラクティックがあります。

ヴァージン・オービット創設者のリチャード・ブランソン氏(Image:Virgin Orbit)

 ロケットの打ち上げでは、地上で静止した状態から上昇する際が一番ロケットの重量が大きいこともあり、最も大きな推力と燃料が必要となります。また、打ち上げに際しては天候や風といった気象条件が重要となり、特にロケットの誘導装置や飛行データ送信装置に損傷を与える可能性がある雷雲は大きな障害です。

 空中発射式ロケットの利点は、雷雲の発生しない高度1万m以上の成層圏から打ち上げることで、地上の気象条件に左右されないスケジュール通りの打ち上げが可能なこと。欠点としては、ロケットを運搬する発射母機の大きさに限界があるため、大型ロケットが使用できず、小型の衛星しか打ち上げられないことです。

 アメリカでの空中発射式ロケットの研究開発は、DARPAの資金提供により始まりました。オービタルATK(現:ノースロップ・グラマン)の「ペガサス」ロケットはその実現例で、研究開発段階ではB-52を発射母機とし、実用化後は航空会社から退役したロッキードL-1011トライスターを改修した「スターゲイザー」により、NASAの観測ロケット打ち上げ業務を受注しています。

B-52に装着されたペガサスロケット(Image:NASA)
ペガサスロケットと発射母機のL-1011スターゲイザー(Image:Northrop Grumman)

 現在、テクノロジーの発達により、従来よりコンパクトな人工衛星が作れるようになり、小型衛星の打ち上げ需要は高まっています。しかし、地上から打ち上げられるロケットは小型衛星にとっては大きすぎ、多くは大型衛星の打ち上げに相乗りするか、国際宇宙ステーションから放出してもらうケースがほとんど。

 大型衛星に相乗りする場合、どうしてもそちらの打ち上げスケジュールに合わせることになり、小型衛星にとってベストな打ち上げスケジュールが実現できない場合も。このため、小型衛星を都合の良いスケジュールで打ち上げられる小型ロケットが求められており、日本でも北海道にあるインターステラ・テクノロジーズが、その市場を狙って小型ロケット「MOMO」の開発を進めています。

 ヴァージン・オービットが小型衛星の打ち上げ用として開発したのが、空中発射式2段ロケットの「ランチャー・ワン」。ヴァージン・アトランティック航空を退役したボーイング747-400を改修した発射母機「コスミック・ガール」の主翼下に装着し、高度1万m以上の成層圏から宇宙に向けて打ち上げます。

組み立て中のランチャー・ワン(Image:Virgin Orbit)
発射母機から切り離されるロケット(Image:Virgin Orbit)

 今回の打ち上げは、ランチャー・ワン2回目の打ち上げ試験を兼ねており、NASAの小規模衛星打ち上げサービス・プログラム(LSP)で募集された、10機の超小型衛星(キューブサット)をペイロードとして実施されました。また、打ち上げロケットであるランチャー・ワンの燃焼室は、NASAとヴァージン・オービットが共同開発した、3Dプリンタで出力されたものが使われています。

ペイロードのキューブサット(Image:Virgin Orbit)
ペイロードフェアリング(Image:Virgin Orbit)

 1月17日、ランチャー・ワンを搭載したボーイング747-400「コスミック・ガール」は、カリフォルニア州のモハーヴェ砂漠にあるモハーヴェ航空宇宙港を現地時間の10時50分に離陸しました。

飛行するコスミックガール(Image:Virgin Orbit)

 カリフォルニア州の西に浮かぶチャンネル諸島近くの太平洋上空で、コスミック・ガールから分離されたランチャー・ワンは、予定通りロケットエンジンに点火。宇宙へ向けて上昇を始めました。

コスミック・ガール機内の発射管制卓(Image:Virgin Orbit)

 ランチャー・ワンは順調に飛行を続け、ブリガムヤング大学やミシガン州立大学、ルイジアナ州立大学ラファイエット校などが開発した超小型衛星(キューブサット)10機を予定した軌道に投入。打ち上げは成功しました。

ペイロードのキューブサット(Image:Virgin Orbit)

 これまで、ノースロップ・グラマンの「ペガサス」を含め、空中発射式ロケットの打ち上げでは弾道飛行までで、ペイロードを地球周回軌道に投入するまでには至りませんでした。今回の打ち上げ成功で、空中発射式ロケットが人工衛星打ち上げに使用できることを実証したことになります。

 ヴァージン・オービットのダン・ハートCEOは「宇宙への新しい扉が開かれました!ランチャー・ワンが地球周回軌道へ到達したのは、チームの才能、精度、意欲、そして創意工夫の結果です。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大という状況に直面しても、我々チームはこの革新的な打ち上げシステムの成功へ向け、全集中で取り組んできました。それが今日、素晴らしい結果によって報われたのです。こんなに幸せなことはありません」と興奮を抑えきれないコメントを発表しました。

 また、ヴァージン・グループを率いるリチャード・ブランソン氏は「ヴァージン・オービットは、これまで不可能だと思われてきたことを成し遂げました。打ち上げ用に改修されたヴァージン・アトランティック航空のボーイング747「コスミック・ガール」から離れたランチャー・ワンが、宇宙を目指して上昇していく様子を目にするのは、とても刺激的でした。この素晴らしい飛行は長年の努力の集大成であり、新世代のイノベーターたちに新しい地球周回軌道への手段を提供するものです。ダンとそのチームが、打ち上げミッションを通じて世界をよりよく変えていく将来が待ちきれません」とのコメントを発表。こちらも喜びに満ち溢れています。

 ヴァージン・オービットでは今回の打ち上げ成功を受け、正式に商用打ち上げに移行すると発表しました。これまでにイギリス空軍やアメリカ宇宙軍、民間企業のスワーム・テクノロジーズ、イタリアのSITAEL、デンマークのGomSpaceからの衛星打ち上げ依頼が寄せられているとのことです。

https://twitter.com/Virgin_Orbit/status/1350960438444511232

<出典・引用>
ヴァージン・オービット プレスリリース
Image:Virgin Orbit/NASA/Northrop Grumman

(咲村珠樹)