懐かしい感じの少女まんがが、突如2020年5月21日付の新聞に掲載されました。画風だけでなく、ストーリー展開も紙面のノリも、まさに1970年代の少女まんが雑誌そのものといった感じ。掲載されるやネット上には「(再現度に)驚いた」といった声があげられており、実は筆者も反応してしまった一人です。

 それにしてもあまりに高い再現度。広告主のフマキラーに企画した経緯について聞いてみました。

 1970年代風少女まんがの広告が掲載されたのは、2020年5月21日付の朝日新聞朝刊。まんが家フマキラー先生の「遠キョリGoki・Doki大作戦!」と題された作品「生徒会長はGがお好き?!」は、フマキラーのゴキブリ退治スプレー「ゴキファイタープロ ストロング」の全面広告でした。

 主人公は、ゆるいウェーブのかかったロングヘアが印象的な不磨(ふま)キラリ。恋愛には縁遠く、ゴキブリ退治にしか興味がないという、フツー(?)の女の子です。キラリの通う学校には、大財閥の御曹司で文武両道に秀でたイケメンの御木(ごき)生徒会長がいて、女生徒の人気を集めていました。

 この御木生徒会長、スポーツ万能を示すものとして、女生徒の口から「プロ野球とアメフトからオファーが来てるって噂よ!」と紹介されています。なぜアメフト?と思う方もいるでしょうが、実際1970年代、なぜかアメフト(NFLだけでなく競技全体)が子供の間で人気になったのです。1975年に放送された「仮面ライダーストロンガー」では、主人公が大学時代アメフト部員でしたし、1976年に放送されたアニメ「UFO戦士ダイアポロン」では、主役ロボのダイアポロンをはじめ、各キャラクターの衣装がアメフトをモチーフにしたデザインでした。

 クールに振る舞う御木生徒会長を「冷たい」と嫌うキラリの友人ですが、キラリは「私だけは本当の彼を知っている」と心の中でつぶやきます。主人公だけが彼の普段と違う一面を知っている……というのは、当時の少女まんがでは王道の展開ですね。そしてキラリは、彼のシルエットに触角と羽らしきものを見てしまうのです……。

 御木の本当の姿(?)を知ったキラリは、すぐにアタック開始。その様子を友人は「超速起動」と表現します。さらにキラリは離れたところからウインクと投げキッス。それだけでなく、御木を待ち伏せてイチコロにしてしまいます……イチコロの意味が違う(混乱)。

 この広告は朝日新聞社のメディアビジネス局によるものですが、広告主であるフマキラーに話を聞くと、フマキラー史上最長(18cm)ノズルとなった「ゴキファイタープロ ストロング」の商品特長をアピールするのがコンセプトだったとのこと。ゴキブリに近づくと「ドキッ」とする感情と、恋愛の「ドキドキ」をダジャレで繋げてみたんだそうです。

 もともと2019年の商品発売時、同じ朝日新聞(4月22日付)に「フマキラーがお贈りする乙女チック殺虫ロマンス!」として、連載予告風のイラストとして「遠キョリGoki・Doki大作戦!」の広告を掲載していました。ちょうど平成から令和へと時代が移り変わる時期だったこともあり、過去を振り返る意味でも「昔の少女まんが風のイラスト」はインパクトが強いのではないか、という発想だったそうです。

 本来単発の企画だったそうですが、これが好評だったこともあり、2020年も同じモチーフで読者に楽しんでもらえる広告ができないか、ということで「遠キョリGoki・Doki大作戦!」を発展させることにしたとのこと。新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅時間が増えていることもあり、じっくり読んで楽しんでもらえるよう、ストーリーまんが形式を採用したそうです。

 ストーリーまんがにする、と決まったことで、2019年のイラストでは設定されていなかったキャラクターの名前や性格などを新たに設定。ここで、憧れの先輩である御木を生徒会長にする(当時の少女まんがでは、生徒会長のような優等生キャラか、逆に不良的な存在が典型的なヒロインの相手役でした)ことにしたといいます。

 ストーリ展開は少女まんがの王道である恋愛を軸にしつつ、広告でもあるので商品の特長であるロングノズルでの「遠距離攻撃」「超速起動」や「待ち伏せ効果」の要素をうまく恋愛テクニックに落とし込むことに留意したとのこと。ページ数も少ない中で要素をカバーするのは大変だったことがうかがえます。

 また、芸が細かいと思うのは絵柄だけでなく、まんがの周りに配された「フマキラー先生の漫画が読めるのは朝日新聞だけ!」や読者投稿、またファンレターの宛先(フマキラー本社の住所になっている)やアオリ文句といった小ネタの数々。しかも、まんが雑誌でよく使われているザラ紙(仙花紙)の質感まで印刷で表現。このこだわり……。

 これについては、当時の少女まんが雑誌を資料として収集し、研究を重ねてそれっぽい雰囲気を出すようにこだわったとのこと。筆者は「ベルサイユのばら」や「エースをねらえ!」などが1970年代に連載されていた「マーガレット」っぽいな、と思ってしまいました。

 芸の細かい1970年代風少女まんがのインパクトが強い広告ですが、一方でこの広告の下半分には、フマキラーが展開するちびっ子アスリート応援プロジェクトの一環である「親バカ新聞」キャンペーンの告知もされています。特設サイトにアクセスすると、なにげない子どもの成長の瞬間を世界で1つだけの新聞にすることができるとのこと。懐かしさ満点の少女まんがと、最新のキャンペーンが同居するのもまた、この広告の面白いところかもしれません。

<記事化協力>
フマキラー株式会社

(咲村珠樹)