「うちの本棚」45回は、前回紹介した『処刑人ゴッド』に続く芸文コミックスのニヒルなヒーローを取り上げます。

「軍曹(サージェント)」と呼ばれる一匹狼の日本人スナイパーを主人公とするアクション劇画。同じ芸文コミックスで刊行されていた南波健二の『処刑人ゴッド』同様、さいとう・たかをの『ゴルゴ13』を意識して描かれたのは明らかで、ヨーロッパを中心に海外を舞台にしたところなどもそのためだろう。


第1話ではパレスチナ解放軍とのつながりも匂わせ、日本大使館員(実は内閣調査室職員)とも面識があるなど、一匹狼ではあるがそうとうな実力のある印象だが、第3話になるとハリウッドなどのスターやセレブの情報に詳しい「スキャンダル・ハンター」と説明されるシーンがあるなど『暴力特急』というタイトルで単行本にまとめられているが初出時には同じサージェントが主人公の別作品だった可能性もある。

だいたい『暴力特急』というタイトルがどうして付けられたのかよくわからない。第1話冒頭に列車のシーンが描かれるが、ほかに「特急」をイメージするシーンもなく、サージェントがむやみにキレる暴力的な人物ということでもない。

あとがきで江波は、実写映画ではなく劇画だからこそ出来た作品であることを強調。とはいえ細部にはこだわり、列車の時刻表などは現地のものをキチンと調べて描いたといっている。

サージェント自身モテる設定のようだが、全体として濡れ場の多い印象もある。もっともこれは掲載誌のカラーだったのかもしれない。

江波じょうじは貸本劇画『トップ屋ジョー』で人気をはくし、マンガ雑誌に活躍の場を移してからは『ウルトラQ』『キャプテンスカーレット』『シルバー仮面』などのコミカライズも手がけている。代表作は滝沢 解原作の『警察拳銃』になるだろうか。オリジナル作品では『カメラマン・サム』もある。

南波健二や江波じょうじ世代の劇画作家の作品が現在ほとんど埋もれてしまっているのは残念な気がする。ことに江波のコミカライズ作品はまったく単行本化されていないので、どこかで復刻していただきたいものである。

書 名/暴力特急
著者名/江波じょうじ(原作・鴨居達比古)
収録作品/暴力特急・全5話
発行所/芸文社
初版発行日/昭和50年5月2日
シリーズ名/芸文コミックス

■ライター紹介
【猫目ユウ】

フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。