結婚相談所を舞台とした異色ミステリー『あいの結婚相談所』(原作:加藤山羊 作画:矢樹純)。元動物行動学の准教授で奇々怪々な主人公・藍野真伍がヒトと動物の行動を比較しつつ結婚相談に応じ成婚に導いていくという1話完結の物語です。

 藍野は小さいと言えど一結婚相談所の所長ですが、それらしからぬ発言や行動は癖になると読者からも好評なんだとか。他とは違い成婚率が100%、入会金が200万円という何もかも破格な結婚相談所ですが、藍野所長自身が幅広い知識と経験を武器に凄腕カウンセラーとして活躍し、相談に訪れる婚活中の人々の希望を叶えていきます。

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■3巻発売の切ない経緯が4コマに ドラマ化ほぼ確実→白紙→3巻帯無しが決定するまで

 『あいの結婚相談所』は原作者である加藤山羊さんが公式Twitterにて3巻発売までの経緯を漫画「帯のない新刊ができるまで」として配信しており、それがネットで話題になっていました。あまりに切ないと……。

作者自らまとめたtogetterは17万view突破

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 そもそも『あいの結婚相談所』は連載をしていた小学館『ビックコミックオリジナル増刊号』でのアンケートで上位3位に入るほど好評だったそうですが、いかんせん単行本が売れていないという苦しい状況ゆえに2巻が決まった時点で2巻が売れない限りは3巻は難しいと言い渡されてしまったそうです。 そんな中、テレビ局直々にドラマ化のオファーが。ほぼ確定となっていたところ、何の因果か編成局の局長が異動になってしまい、新しくやってきた局長の方針でドラマ化の話が全て白紙に戻ってしまったのでした。

 そんな状況の中、3巻を出すのは出版社としても赤字でしかないはずでしたが、今回のことで作者2人に迷惑をかけたことを理由に赤字覚悟ながら「帯なし」という条件のもと発売されることになったそうです。

■読んでみた

 「話題になっているのなら、とりあえずは読んでみよう」というのが編集部のスタンスです。おもしろくなければ容赦なくボツネタに。ネットメディアというとなんでもかんでも手当たり次第と思われるかもしれませんが、意外とまじめに記事作りを行っているのです。グルメのつくってみたしかり、編集部はボツネタの山だったりします。

 そんな訳で編集部のネタ会議を経て今回も読んでみようということに。それでおもしろいのなら記事に、面白くないのなら記事にはしないことを条件にシビアな目で読んでみたところ、主人公の奇っ怪なキャラクターと一筋縄ではいかないミステリー調の物語が非常におもしろく、たしかにドラマ向きでもあると感じたのでした。

 崖っぷち&多くの人に読んで欲しいと思う作品のため、内容紹介は軽くにとどめますが、まず、主人公の藍野所長は結婚相談所に訪れる人のある種ワガママとも取られかねない結婚相手への条件を聞き入れ、その相手を早々に見つけます。それは入会金が破格の200万円で成婚率100%だからという前に、彼の趣味である動物行動学への欲を満たすためのようにも見えなくはありません。彼はあくまで双方の“本当の希望”が相手に伝わっていなくても、ビジネスとして成婚させます。それで幸せになるかどうかは神のみぞ知ること。

 現実の結婚だって綺麗事ばかりではないことは読者の皆さんが一番知っていること。「頑張って婚活していたから幸せになれる」という話ばかりを読んでも何ら心に響くことはありません。それゆえ、すっきりとした落とし所をつけつつ現実の厳しさや皮肉もちゃんと含んだ『あいの結婚相談所』は、だからこそ掲載誌のアンケートでも毎月上位に食い込むほど多くの読者の共感を得ていたのではないでしょうか?

 「おもしろい」と評されるのに売れていない本書。4巻もなんとか2017年1月に発売されることが決まったそうですが、これが最終巻となるかもしれません。しかし「おもしろい」「おもしろくない」と真の評価を下せるのは個々の読者。また、読者次第で状況が覆ることはこれまでの本の歴史において多々あったこと。 まずは小学館ページで配信される試し読み1話から読んでみて、その作品の評価を感じてみてみてはいかがでしょうか。 作品を生かすも殺すも読者次第です。

 余談ですが本書を読んだ編集部女子の間で「もしドラマ化されたなら配役は……」という話で勝手に盛りあがってしまいました。勝手な欲望ですが主人公の藍野所長は菅田将暉さんが演じてくれたらなぁ。と。あくまで勝手な希望ですけどね。

▼参考
小学館・あいの結婚相談所1
togetterまとめ

(貴崎ダリア)